

「働きたい気持ちはあるけれど、今の体調で仕事を続けられるか不安」「休職や退職のあと、いきなり一般就労に戻る自信がない」「就労移行支援、A型、B型という言葉を聞いたけれど、違いがよく分からない」。精神科・心療内科の外来では、このような相談を受けることがあります。
うつ病、適応障害、不安障害、発達障害、双極症、統合失調症などの経過の中で、働くことに不安を感じる方は少なくありません。働くことは、収入を得る手段であると同時に、生活リズム、社会とのつながり、自己肯定感にも関係します。その一方で、体調が十分に回復していない時に無理をすると、再び心身の負担が大きくなることもあります。
大切なのは、「働けるか、働けないか」を急いで白黒で決めることではありません。今の体調、生活リズム、集中力、対人関係の負担、通勤の負荷、症状の波などを整理しながら、その人に合った働き方を段階的に考えることが重要です。その選択肢の一つとして、就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型があります。
💡この記事のポイント
就労支援は、「すぐに普通に働くための場所」だけではありません。体調や生活リズムを整えながら、一般就労を目指す方法、雇用契約のもとで働く方法、雇用契約なしで作業から始める方法など、段階に応じた選択肢があります。
就労支援とは、病気や障害、生活上の困難などにより、働くことに不安や支障がある方に対して、就職や働き続けることを支える仕組みです。精神科・心療内科に通院している方の場合、「働きたい」という気持ちがあっても、症状の波、疲れやすさ、対人緊張、朝起きられない、集中が続かない、ミスへの不安が強いなど、さまざまな課題が重なることがあります。
このような時に、いきなり週5日・フルタイム・対人負荷の高い仕事に戻ろうとすると、心身の負担が大きくなりやすいことがあります。もちろん、すぐに一般就労が可能な方もいます。しかし、少し段階を踏んだ方が安定しやすい方もいます。就労支援は、その人の状態に合わせて、働く準備、仕事の練習、職場への定着を支える役割を持っています。
✅ 就労支援で整理しやすいこと
ここで大切なのは、就労支援を利用することは「能力がない」という意味ではないということです。むしろ、自分の状態を理解し、無理のない形で社会参加を続けるための現実的な準備と考えることができます。心身の不調がある時ほど、気合いや根性だけで乗り切ろうとすると、再発や悪化につながることがあります。支援を使いながら働くことは、弱さではなく、安定して生活するための工夫です。
就労移行支援は、一般企業などで働くことを目指す方に対して、一定期間、就職に向けた訓練や支援を行う障害福祉サービスです。一般就労に向けて、生活リズム、ビジネスマナー、パソコン作業、コミュニケーション、応募書類の作成、面接練習、職場実習などを行うことがあります。
精神科・心療内科に通院している方にとって、就労移行支援の大きな意味は、単に就職活動を手伝ってもらうことだけではありません。通所を通じて、朝起きて外に出る、決まった時間に活動する、人と同じ空間で過ごす、疲れた時の対処を学ぶなど、働く前の土台を確認できることにあります。
✅ 就労移行支援で行われることの例
就労移行支援が合いやすいのは、「今すぐ一人で就職活動を進めるのは不安だが、将来的には一般企業で働きたい」という方です。たとえば、休職や退職後にブランクがある方、対人関係でつまずきやすい方、体調の波を自分で把握したい方、障害者雇用も含めて働き方を検討したい方などが利用を考えることがあります。
一方で、就労移行支援は一般就労に向けた訓練の場です。そのため、体調がまだ不安定で、週に数回の通所も大きな負担になる場合には、まず医療や生活支援を優先した方がよいこともあります。通所そのものが強いストレスになってしまう場合、「就職に近づいている」というより、疲労や自己否定が強まってしまうこともあります。
🌱 重要な視点
就労移行支援は、「早く就職するために無理をする場所」ではありません。自分の得意・不得意、疲れやすい場面、必要な配慮を整理しながら、働く準備を進める場所です。
就労継続支援A型は、一般企業で働くことがすぐには難しいものの、雇用契約を結んで働くことが可能な方に対して、働く機会を提供する障害福祉サービスです。A型では、原則として事業所と雇用契約を結びます。そのため、勤務時間や業務内容、賃金、勤怠など、働く上でのルールが比較的はっきりしています。
A型の特徴は、福祉サービスでありながら、実際に雇用契約に基づいて働く点です。作業内容は事業所によって異なりますが、軽作業、清掃、食品関連作業、事務補助、パソコン作業、データ入力、施設外就労などがあります。一般就労よりも支援を受けやすい環境で、働く経験を積むことができます。
✅ A型の特徴
A型が合いやすいのは、「ある程度決まった時間に通える」「作業に継続して取り組める」「支援があれば働ける」「一般企業よりも配慮のある環境で働きたい」という方です。休職や退職を経験した後に、いきなり一般就労に戻ることに不安がある場合、A型で働くリズムをつくることが選択肢になることがあります。
ただし、A型は雇用契約を結ぶため、誰でも必ず利用できるというものではありません。事業所ごとの仕事内容や勤務条件があり、面接や選考が行われる場合があります。また、雇用契約がある分、体調が非常に不安定な時期には負担が大きいこともあります。A型を検討する際には、「働けるか」だけでなく、その事業所の作業内容が自分に合っているか、通勤できる距離か、週何日から始められるかを確認することが大切です。
就労継続支援B型は、雇用契約を結んで働くことが現時点では難しい方に対して、作業や生産活動の機会を提供する障害福祉サービスです。B型では、A型のような雇用契約は結ばないため、一般的には賃金ではなく工賃という形で支払われます。
B型の大きな特徴は、比較的その人のペースに合わせて利用しやすいことです。事業所によって違いはありますが、短時間から通う、週数日から始める、体調に合わせて作業量を調整するなど、柔軟な形を取りやすい場合があります。そのため、長く働くことから離れていた方、生活リズムを整える段階の方、対人緊張が強い方、まずは外に出る機会を作りたい方にとって、選択肢になることがあります。
✅ B型の特徴
B型は、「まだ働く自信がないから何もしない」という状態と、「いきなり一般就労を目指す」という状態の間にある選択肢として考えることができます。精神症状が落ち着いてきても、長期間自宅中心の生活が続くと、外出、対人交流、作業への集中、時間管理などが負担になりやすいことがあります。B型は、そのような段階で、少しずつ活動量を増やす場になることがあります。
一方で、B型も事業所によって雰囲気や作業内容が大きく異なります。静かな環境のところもあれば、会話が多いところもあります。軽作業中心のところ、創作活動に近いところ、パソコン作業を行うところなどもあります。自分に合うかどうかは、パンフレットだけでは分かりにくいため、見学や体験を通じて確認することが重要です。
就労移行支援、A型、B型は、どれも働くことに関係する支援ですが、目的が異なります。大まかに言うと、就労移行支援は一般就労に向けた準備、A型は雇用契約を結んで支援を受けながら働く場、B型は雇用契約なしで作業や社会参加から始める場です。
就労移行支援
一般企業などで働くことを目指して、訓練・就職活動・職場実習などを行う支援。働く準備を整える段階に向いています。
就労継続支援A型
雇用契約を結び、支援を受けながら働くサービス。ある程度決まった時間に働ける方に向きやすい選択肢です。
就労継続支援B型
雇用契約を結ばず、作業や生産活動を通じて社会参加を目指すサービス。体調やペースに合わせて始めやすい場合があります。
📌 違いの目安
目的
就労移行支援:一般就労への準備
A型:雇用契約のもとで働く
B型:作業や社会参加から始める
雇用契約
就労移行支援:原則なし
A型:あり
B型:なし
向きやすい段階
就労移行支援:就職準備をしたい段階
A型:支援があれば働ける段階
B型:生活リズムや作業から整えたい段階
注意点
いずれも事業所ごとに雰囲気、作業内容、支援体制、利用条件が異なります。見学や相談を通じて確認することが大切です。
このように見ると、3つの支援は上下関係ではありません。「B型よりA型が上」「A型より一般就労が偉い」という話ではありません。大切なのは、その時点の体調や生活状況に合っているかどうかです。合わない段階に無理に進むと、かえって疲弊してしまうことがあります。反対に、今の状態に合った場所から始めることで、少しずつ自信を取り戻せることがあります。
就労支援を選ぶ時に大切なのは、「最終的にどうなりたいか」と「今どの段階にいるか」を分けて考えることです。将来的には一般企業で働きたい方でも、今すぐ就職活動をするより、まず生活リズムを整えた方がよい場合があります。反対に、すでに生活リズムが安定しており、通所や作業も可能であれば、就労移行支援やA型を具体的に検討できる場合もあります。
✅ 選ぶ時に考えたいこと
たとえば、現在ほとんど外出できておらず、昼夜逆転もある場合には、いきなり就労移行支援やA型を週5日で利用することは負担が大きいかもしれません。その場合、まずは医療、生活支援、短時間の外出、B型の見学などから始める方が現実的なことがあります。
一方で、生活リズムがある程度整っており、「働く練習をしたい」「就職活動を一人で進めるのが不安」「職場で必要な配慮を整理したい」という場合には、就労移行支援が合うことがあります。さらに、「支援を受けながら実際に働きたい」「雇用契約のある形で働く経験を積みたい」という場合には、A型が選択肢になります。
⚠️ 焦りすぎないことも大切です
「早く働かないといけない」と焦るほど、自分の体調を無視しやすくなります。就労支援は、焦って結論を出すためではなく、今の状態を整理しながら働き方を考えるための仕組みです。
精神科・心療内科では、就労支援について次のような相談がよくあります。「主治医から見て、今働けますか」「A型とB型のどちらがよいですか」「障害者雇用を考えた方がよいですか」「診断書は必要ですか」「職場に病名を伝えた方がよいですか」などです。
これらの相談に対して、医療機関では、現在の症状、睡眠、食欲、意欲、集中力、通院状況、服薬状況、過去の就労歴、休職や退職の経緯などを確認しながら考えます。働くことは大切ですが、働くことによって症状が大きく悪化する場合には、まず治療や生活の安定を優先した方がよいこともあります。
✅ 医療機関で確認することがある内容
特に精神疾患の場合、見た目だけではつらさが分かりにくいことがあります。本人も「このくらいなら大丈夫」と思っていても、実際に通勤、作業、人間関係、責任、締切などが重なると、急に負担が増えることがあります。逆に、「自分はもう働けない」と感じていても、環境調整や段階的な支援によって、少しずつ働く力を取り戻せることもあります。
そのため、就労支援を考える時には、主治医、相談支援専門員、自治体の障害福祉窓口、就労支援事業所、ハローワークなど、複数の機関と相談しながら進めることが大切です。一人で全てを判断しようとすると、焦りや不安が強くなりやすいためです。
就労支援を考える時に、障害者雇用という言葉も出てきます。障害者雇用とは、障害のある方が、障害特性や必要な配慮を踏まえて企業などで働く仕組みです。精神障害者保健福祉手帳を持っている方などが、障害者雇用枠で働くことを検討する場合があります。
就労移行支援は、障害者雇用での就職を目指す際にも利用されることがあります。たとえば、応募書類の作成、面接練習、職場実習、必要な配慮の整理などです。「自分はどのような場面で困りやすいのか」「職場にどこまで伝えるのか」「通院への配慮は必要か」などを整理することは、就職後の安定にも関係します。
一方で、障害者雇用を選ぶかどうかは、簡単に決められるものではありません。病名や障害を開示することへの抵抗、キャリアへの不安、収入面、職種の選択肢、職場の理解など、考えるべきことがあります。大切なのは、「障害者雇用がよい」「一般枠がよい」と一律に決めることではなく、自分の体調や働き方に合う形を考えることです。
🧩 開示と非開示
病気や障害について職場に伝えるかどうかは、働き方に大きく関係します。伝えることで配慮を受けやすくなる場合もありますが、心理的な抵抗を感じる方もいます。主治医や支援者と相談しながら検討することが大切です。
働く支援は、就職したら終わりではありません。むしろ、精神科・心療内科に通院している方にとっては、就職後にどのように働き続けるかが重要です。就職直後は緊張感で頑張れても、数か月経つと疲労が蓄積し、睡眠の乱れ、不安、抑うつ、対人ストレスが目立ってくることがあります。
そのため、働き始めた後も、職場での困りごと、生活リズム、通院、服薬、体調変化を相談できる仕組みが大切です。就労定着支援は、就職後に働き続けるための支援として位置づけられています。職場との連絡調整や、生活面の相談、勤務継続に関する支援が行われることがあります。
✅ 就職後に崩れやすいポイント
就労支援を考える時には、「どこに就職するか」だけでなく、「どうすれば働き続けやすいか」を考えることが重要です。短期間で無理をして就職するよりも、長く安定して働ける形を探す方が、結果的に本人にとっても職場にとっても良いことがあります。
近年、就労系障害福祉サービスでは、就労選択支援という考え方も重要になっています。これは、本人が就労先や働き方についてより良い選択ができるように、就労能力や適性、希望、必要な支援などを整理するためのサービスです。
働くことに関する悩みは、本人だけでは整理しにくいことがあります。「一般就労を目指すべきなのか」「A型が合うのか」「B型から始めた方がよいのか」「今の体調で訓練に通えるのか」など、選択肢が多いほど迷いやすくなります。就労選択支援は、そのような時に、本人の希望や状態を客観的に整理し、適切な支援につなげる役割が期待されています。
精神科・心療内科の外来でも、「何から始めればいいか分からない」という相談は少なくありません。本人の希望と、実際の体調や生活状況に差がある場合もあります。たとえば、「すぐにフルタイムで働きたい」と思っていても、睡眠が不安定で週数回の外出も難しい場合には、まず生活リズムを整える必要があります。反対に、「自分は働けない」と思っていても、支援を受けながら短時間から始めることで、可能性が広がることもあります。
📌 選択を支える視点
就労支援では、「本人の希望」と「今の体調」の両方を大切にします。希望だけで進めると無理が出ることがあり、体調だけで判断すると可能性を狭めてしまうことがあります。
心の不調からの回復は、一直線に進むものではありません。良くなったと思った後に疲れが出ることもあります。通所を始めたことで自信がつく一方、他の利用者と比べて落ち込むこともあります。就職活動がうまくいかず、自己否定が強くなることもあります。
そのような時に、「自分はやはりダメだ」と結論づけてしまうと、回復の流れが止まりやすくなります。大切なのは、うまくいかなかった時に、何が合わなかったのかを整理することです。通所日数が多すぎたのか、作業内容が合わなかったのか、対人刺激が強すぎたのか、通勤距離が負担だったのか、体調の波を伝えられなかったのか。原因を分けて考えることで、次の選択肢が見えやすくなります。
💡 失敗ではなく情報
通所や就職活動が思うように進まなかったとしても、それは「自分には無理」という証拠ではありません。自分に合う環境、時間、作業量、支援の形を知るための情報と考えることができます。
精神科・心療内科の治療では、症状を軽くすることだけでなく、生活を安定させることも大切です。働くことは、その生活の一部です。だからこそ、就労支援を使う時には、「早く結果を出す」ことだけを目標にするのではなく、体調を崩しにくい働き方を一緒に探していく姿勢が大切です。
就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型は、いずれも働くことを支える大切な仕組みです。ただし、それぞれ目的が異なります。就労移行支援は一般就労に向けた準備、A型は雇用契約に基づく就労、B型は雇用契約なしで作業や社会参加を進める場です。
どの支援がよいかは、病名だけで決まるものではありません。現在の体調、生活リズム、外出のしやすさ、集中力、対人関係の負担、これまでの就労経験、本人の希望によって変わります。大切なのは、「早く働くこと」だけではなく、長く安定して生活できる働き方を考えることです。
武蔵小杉・川崎市周辺で精神科・心療内科に通院されている方の中にも、働くことについて悩んでいる方は少なくありません。働きたい気持ちがある一方で、不安や疲れやすさがあるのは自然なことです。一人で抱え込まず、医療機関、自治体の窓口、相談支援専門員、就労支援事業所などと相談しながら、自分に合った選択肢を整理していくことが大切です。
参考文献
厚生労働省「障害者の就労支援対策の状況」
厚生労働省「就労選択支援について」
WAM NET「障害福祉サービス等情報」