心のクリニック
院長ブログ
■精神科で心電図?

精神科なのに、なぜ心電図をとるのですか?」「こころの薬と心臓は関係あるのですか?」「動悸は不安のせいだと思っていたのに、心電図が必要と言われて驚いた」。精神科や心療内科の外来で、心電図の検査をすすめられると、不思議に感じる方は少なくありません。

精神科は、気分の落ち込み、不安、不眠、パニック、発達特性、ストレス反応、統合失調症、双極症など、こころの症状を診る診療科です。しかし、こころと身体は完全に別々ではありません。不安や緊張は動悸として表れることがありますし、逆に心臓や甲状腺、貧血、電解質異常などの身体の問題が、不安感や息苦しさ、焦燥感に見えることもあります。

また、精神科で使う薬の中には、まれではありますが、心電図上の変化に注意が必要なものがあります。特に重要なのが、QT延長という変化です。QT延長は、放置すると重い不整脈につながる可能性があるため、薬の種類、年齢、持病、併用薬、採血結果、症状などを見ながら、必要に応じて心電図を確認します。

💡この記事のポイント
精神科で心電図をとる理由は、「こころの病気を心臓の病気と決めつけるため」ではありません。薬を安全に使うため、動悸や息苦しさの背景を確認するため、身体の病気を見落とさないために行う検査です。すべての方に毎回必要な検査ではなく、リスクや症状に応じて行う安全確認と考えると分かりやすいです。

1. 🫀 心電図とは何をみる検査か

心電図は、心臓が動く時に生じる微弱な電気信号を、身体の表面から記録する検査です。胸や手足に電極をつけて、心臓のリズム、拍動の速さ、電気の流れ方などを確認します。痛みはなく、通常は数分で終わる検査です。

心電図で分かることには、たとえば次のようなものがあります。

  • 脈が速すぎないか、遅すぎないか
  • 不整脈が出ていないか
  • 心臓の電気の流れに乱れがないか
  • QT延長など、薬と関連する変化がないか
  • 以前の心電図と比べて変化がないか

ただし、心電図は万能な検査ではありません。心電図をとった瞬間に異常が出ていなければ、すべての心臓病を否定できるわけではありません。たとえば、発作的に出る不整脈は、検査時に出ていなければ記録されないこともあります。その場合には、症状の内容に応じて、循環器内科でホルター心電図などの詳しい検査が必要になることがあります。

精神科外来で行う心電図は、多くの場合、安全確認のためのスクリーニングです。薬を始める前、薬を増やす時、薬の組み合わせが変わる時、動悸や失神などの症状がある時に、心臓の状態を確認する目的で行います。

2. 🔍 精神科で心電図をとる主な理由

精神科で心電図を確認する理由は、大きく分けると薬の安全確認症状の鑑別身体疾患の見落とし予防の3つです。

✅ 精神科で心電図を確認する場面

  • 抗精神病薬を開始・増量・併用する時
  • 抗うつ薬の種類や用量、併用薬に注意が必要な時
  • 動悸、胸の違和感、息苦しさがある時
  • 失神、めまい、ふらつきがある時
  • 高齢の方、心疾患の既往がある方に薬を使う時
  • 摂食障害、低栄養、嘔吐、下剤乱用などで電解質異常が疑われる時
  • 複数の薬を併用しており、QT延長のリスクを確認したい時

精神科の薬は、脳に作用する薬ですが、身体全体にも影響します。眠気、口渇、便秘、体重増加、血糖・脂質への影響、ふらつきなどと同じように、心臓への影響も副作用の一つとして確認することがあります。

ここで大切なのは、「心電図をとる=危険な薬を出されている」という意味ではないことです。むしろ、薬を安全に続けるために、事前に確認していると考えてください。血液検査で肝機能や腎機能、甲状腺機能、血糖値などを確認するのと同じように、心電図も安全管理の一部です。

3. 🧠 精神科の薬とQT延長

精神科で心電図が話題になる時、特に重要なのがQT延長です。QTとは、心電図の波形の一部を表す言葉です。心臓の筋肉が電気的に興奮し、その後もとの状態に戻るまでの時間の一部を反映しています。

このQTが長くなりすぎると、心臓の電気的な回復に時間がかかっている状態と考えられます。QT延長があると、まれにトルサード・ド・ポアンツという特殊な心室性不整脈につながることがあります。この不整脈は、めまい、失神、突然の意識消失、重い場合には突然死の原因になることがあるため、注意が必要です。

⚠️ QT延長は「症状が出てから気づく」では遅いことがあります
QT延長は、自覚症状がないまま心電図で見つかることがあります。そのため、薬の種類や体調、持病、併用薬によっては、症状がなくても心電図を確認する意味があります。

QT延長に注意が必要な薬には、抗精神病薬、三環系抗うつ薬、一部のSSRI、制吐薬、抗菌薬、抗ヒスタミン薬、不整脈の薬など、精神科以外の薬も含まれます。つまり、精神科の薬だけが問題なのではなく、複数の薬の組み合わせや、身体の状態によってリスクが変わります。

たとえば、同じ薬でも、若くて心疾患がなく、採血で電解質異常がない方と、高齢で心疾患があり、利尿薬を飲んでいて、低カリウム血症がある方では、注意の程度が変わります。精神科では、薬の効果だけでなく、こうした身体的な背景も含めて治療を考えます。

4. 💊 心電図に注意することがある精神科の薬

精神科で心電図を確認することがある薬として、まず挙げられるのが抗精神病薬です。抗精神病薬は、統合失調症だけでなく、双極症、うつ病の補助療法、強い不安や焦燥、不眠、興奮、せん妄など、さまざまな場面で使われることがあります。

抗精神病薬の中には、QT延長に注意が必要なものがあります。すべての抗精神病薬で同じリスクがあるわけではありませんが、薬の種類、用量、併用薬、体質によって心電図確認が必要になることがあります。

💊 心電図を確認することがある薬の例

  • 抗精神病薬:統合失調症、双極症、強い不安・焦燥、不眠などで使用されることがあります
  • 三環系抗うつ薬:うつ、不安、慢性疼痛、不眠などで使われることがあります
  • 一部のSSRI:薬剤や用量、年齢、併用薬によって注意が必要なことがあります
  • リチウム:心疾患や心血管リスクがある場合、心電図を確認することがあります
  • ADHD治療薬:通常は全員に心電図が必要というわけではありませんが、心疾患や失神歴などがある場合は確認します

抗うつ薬についても、薬の種類によって心電図への注意度は異なります。特に三環系抗うつ薬は、過量服薬時の危険性や心電図変化に注意が必要です。一部のSSRIでも、用量、年齢、心疾患、併用薬によってはQT延長に注意します。

リチウムは、双極症の治療や再発予防で重要な薬ですが、腎機能、甲状腺機能、血中濃度などの確認が必要な薬です。心疾患がある方や心血管リスクが高い方では、心電図を確認することがあります。

ADHD治療薬については、「薬を始める前に全員が心電図をとらなければならない」というわけではありません。ただし、先天性心疾患、心臓手術歴、若年突然死の家族歴、運動時の失神、急に始まり急に止まる強い動悸、胸痛、高血圧などがある場合には、心電図や循環器内科での評価が重要になります。

5. 🧪 心電図だけでなく採血も大切

QT延長や不整脈のリスクを考える時、心電図だけでなく採血も重要です。なぜなら、心臓の電気的な安定には、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの電解質が関係しているからです。

特に、低カリウム血症や低マグネシウム血症があると、QT延長や不整脈のリスクが高くなることがあります。摂食障害、過度な食事制限、嘔吐、下剤や利尿薬の使用、脱水、腎機能低下などがある場合には、心電図と採血を組み合わせて確認することがあります。

✅ 心電図と一緒に確認することがある項目

  • カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムなどの電解質
  • 腎機能:薬の排泄や電解質バランスに関係します
  • 肝機能:薬の代謝に関係します
  • 甲状腺機能:動悸、不安感、気分変動と関係することがあります
  • 血糖、脂質:抗精神病薬の副作用確認で重要です
  • リチウムやバルプロ酸などの血中濃度:薬を安全に使うために確認します

精神科で採血や心電図を行うと、「こころの病気なのに、身体の検査が必要なのか」と感じる方もいます。しかし、精神科治療では、こころの症状だけでなく、睡眠、食事、体重、血圧、脈拍、ホルモン、薬の副作用も含めて全体をみることが大切です。

たとえば、甲状腺機能亢進症では、動悸、発汗、不安感、焦り、不眠、体重減少がみられることがあります。貧血でも、息切れ、疲労感、動悸、不安感に似た症状が出ることがあります。血糖の乱れや脱水も、だるさ、焦燥感、集中困難に関係することがあります。

つまり、精神科での身体検査は、「こころの問題ではない」と否定するためではなく、こころと身体の両方から安全に治療するために行うものです。

6. 😰 不安・パニック発作と心電図

不安症やパニック発作では、動悸、息苦しさ、胸の圧迫感、手足のしびれ、めまい、冷や汗、吐き気、「このまま死ぬのではないか」という強い恐怖が出ることがあります。これらはパニック発作としてよくみられる症状ですが、患者さん本人にとっては非常に苦しく、心臓の病気ではないかと不安になることも自然です。

パニック発作では、自律神経が強く反応し、心拍数が上がり、呼吸が浅く速くなります。その結果、胸の違和感や息苦しさがさらに強くなり、「心臓がおかしいのでは」と感じて不安が増すことがあります。

💡動悸がある時の考え方
動悸があるからといって、必ず心臓病というわけではありません。一方で、動悸をすべて「不安のせい」と決めつけるのも危険です。症状の出方、年齢、持病、内服薬、家族歴などを確認し、必要に応じて心電図で身体面も確認します。

特に、次のような場合には、精神科だけでなく、内科や循環器内科での評価が必要になることがあります。

⚠️ 早めに身体的評価が必要な症状

  • 胸痛が強い、冷や汗を伴う
  • 失神した、意識が遠のいた
  • 運動中に動悸や胸痛、失神が出る
  • 急に始まり、急に止まる強い動悸がある
  • 脈が非常に速い、または不規則に感じる
  • 心臓病の既往がある
  • 若くして突然死した家族がいる

不安やパニックの治療において、心電図を確認することは、患者さんを安心させる意味でも役立つことがあります。「心臓の病気ではないか」という不安が強い場合、必要な範囲で身体的な確認を行ったうえで、不安症状として治療を進める方が、納得感を持って治療に取り組めることがあります。

7. 🍽 摂食障害・低栄養と心電図

摂食障害、強い食事制限、嘔吐、下剤乱用、利尿薬の使用がある場合には、心電図が特に重要になることがあります。低栄養や電解質異常は、心臓のリズムに影響することがあるからです。

体重が著しく低い場合、脈が遅くなることがあります。また、嘔吐や下剤乱用が続くと、低カリウム血症などの電解質異常が起こり、QT延長や不整脈のリスクが高まることがあります。本人は「慣れている」「いつものこと」と感じていても、身体の中では危険な変化が進んでいることがあります。

摂食障害で確認したい身体リスク

  • 徐脈:脈が遅くなりすぎていないか
  • 低血圧:立ちくらみや失神につながらないか
  • 低カリウム血症:嘔吐、下剤、利尿薬で起こることがあります
  • QT延長:薬や電解質異常と重なると注意が必要です
  • 脱水、腎機能低下:薬の安全性にも関係します

摂食障害の治療では、心理的な支援だけでなく、身体の安全を守ることが非常に重要です。心電図や採血は、患者さんを責めるための検査ではありません。治療を安全に進めるため、そして命に関わる合併症を見逃さないための確認です。

8. 👥 心電図を検討しやすい方

心電図が必要かどうかは、薬の種類だけで決まるわけではありません。年齢、持病、症状、家族歴、採血結果、併用薬などを総合して判断します。

✅ 心電図を検討しやすいケース

  • 心筋梗塞、狭心症、心不全、不整脈などの既往がある
  • 高血圧、糖尿病、脂質異常症など心血管リスクがある
  • 失神、原因不明のめまいがある
  • 動悸、胸痛、息切れがある
  • 突然死の家族歴がある
  • 高齢である
  • QT延長を起こしうる薬を複数使っている
  • 低カリウム血症などの電解質異常がある
  • 摂食障害、嘔吐、下剤乱用、脱水がある
  • 薬の増量や変更を予定している

反対に、若く、心疾患や失神歴がなく、血圧や脈拍に問題がなく、心電図リスクの少ない薬を通常量で使う場合には、必ずしも毎回心電図が必要とは限りません。大切なのは、必要な人に必要な検査を行うことです。

検査が多すぎると患者さんの負担になります。一方で、必要な検査を省略すると安全性が下がります。精神科外来では、このバランスを考えながら検査を提案します。

9. 🏥 心電図で異常が出たらどうなるか

心電図で異常が見つかった場合でも、すぐに「薬が使えない」「重い病気だ」と決まるわけではありません。異常の種類、程度、症状の有無、過去の心電図との比較、採血結果、内服薬などを確認します。

たとえば、軽度の変化で、症状がなく、過去から変わっていない場合には、経過観察になることもあります。一方で、QTcが明らかに長い場合、失神を伴う場合、胸痛や強い動悸がある場合、重い不整脈が疑われる場合には、薬の調整や循環器内科への紹介が必要になります。

💡異常が出た時の対応
薬を中止する、減量する、別の薬に変更する、併用薬を見直す、電解質異常を補正する、循環器内科に相談するなど、対応は状況によって異なります。自己判断で急に薬を止めると、症状が悪化することがあるため、必ず主治医に相談してください。

特に抗精神病薬や抗うつ薬を急に中止すると、不眠、不安、焦燥、気分の落ち込み、再発、離脱症状などが出ることがあります。心電図で気になる所見がある場合でも、薬をどうするかは、精神症状の安定と身体リスクの両方を見ながら判断します。

10. 📋 検査を受ける時の流れ

心電図検査は、痛みのある検査ではありません。胸、手首、足首などに電極をつけ、仰向けになって安静にして記録します。検査中は力を抜き、できるだけ動かずにいると、きれいな波形が記録されやすくなります。

検査前に伝えてほしいこと

  • 現在飲んでいる薬:他院処方、市販薬、漢方、サプリも含みます
  • 動悸、胸痛、息切れ、失神などの症状
  • 心臓病や不整脈の既往
  • 突然死や不整脈の家族歴
  • 嘔吐、下痢、食事制限、下剤使用の有無
  • 最近の体調変化:発熱、脱水、食欲低下など

精神科の薬だけでなく、他の診療科で出ている薬も重要です。たとえば、抗菌薬、制吐薬、抗ヒスタミン薬、胃薬、利尿薬などが、心電図や電解質に関係することがあります。お薬手帳がある場合は、受診時に持参すると安全確認に役立ちます。

また、検査を受けることに不安がある方は、そのまま伝えてください。胸に電極をつけることに抵抗がある方、過去の医療体験で不安が強い方、パニックが出やすい方もいます。検査自体は短時間で終わることが多いため、無理のない形で進められるよう相談できます。

11. ❓ よくある質問

Q. 精神科の薬を飲むなら、全員が心電図をとるべきですか?

A. 全員に毎回必要というわけではありません。薬の種類、用量、年齢、心疾患、失神歴、併用薬、採血結果などを見て判断します。必要な方には、薬を安全に使うために心電図を提案します。

Q. 心電図をとると言われると、危険な薬なのかと不安です。

A. 心電図をとることは、危険な薬を使うという意味ではありません。安全確認をしながら治療を進めるための検査です。血液検査で肝機能や腎機能をみるのと同じように、心臓の電気的な状態を確認する目的があります。

Q. 動悸は不安のせいではないのですか?

A. 不安やパニックで動悸が出ることはよくあります。ただし、動悸をすべて不安のせいと決めつけるのは適切ではありません。症状の出方やリスクによっては、心電図や内科的評価で身体面を確認することがあります。

Q. 心電図で異常がなければ、心臓は完全に大丈夫ですか?

A. 心電図は重要な検査ですが、すべての心臓病を否定できるわけではありません。発作的な不整脈は検査時に出ないこともあります。症状が続く場合や、胸痛・失神・運動時症状がある場合は、循環器内科で追加検査が必要になることがあります。

Q. 心電図で異常があったら、精神科の薬は飲めませんか?

A. 必ずしもそうではありません。異常の種類や程度によって、薬の量を調整する、別の薬に変更する、採血を確認する、循環器内科に相談するなどの選択肢があります。自己判断で中止せず、主治医と相談することが大切です。

12. 🚑 すぐに受診・相談した方がよい症状

精神科通院中であっても、次のような症状がある場合には、精神科の予約日を待たずに、救急外来や内科・循環器内科への相談が必要になることがあります。

  • 強い胸痛、胸の圧迫感が続く
  • 冷や汗、吐き気、息苦しさを伴う胸部症状
  • 失神した、意識が遠のいた
  • 脈が極端に速い、遅い、不規則に感じる
  • 運動中の胸痛、動悸、失神
  • 突然始まり突然止まる強い動悸
  • 薬の過量服薬をした可能性がある

特に、胸痛や失神は、こころの症状だけでは説明できないことがあります。「迷惑をかけたくない」「不安のせいかもしれない」と我慢しすぎず、危険な症状がある時には早めに医療機関へ相談してください。

13. 🌿 心電図は安心して治療を続けるための検査

精神科や心療内科で心電図をすすめられると、「自分はそんなに悪いのか」「心臓に問題があるのか」と不安になるかもしれません。しかし、多くの場合、心電図は病気を決めつけるためではなく、安全に治療を進めるための確認です。

こころの症状は、身体の状態と深く関係しています。眠れない日が続けば動悸が出やすくなります。不安が強ければ胸が苦しくなります。食事がとれなければ、体力が落ち、脈や血圧にも影響します。薬もまた、効果と副作用の両方を持っています。

だからこそ、精神科治療では「こころだけ」ではなく、身体の安全も大切にします。心電図、採血、血圧、体重、睡眠、食事、生活リズムを確認することは、より安全で継続しやすい治療につながります。

✅ まとめ
精神科で心電図をとるのは、こころの症状を軽く扱っているからではありません。薬の副作用、QT延長、不整脈、動悸、失神、身体疾患の可能性を確認し、安心して治療を続けるためです。心電図を提案された時は、「安全確認の一つ」と受け止め、不安な点は遠慮なく主治医に相談してください。

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