心のクリニック
院長ブログ
■日日是好日

「今日も思うようにいかなかった」「一日を振り返ると、できなかったことばかり浮かぶ」「周りの人は充実しているように見えるのに、自分は同じ場所で足踏みしている」。忙しい毎日の中で、そんな気持ちになることはないでしょうか。仕事や家事、育児、人間関係に追われていると、一日が終わるたびに、自分に厳しい点数をつけてしまうことがあります。

「日日是好日」という言葉があります。「にちにちこれこうじつ」などと読まれる禅の言葉で、文字だけを見ると「毎日がよい日」という意味に感じられます。しかし、私たちの毎日には、うれしい日も、腹が立つ日も、悲しい日もあります。つらいことが重なっているときには、「そんなふうには思えない」と感じるのも自然です。

この言葉を、こころの健康という視点から日常に生かすなら、「どんな日も楽しく過ごさなければならない」という目標にする必要はありません。むしろ、その日の気持ちや体調に気づき、うまくいかない日の自分も大切に扱う。そのような向き合い方の手がかりとして、考えてみたいと思います。

💡 この記事のポイント

「日日是好日」を、毎日を採点するための言葉にしなくて大丈夫です。悲しさや不安を否定せず、今日の自分に必要なことを一つ選ぶ。休むこと、助けを借りること、環境を変えることも、その選択に含まれます。

1. 📚 「日日是好日」の読み方と由来

「日日是好日」は、中国の禅僧である雲門文偃(うんもんぶんえん)の言葉として知られ、禅の公案集『碧巌録(へきがんろく)』の第六則に登場します。公案とは、禅の修行において考究される問いや問答のことです。読み方には「にちにちこれこうじつ」「にちにちこれこうにち」などがあり、臨済宗・黄檗宗の公式サイト「臨黄ネット」の解説では、後者の読みが用いられています。[1][2]

元の問答では、雲門が修行者たちに、十五日以前については問わないが、十五日以後について一句を述べてみよ、と問いかけ、自ら「日日是好日」と答えます。短い言葉ですが、単に天気がよい、何も問題がない、いつも幸運である、といった意味だけでは捉えきれない奥行きがあります。[1]

禅の言葉には、さまざまな解説や受け止め方があります。本記事では、その意味を一つに決めるのではなく、目の前の一日と、自分自身にどう向き合うかという観点から考えます。心理学や精神医学との共通点にも触れますが、禅の教えと医療としての心理療法は、それぞれ背景や目的が異なるものとして扱います。

2. 🌤️ 「よい日」と「気分がよい日」は同じでしょうか

私たちは、よいことが起きて気分が上がった日を「よい日」、嫌なことが起きて落ち込んだ日を「悪い日」と呼びます。それは自然な表現です。ただ、その日の気分や成果だけで一日の価値を決めると、体調が悪い日、予定をこなせなかった日、誰にも褒められなかった日は、すべて失敗に見えてしまいます。

たとえば、風邪で仕事を休んだ日は、仕事の成果という物差しでは何も進んでいないように見えます。しかし、体を休め、必要な連絡をして、悪化させないように過ごした一日でもあります。落ち込みが強い日に受診したこと、疲れに気づいて予定を減らしたことも、目立つ成果にはならなくても、自分を支える行動です。

一日の中には、違う側面が同時にあります。

  • 仕事では失敗があった。それでも、必要な報告はできた。
  • 気分は晴れなかった。それでも、昼食を取る時間をつくった。
  • 予定どおりには動けなかった。それでも、助けが必要だと伝えた。

嫌な出来事を小さく見せる必要はありません。「つらかった」と「自分を守る行動もあった」は、どちらも成り立ちます。一つの失敗が、その日のすべてを説明するわけではない。そう考える余地を残しておくことが、自分への厳しい採点を少し緩めるきっかけになります。

3. 🍃 つらい気持ちを、そのまま認める

落ち込んだとき、「こんなことで傷つく自分が弱い」「前向きになれない自分はだめだ」と、気持ちそのものを責めてしまうことがあります。最初は出来事がつらかったのに、いつの間にか、つらさを感じている自分まで否定している状態です。このときは、気持ちを変えようとする前に、「今は悲しい」「緊張が強い」と言葉にしてみる方法があります。

心理学では、自分の感情や考えを、善し悪しで裁かずに受け止める姿勢を受容と呼びます。感情や思考を受容する傾向と、ストレス時の感情反応や心理的健康との関連を調べた研究もあります。ただし、こうした研究は「つらさを受け入れれば病気が治る」と示したものではありません。[3]

日常の場面で考えてみましょう。大切な予定が中止になったとき、すぐに「別の楽しみができた」と切り替えられなくても構いません。「楽しみにしていたから、残念なんだな」と認めてから、今日どう過ごすかを考える。その順番でも十分です。気持ちを認めることと、次の行動を選ぶことは両立します。

自分への言葉の例

「こんなことで落ち込んではいけない」から、「自分にとって大事なことだったから、落ち込んでいるんだな」へ。気持ちを正当化するための議論を続けるよりも、今起きている反応を短く確かめる言葉として使ってみましょう。

「受け入れるのが難しい」という気持ちがあっても大丈夫です。深い悲しみや強い不安の中にいるときに、落ち着いた態度まで求める必要はありません。

4. 🛡️ 受け止めることと、我慢し続けることの違い

「今を大切にしよう」「あるがままを受け入れよう」という言葉が、つらい環境に耐え続ける理由になってしまうと、本来助けになるはずの言葉が重荷になります。職場の過重な負担、ハラスメント、家庭内での暴力や威圧などについて、「これも好日だと思わなければ」と考える必要はありません。

自分の気持ちを認めることと、相手の行為を容認することは別です。「傷ついている」「怖い」「もう余裕がない」と認めるからこそ、距離を取る、記録を残す、周囲や相談窓口に伝えるなど、自分を守る行動を選べる場合があります。相手を許すことや、出来事に意味を見いだすことを急ぐ必要もありません。

気持ちに対してできること

怒りや悲しみがあることを認め、落ち着ける場所や、話を聞いてもらえる相手を探します。すぐに気持ちが変わらなくても、それを責めません。

環境に対してできること

負担を減らす相談をする、断る、離れる、支援を求めるなど、状況に応じた対応を考えます。危険がある場合は、安全の確保を優先します。

こころの持ち方だけでは変えられない問題もあります。「日日是好日」を生活に取り入れるなら、今日の自分を粗末にしないことも、その中に含めてよいのではないでしょうか。

5. 🔄 振り返りが「反すう」に変わっているとき

仕事でうまく答えられなかった場面、誰かに言われた一言、過去の選択。寝る前になると何度も思い出して、「なぜあんなことをしたのだろう」と考え続けてしまうことがあります。このように、否定的な内容を繰り返し考えることは、心理学で反すうと呼ばれます。考える時間が長いほど、必ず答えに近づくとは限りません。

ここで確認したいのは、考えた結果、次にすることが具体的になっているかです。「次回は資料を先に送る」「不明点はその場で一つ確認する」と整理できるなら、実用的な振り返りです。一方、「自分はいつもだめだ」「きっと全員に嫌われた」と同じ結論を往復するばかりなら、いったん考える作業を区切ってみてもよいでしょう。

振り返りを区切るための三つのメモ

  1. 起きたこと:会議で質問にすぐ答えられなかった。
  2. 今できること:確認して、明日の午前中に回答する。
  3. 今は決められないこと:相手が自分をどう評価したか。

書き終えたら、食器を洗う、着替える、静かな音楽を聴くなど、別の行動へ移ります。また考えが浮かんでも、「考えてしまったから失敗」とする必要はありません。何度も戻ってくる考えがある中で、生活の別の部分にも少し注意を向ける練習です。

6. 🧠 頭に浮かんだ考えと、事実を分けてみる

気持ちが落ち込んでいるとき、頭に浮かぶ言葉はとても説得力を持ちます。「今日うまくいかなかった」という出来事が、「自分は何をしてもだめだ」という結論につながり、さらに「明日もきっと同じだ」という予測へ広がることがあります。しかし、出来事、自己評価、未来の予測は、それぞれ別のものです。

たとえば、「友人からまだ返信がない」は確認できる事実ですが、「嫌われた」は一つの解釈です。実際には、仕事中、体調不良、返信を考えている途中など、まだ分からないことがあります。分からない部分を、すべて自分に不利な説明で埋める必要はありません。

少し距離を取る言い方

「自分には価値がない」と浮かんだときに、「今、自分には価値がないという考えが浮かんでいる」と言い直してみます。すぐに反論できなくても、頭の中の言葉を、そのまま自分への最終判定にしないための工夫です。

WHOのストレス対処ガイドでも、つらい思考との距離の取り方や、目の前の活動に注意を戻す方法などが紹介されています。大切なのは、考えを完全に消すことを目標にせず、考えに巻き込まれたことに気づいたとき、次の行動を選び直せる余地をつくることです。[4]

気持ちに余裕がない日は、こうした言い換えさえ難しいことがあります。そのときは頭の中で解決しようとせず、「今は疲れているので、判断は後にしよう」と保留にしても構いません。

7. 🍵 「今ここ」に戻る、小さな感覚の時間

過去の後悔や未来の心配で頭がいっぱいのとき、目の前にお茶があっても、味にほとんど気づかないことがあります。マインドフルネスは、今起きている体験に、評価を急がず注意を向けるあり方です。「日日是好日」と重ねて考えられる部分はありますが、同じものとして扱う必要はありません。

日常では、特別な道具をそろえなくても、短い感覚の時間をつくれます。飲み物を一口飲んで温度を確かめる、窓の外の色に気づく、足の裏が床に触れている感覚を確かめる。ここでの目的は、すぐにリラックスすることでも、頭を空っぽにすることでもありません。「今、自分はここにいる」と確認する短い寄り道です。

お茶を飲むときの小さな実践例

カップを置いて安定した姿勢を取り、見えている色を確かめます。一口飲んだら、温度や香りに少し注意を向けます。途中で仕事を思い出しても、気づいたところから、もう一度目の前のカップに注意を戻します。

マインドフルネスを取り入れた介入には、不安や抑うつなどへの効果が研究されているものがありますが、研究の質や方法にはばらつきがあり、誰にでも同じ効果があるわけではありません。また、瞑想によって不安などの不快な体験が生じる人もいます。[5]呼吸や体に注意を向けることでつらくなる場合は中止し、目を開けて周囲を見るなど、無理のない方法を選びましょう。

8. 🤲 自分にも、身近な人に向けるような言葉を

友人が「今日は何もできなかった」と落ち込んでいたら、どう声をかけるでしょうか。「そんな日もあるよ」「ずっと忙しかったから、疲れているのかもしれないね」と伝える方も多いと思います。ところが自分のことになると、「甘えている」「もっと頑張れるはずだ」と、急に厳しい言葉になることがあります。

苦しんでいる自分に理解やいたわりを向けることを、セルフ・コンパッションと呼びます。これを育むプログラムについては、小規模な無作為化比較試験で、心理的な健康感などの改善が報告されています。ただし、短い励ましの言葉だけで同じ効果が得られると保証する研究ではありません。[6]

日常の工夫としては、自分に向ける言葉を、親しい人にそのまま言えるかどうか確かめてみましょう。「今日は役立たずだった」という言葉があまりに厳しいと感じるなら、「今日は疲れが強く、予定を減らす必要があった」と、具体的な状態を表す言葉に変えられるかもしれません。

もちろん、改善が必要なことまで見過ごす必要はありません。連絡を忘れたなら謝って連絡する、間違いがあれば修正する。その対応と、「自分はだめな人間だ」と責め続けることは分けられます。自分をいたわりながら、必要な責任を果たすという選び方もあります。

9. 🌱 小さな心地よさに気づける日も、気づけない日もある

「よかったことを見つけよう」と聞くと、旅行やご褒美、誰かからの評価など、特別な出来事を探してしまうかもしれません。しかし、日常にある心地よさは、もっと小さなものでも構いません。洗ったタオルの肌触り、帰り道の風、温かい食事、静かな部屋など、人によって違う、ささやかな感覚です。

たとえば夜に、「今日うれしかったことは何か」と尋ねると何も浮かばなくても、「少し負担が減った場面はあったか」「ほっとした瞬間はあったか」なら答えやすいことがあります。「混んでいた電車で途中から座れた」「苦手な連絡が一本終わった」といったことでも十分です。

見つからない日は、空欄のままで大丈夫です。

記録をするなら、よかったことの数をノルマにせず、書ける日に一つだけでも構いません。「今日は疲れが強かった」という記録も、自分の状態を知る情報になります。

感謝や喜びは、命令されて自然に湧いてくるものではありません。特に、以前楽しめていたことを楽しめない状態が続いている場合には、ものの見方だけの問題と考えず、体調やこころの不調について相談することが大切です。小さな喜びを感じられない自分を、さらに責める材料にしないようにしましょう。

10. 🧭 「充実した一日」より、今日大切にしたいことを一つ

「せっかくの一日だから有意義に使わなければ」と思うと、休みの日まで予定で埋めてしまうことがあります。勉強も、運動も、家事も、人づきあいもこなすつもりだったのに、半分しかできずに落ち込む。そんなときは、予定の数を増やす前に、今日、自分が大切にしたいことは何かを一つ選んでみます。

たとえば「家族との時間を大切にしたい」なら、長時間の外出を計画する以外にも、食事中に少し話を聞く方法があります。「健康を大切にしたい」なら、激しい運動だけでなく、休憩を取る、受診の予約をするという行動も考えられます。「丁寧に仕事をしたい」なら、すべてを一人で抱えず、優先順位を相談することもその一つです。

うつ病の心理療法の一つである行動活性化でも、活動と気分の関係に着目します。英国NICEの診療ガイドラインでは、本人の状態に応じて検討する治療の選択肢として示されています。[7]ただし、日常の活動を増やせばよいという単純な話ではなく、休養の必要性や負担も含めて調整することが大切です。

この記事の工夫を試す場合も、「できたかどうか」だけでなく、「今の自分に合う大きさだったか」を振り返ってみましょう。難しければ、量を減らす、別の方法に変える、誰かに手伝ってもらう。そうやって調整する余地を残しておきます。

11. 🛋️ 休んだ一日にも、自分を支える役割がある

仕事や家事を長く頑張ってきた方ほど、休むと不安になったり、「何もしていない」と罪悪感を抱いたりすることがあります。特に休職中は、周囲が働いている時間に休んでいることが気になり、毎日何かしらの成果を出そうとしてしまうかもしれません。

しかし、療養には、その時期に合った負担の調整が必要です。普段と同じ仕事量や家事量をこなせないからといって、その日の過ごし方が間違っているとは限りません。治療中の方は、睡眠や食事、外出、活動量について、主治医と相談しながら自分に合うペースを探していくことができます。

今日の基準を、今日の体調に合わせる

調子のよい日と、疲労が強い日に、同じ予定を課さなくて大丈夫です。「今日は食事と必要な連絡まで」「家事は一つだけ」と決めるなど、予定を小さくする選択もあります。

一方、休んでも疲れが取れない、昼夜が逆転して困っている、外出できない状態が続くといった場合は、「休み方が悪い」と自分を責めずに、診察で具体的に伝えてください。単に頑張るか休むかの二択にせず、症状や生活への影響を確かめながら対応を考えることが大切です。

休養を「早く元に戻るための課題」として採点すると、休む時間まで試験のようになってしまいます。今日は回復を実感できなくても、必要なケアを受けたことや、負担を減らしたことには、その日の自分を支える意味があります。

12. 📱 他人の一日と、自分の一日を比べすぎない

SNSでは、旅行、昇進、資格取得、楽しそうな集まりなど、人の生活の目立つ場面が次々に流れてきます。疲れて帰宅してそれを見ていると、自分だけが何も成し遂げていないように感じることがあります。ただ、投稿から見えるのは、その人の生活の一部です。そこに映っていない負担や迷いについては、分からないことがたくさんあります。

比較そのものを完全にやめるのは難しいでしょう。人の努力が刺激になることもあります。そこで、見た後の自分の状態を手がかりにしてみます。「参考になった」「少し元気が出た」と感じるのか、「自分を責める時間が長くなる」と感じるのか。その違いによって、見る時間帯や内容を調整しても構いません。

たとえば、寝る前は見ない、疲れている日は通知を切る、負担になる投稿から少し距離を置くといった方法があります。これは自分より優れている人を否定するためではなく、自分が休める時間を確保するための選択です。

他人と同じ出来事がなくても、自分にとって必要な一日はあります。育児をしていた一日、療養していた一日、慣れない仕事を何とか終えた一日。それぞれ条件が違うため、外から見える成果だけで同じ順位をつけることはできません。

13. 📝 こんな日には、どう考えたらよいでしょうか

ここまでの内容を、よくある日常の場面に当てはめてみます。以下は正しい気持ちになれるかを試す課題ではなく、自分に合う表現を探すための例です。しっくりこない言葉は使わなくて構いません。

仕事でミスをして、落ち込みが続く日

まず、謝罪や報告、修正など、必要な対応を確認します。そのうえで、「ミスがあった」と「自分のすべてが否定された」を分けて考えます。今日の振り返りは「明日、確認手順を一つ加える」までにして、繰り返し自分を責める時間には区切りをつけてみましょう。落ち込んだままでも、対応を進められる場合があります。

休日なのに、何もする気になれない日

「休日を無駄にした」と決める前に、睡眠不足や最近の負担を振り返ります。予定を全部こなすことを目指さず、食事を取る、着替えるなど、今の状態で無理のない行動を一つ選んでみます。休む必要があるなら、その日は予定を減らして構いません。こうした状態が続く場合は、体調について相談しましょう。

子育てや介護で、余裕をなくした日

相手を大切に思っていても、疲れや苛立ちが生じることはあります。余裕がないことに気づいたら、安全を確保したうえで短く離れる、家族に交代を頼む、利用できる支援を相談するなど、負担を分ける方法を考えます。「もっと優しく思わなければ」と気持ちだけに課題を置かず、実際に休める時間をつくる視点が大切です。

大切な人や機会を失い、悲しみの深い日

無理に学びや成長を見つけなくて大丈夫です。「この経験にも意味がある」と急いでまとめる必要はありません。話したければ話し、話せなければ、そばにいてもらうことを頼んでも構いません。今日は水分や食事を取る、必要な用事を手伝ってもらう。悲しさが残る中で、生活を支えてもらうことを考えてください。

14. 💬 身近な人に伝えるときは、言葉より先に耳を傾ける

「日日是好日」という言葉に助けられた経験があると、落ち込んでいる人にも伝えたくなるかもしれません。ただし、自分に響いた言葉が、相手にも同じタイミングで響くとは限りません。つらい出来事の直後に「どんな日もよい日だよ」と言われると、苦しさを分かってもらえないと感じる人もいます。

まずは、「それはつらかったね」「今いちばん困っていることは何だろう」と、相手の経験に耳を傾けます。答えを急がず、「話を聞いてほしいのか、一緒に方法を考えてほしいのか」を確かめると、必要な支えを考えやすくなります。

具体的な支えを添える言葉

  • 「今日は食事の準備を代わろうか」
  • 「受診するとき、一緒に行こうか」
  • 「今は話さなくても大丈夫。必要になったら聞くよ」

助言を受け取る元気がないときでも、生活の負担が一つ減ることは助けになります。言葉を届ける場合も、「私はこの言葉に助けられることがある」と自分の経験として伝え、相手が違う受け止め方をする余地を残しておきましょう。

15. 🌙 一日の終わりに、採点の代わりに確認すること

夜になると、その日にできなかったことを数えてしまう方は、振り返りの問いを変えてみる方法があります。「今日は何点だったか」ではなく、「どんな一日で、自分には何が必要だったか」を確かめます。気分を無理に上向かせる日記にせず、その日の記録として短く残します。

一日を終えるための、短いメモの例

  • 今日の状態:緊張する場面が多く、帰宅後も疲れていた。
  • 自分を支えたこと:同僚に確認できた。夕食を取れた。
  • 明日のためにすること:朝の予定を一つ減らしておく。

「よかったこと」が浮かばなければ、二つ目は省いて構いません。書くことでかえって考え込み、眠りにくくなるなら、夜の記録をやめたり、日中に短く整理したりしてもよいでしょう。毎日続けることを優先して、新たな負担を増やす必要はありません。

その日をどう評価するか、結論が出ない夜もあります。「今日はまだ整理できない。続きは必要なときに考える」と終えても大丈夫です。一日の意味を、その日のうちに完成させる必要はないのです。

16. ❓ 「日日是好日」について、よくある疑問

毎日をよい日だと思えないのは、考え方が悪いからですか?

そうとは限りません。生活の負担や体調、置かれている環境によって、その言葉が遠く感じられることはあります。言葉を受け入れられるかどうかで、自分の強さや人柄を評価する必要はありません。「今の自分にはしっくりこない」という受け止め方も大切にしてください。

嫌なことを忘れて、前だけを向くという意味ですか?

日常に生かすうえでは、無理に忘れる必要はありません。過去から学ぶことや、未解決の問題に対応することは大切です。その一方で、同じ場面を考え続けて生活が止まっているなら、今できることを具体化し、休息や支援につなげる余地があります。

目標を持ったり、努力したりしなくてもよいのでしょうか?

目標を持つことと、今の自分を尊重することは両立します。目標に届く前の毎日を、すべて価値のない時間とみなさなくてもよい、ということです。進み方を調整したり、状況の変化に応じて目標を見直したりすることもできます。

この考え方で、うつ病や不安症は治りますか?

「日日是好日」という言葉そのものは、医学的な治療法ではありません。心理療法に通じる考え方があっても、それだけで治療の代わりにはなりません。気持ちの支えとして取り入れながら、症状がある場合は、必要な診察や治療を受けることを大切にしてください。

17. 🏥 考え方だけではつらさが軽くならないとき

こころの不調は、ものの見方や気合いだけで説明できるものではありません。落ち込みが強い、以前楽しめていたことに興味が持てない、眠れない、食欲が変わった、疲れて仕事や家事が進まないなどの状態が続くときは、精神科・心療内科や、かかりつけ医に相談してください。[8][9]

気分の落ち込みや楽しめなさがおおむね二週間以上続いていることは、一つの相談の目安です。ただし、二週間たつまで受診を待つ必要はありません。つらさが強い、生活に支障がある、急に状態が変化したという場合は、期間にかかわらず相談してよいのです。

診察で伝えると役立つこと

  • いつ頃から、どのようなつらさが続いているか。
  • 睡眠、食事、仕事、家事などに、どんな変化があるか。
  • 負担になっている出来事や、現在受けている支援。

うまく説明できるか心配なときは、メモを持参しても構いません。治療は症状や背景、本人の希望などに応じて検討され、心理療法、薬物療法、生活上の負担の調整などを組み合わせる場合があります。[9]「前向きになれないから受診する資格がない」と考える必要はありません。

「死にたい」「消えてしまいたい」という気持ちがあるときは、一人で抱えず、早めに周囲や医療機関に伝えてください。自分を傷つけそうで安全を保てないなど、差し迫った危険がある場合は、近くの人に助けを求め、119番などの緊急の支援につながることを優先してください。

18. 🌸 今日を、無理に好きにならなくても大丈夫

「日日是好日」という言葉を目にしたとき、穏やかな気持ちになる日もあれば、とてもそうは思えない日もあるでしょう。言葉との距離は、そのときの状態によって変わります。今すぐ深く理解しようとしたり、自分の気持ちを言葉に合わせようとしたりしなくても構いません。

今日、嫌なことがあったなら、そのつらさを認める。疲れているなら、負担を減らす。うまくいかなかったことがあるなら、必要な対応を一つ考える。一人では難しいなら、誰かに相談する。そうした選択は、特別に前向きな気分になれない日にも考えられます。

その日が思いどおりではなかったとしても、その日を過ごした自分まで否定しなくてよい。本記事では、「日日是好日」を、そのことを思い出すための言葉として受け止めてみました。今日を好きになれないままでも、今日の自分に必要な支えを選ぶことはできます。

📖 参考文献・参考情報

禅語の由来と解釈には宗教・文化に関する資料を、こころの健康に関する説明には公的機関の資料や学術論文を参照しています。これらは「日日是好日」そのものの治療効果を証明するものではありません。

  1. 臨済宗黄檗宗連合各派合議所「臨黄ネット」.日々是好日(碧巌録).『和顔 仏様のような顔で生きよう―山田無文老師説話集―』(禅文化研究所編・刊、2005年)より.
  2. 臨済宗黄檗宗連合各派合議所「臨黄ネット」.日々是れ好日.西村惠信『禅語に学ぶ 生き方。死に方。 向上編』(禅文化研究所、2019年)より.
  3. Ford BQ, Lam P, John OP, Mauss IB. The Psychological Health Benefits of Accepting Negative Emotions and Thoughts: Laboratory, Diary, and Longitudinal Evidence. Journal of Personality and Social Psychology. 2018;115(6):1075–1092. doi:10.1037/pspp0000157.
  4. World Health Organization(WHO).Doing What Matters in Times of Stress: An Illustrated Guide. 2020.WHOによる概要紹介.
  5. National Center for Complementary and Integrative Health(NCCIH).Meditation and Mindfulness: Effectiveness and Safety.
  6. Neff KD, Germer CK. A pilot study and randomized controlled trial of the mindful self-compassion program. Journal of Clinical Psychology. 2013;69(1):28–44. doi:10.1002/jclp.21923.
  7. National Institute for Health and Care Excellence(NICE).Depression in adults: treatment and management. NICE guideline NG222. 2022.
  8. 厚生労働省.うつ病|こころもメンテしよう.
  9. National Institute of Mental Health(NIMH).Depression.

本記事は一般的な情報提供を目的としています。症状や治療については、個別の状態に応じて医師にご相談ください。