

日常会話では記憶や集中力の低下を感じるのに、漢字の読み書きは意外と保たれていると感じることはありませんか?
JART(Japanese Adult Reading Test)は、英国の National Adult Reading Test を基に松岡らによって日本語化された成人向け知能検査です。精神疾患などに伴って知的機能が低下した方の病前のIQ(知能指数)を短時間で推定することを目的に開発されました。検査では漢字熟語の課題を提示し、正しく回答することが出来るかどうかを評価します。語彙力や読字力といった比較的保たれやすい能力を手がかりに、回帰式を使って推定 IQ を算出します。

JART は、読字力という比較的保たれやすい能力を通して、病前のIQ(知能指数)を推定する検査です。標準版では 50 語の漢字熟語を提示し、正しく回答することが出来るかを確認します。誤答数をもとに回帰式へ代入して推定 IQ を算出します。所要時間はおよそ 10 分程度で、WAIS-ⅣやWISC-Ⅴ等は90分程かかるので、それらの検査と比較して短時間で行えるのが特徴です。また、25 語を用いた短縮版(JART‑25)もあり、5 分程度で評価が可能です。
精神疾患などによって低下した認知機能の程度を把握するのに役立ちます。また、重度の失語症や視覚障害、読字困難のある方には適していません。JART は単独で診断を行うものではなく、他の知能検査や医師の診察と組み合わせて総合的に評価します。
JART は、日常的な記憶や注意力の低下があっても、読みの能力が比較的保たれているという特徴を利用しています。標準版・短縮版ともに一般成人を対象とした標準化が行われており、年齢層を問わず幅広い方に対応できる検査です。熟語には日常的に目にするものから学術的な語まで含まれており、母国語が日本語であることが前提となります。検査結果は臨床心理士が解釈し、診療や支援のための参考資料として活用します。
JART は、次のような目的で活用されています。
✅ 精神疾患に伴う認知機能低下の評価
精神疾患の治療や支援の中で、現在の検査結果と比較して病前の知的水準との差を推定する際に用います。
✅ 治療・リハビリテーション計画の検討
回復を目指す際の指標として病前のIQ(知能指数)を把握し、適切なプログラムを組むために活用します。
✅ 臨床研究での補助的指標
臨床研究において、認知機能低下の程度を統計解析の共変量として扱う際に使用します。
✅ 短時間で言語性能力を推定したい場合
所要時間が短い検査で大まかな知的機能を推定し、他の検査の指針とする際に役立ちます。
✅ 語彙力や読字力の把握
読み課題を通じて得意・不得意を知り、日常生活や学習の工夫につなげるための資料とします。
✅ 治療効果の評価
治療経過に伴う認知機能の改善やストレス軽減を把握するための参考にします。
👉 失語症や重度の視覚障害など読字が困難な場合は、本検査が適さないことがあります。
教育歴や語彙力の差などがJARTの結果に影響することがあります。結果は他の知能検査や臨床所見と併せて解釈することが重要です。
JART には、50 語の漢字熟語を用いる標準版と、25 語を用いる短縮版(JART‑25)があり、いずれも正しく回答することができるかどうかを評価する課題で構成されています。誤答数に基づいて病前のIQ(知能指数)を推定するため、精神疾患に伴う認知機能の評価や治療計画の立案、臨床研究の補助指標などとして短時間で活用されています。以下では検査の具体的な流れと推定 IQ の目安についてご紹介します。
JART の手順は非常にシンプルです。検査者は問題用紙と記録用紙を準備し、受検者に熟語を一つずつ回答してもらいます。正しく回答することが出来たかどうかを記録し、最終的な誤答数を数えます。その誤答数を回帰式に代入することで病前のIQ(知能指数)を推定します。例えば、標準版(50 語)では推定IQ = 127.8 − 1.093 × 誤答数という式が用いられています。誤答が少ないほど推定 IQ は高くなります。
検査は標準版でおよそ 10 分程度で実施し終えることができます。さらに、2016 年には短縮版(JART-25)も開発され、25 語の熟語を用いて 5 分程度で評価が可能となりました。短縮版では回帰式が異なり、例えば推定IQ = 121.145 − 2.33 × 誤答数といった式が用いられますが、いずれも誤答数から病前のIQ(知能指数)を推定する基本的な考え方は同じです。
JART は現在の読み能力をそのまま評価する検査であり、事前に特別な練習や準備をする必要はありません。普段のコンディションで臨み、気負わずに回答してください。
JART の推定値は、WAIS‑IV 全検査 IQ や言語理解指標などの従来型知能検査の得点と高い相関を示すことが報告されています。日本国内で行われた標準化研究では、幅広い年齢層を対象として平均値や標準偏差が設定され、50 語版・25 語版ともに妥当性と信頼性が確認されています。一方で、出題される熟語には日常的に用いない難読語も含まれるため、教育歴や読み慣れの差が推定 IQ に影響する場合があります。そのため、JART の結果はあくまで参考値として捉え、他の検査結果や臨床情報と合わせて総合的に判断することが重要です。
なお、問題で提示される具体的な熟語の内容については、検査教材の著作権に配慮し公開しておりません。
誤答数から算出される推定 IQ は、下表のようにおおまかな目安として解釈します。誤答数が少ないほど推定 IQ が高く、誤答数が多いほど低くなります。これはあくまで目安であり、他の知能検査や臨床情報と合わせて総合的に評価することが重要です。
| 誤答数の範囲 | 推定 IQ の目安 | 解釈 |
|---|---|---|
| 0〜7 | 約120〜128 | 高知能域 |
| 8〜16 | 約110〜119 | 平均の上位 |
| 17〜34 | 約90〜109 | 平均 |
| 35〜43 | 約81〜89 | 平均の下位 |
| 44〜50 | 約73〜80 | 低知能域 |
| 誤答数の範囲 | 推定 IQ の目安 | 解釈 |
|---|---|---|
| 0 | 121 | 高知能域 |
| 1〜4 | 約112〜119 | 平均の上位 |
| 5〜13 | 約91〜109 | 平均 |
| 14〜17 | 約82〜88 | 平均の下位 |
| 18〜25 | 約63〜79 | 低知能域 |
この検査は病前 IQ の推定を目的とした補助的なツールであり、推定 IQ と誤答数の関係は統計的な目安です。教育歴や母国語などの背景要因も考慮し、他の検査や臨床所見と合わせて評価することが推奨されます。
ご自身にとって – 「もともとの力」を知る
病気の影響で「自分はもう仕事ができないのではないか」と感じることがあっても、JARTで推定された病前IQを知ることで、本来の基礎能力を再確認できます。能力がなくなったわけではなく、一時的にパフォーマンスが落ちている状態と理解しやすくなり、自己否定感の軽減につながります。
ご家族にとって
ご家族にとっても「もともとの力」を知ることで、今は調子が落ちていても回復すれば力を取り戻せるという見通しを共有しやすくなります。できていない点を責めるのではなく、どのようなサポートや環境調整があれば力を発揮しやすいかを考えるきっかけとなり、ご本人のペースに合わせた関わり方を検討する材料となります。
なお、JARTはスクリーニング目的の簡易検査であり、より詳細な知的プロフィール(得意・不得意や情報処理の特徴など)を把握するにはWAIS‑Ⅳの実施が有用です。WAIS‑Ⅳでは発達特性や思考の癖を多面的に評価でき、今後の支援方針をより具体的に検討できます。