

「抑うつ状態」や「不安状態」と診断されて、これは何だろうと感じたことはありませんか。
精神科・心療内科では、最初からひとつの病名をはっきり決めることが難しい場合が少なくありません。そのため、「うつ病」「パニック障害」のような確定的な病名ではなく、その時点で前面に出ている症状をもとに、「○○状態」という形で診断をお伝えすることがあります。
たとえば、気分の落ち込みや意欲低下があっても、それが必ずしもうつ病とは限りません。双極性障害、不安症、適応障害、身体疾患の影響など、さまざまな背景で似た症状がみられることがあります。そのため、診療の初期にはひとつの病名に決めつけず、今みられている状態を丁寧に捉えながら、治療と経過観察を進めていくことがあります。
このように、今あらわれている症状の全体像をみて診断する考え方が、状態像診断です。状態像診断とは、現時点で目立っている症状のまとまりやこころの状態に着目して診断する考え方です。精神科の症状は、ひとつの病気だけに限らず、複数の病気に共通してみられることがあります。そのため、診察初期から病名を断定するのではなく、まずはどのような状態が表れているかを丁寧にみていくことが大切になります。
精神科・心療内科で状態像診断を行う理由は、症状の出方だけで早い段階から病名を決めてしまうと、実際の病態とずれてしまうことがあるためです。たとえば、気分の落ち込みがあっても、背景にあるのがうつ病なのか、双極性障害なのか、適応障害なのか、あるいは身体的な要因なのかは、経過をみないと判断しにくいことがあります。
また、病名を強く意識しすぎることで、必要以上に不安が高まってしまうこともあります。診断名の伝え方によっては、本人が病名に強くとらわれてしまい、かえって不安や混乱が強くなることもあります。そのため、あえて医師が状態を表す言葉で診断をお伝えする場合もあります。診断書に「○○状態」と書かれていても、それは曖昧な診断という意味ではなく、その時点での症状に即した、安全で適切な診断の伝え方です。
「抑うつ状態」「不安状態」「幻覚妄想状態」などの表現は、病名をぼかしているのではなく、今の症状を適切に表現している診断名です。精神科では、このような形で診断をお伝えすることは珍しくありません。
抑うつ状態は、気分の落ち込み、ゆううつ感、意欲低下、興味や喜びの低下、集中しにくさ、食欲や睡眠の変化などがみられる状態です。一般に「うつ」と呼ばれる症状を含みますが、必ずしもうつ病と同じ意味ではありません。強いストレス、適応障害、不安症、双極性障害の経過中、身体疾患の影響などでもみられることがあります。
そのため、初診の段階ではまず抑うつ状態として捉え、治療経過や症状の推移を見ながら、背景にある病態を慎重に見極めていくことがあります。
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躁状態は、気分が高揚しすぎる、活動性が高まる、よくしゃべる、考えが次々に浮かぶ、眠らなくても平気に感じる、怒りっぽくなる、浪費が増えるなどの症状がみられる状態です。一見すると元気に見えることもありますが、本人の判断力が低下し、周囲とのトラブルや生活上の問題につながることがあります。
躁状態は、双極性障害の経過中にみられることが多く、初期には「調子が良いだけ」と見過ごされることもあります。うつ状態のあとに活気が急に強くなった場合などは、慎重な見極めが必要です。
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混合状態は、抑うつ症状と躁症状が同時にみられる状態です。たとえば、気分はつらく落ち込んでいるのに、頭の中では考えが止まらず、焦りが強く、落ち着かずに動いてしまうといった形で表れることがあります。
この状態では、単純なうつ状態よりも焦燥感や不安定さが強くなりやすく、本人にとって非常につらい状態になりやすいのが特徴です。双極性障害の経過中や、気分の波が大きい時期にみられることがあります。
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心気状態は、自分の身体の変化や軽い不調に強く意識が向き、重大な病気ではないかという不安が強くなっている状態です。検査で大きな異常が見つからなくても、安心できず、何度も確認したくなることがあります。
背景には、不安の強さ、こころの疲れ、抑うつ傾向、ストレスなどが関係していることもあります。身体症状そのものだけでなく、病気へのとらわれや不安の強まりに目を向けることが大切です。
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不安状態は、理由がはっきりしないまま強い心配や緊張が続いている状態です。こころの症状だけでなく、動悸、息苦しさ、発汗、震え、めまい、胃の不快感など、身体症状として感じられることもあります。
不安そのものは誰にでも起こりますが、強さや頻度が増し、日常生活に支障が出ている場合には、治療が必要な状態になっていることがあります。症状の内容によって、パニック症、社交不安症、全般性不安症などさまざまな背景が考えられます。
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幻覚妄想状態は、実際にはないものを感じたり、事実ではない内容を強く信じ込んでしまったりする状態です。たとえば、誰もいないのに声が聞こえる、悪口を言われていると感じる、見張られていると思い込む、といった形で表れることがあります。
幻覚には幻聴などがあり、妄想には被害的な内容や監視されているという思い込みなどが含まれます。こうした状態は本人にとって強い苦痛を伴い、現実との区別がつきにくくなることがあるため、早めの受診が大切です。
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不眠状態は、寝つきが悪い、途中で何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまう、眠った感じがしないなどの症状がみられる状態です。単に睡眠時間が短いというだけではなく、日中の疲労感、集中しにくさ、気分の不安定さなどにつながることがあります。
不眠状態は、ストレス、うつ病、不安症、適応障害などのこころの不調に伴ってみられることがあるほか、生活リズムの乱れ、身体疾患、服薬や嗜好品の影響などが関係していることもあります。そのため、睡眠だけに注目するのではなく、背景にある要因を含めて全体的にみていくことが大切です。
パニック状態は、突然強い不安や恐怖に襲われる、動悸がする、息苦しくなる、胸が苦しくなる、めまい、手足の震え、このまま倒れてしまうのではないか、死んでしまうのではないかと感じるなどの症状がみられる状態です。発作そのものは強い苦痛を伴いますが、検査では大きな異常がみつからないことも少なくありません。
パニック状態は、パニック症でみられることがあるほか、不安症、うつ状態、強いストレス、過換気、身体疾患などでも似た症状がみられることがあります。そのため、発作の起こり方や頻度、背景にある不安や負担を確認しながら、全体像をみていくことが大切です。
強迫状態は、同じ考えが繰り返し頭に浮かぶ、不安を打ち消すために確認を繰り返す、手洗いがやめられない、戸締まりや火の元が気になって何度も確かめる、自分でもやりすぎだと分かっていてもやめにくいなどの症状がみられる状態です。こうした症状によって、日常生活に時間がかかる、外出や仕事がしづらくなるなどの支障が生じることがあります。
強迫状態は、強迫症でみられることがあるほか、不安症、うつ状態、強いストレスなどに伴ってみられることもあります。そのため、考えの内容や行動の繰り返し方、生活への影響を確認しながら、背景にある病態をみていくことが大切です。
解離状態は、自分が自分でないように感じる、周囲の現実感が薄く感じられる、記憶が抜け落ちる、気づくと時間が経っている、強いストレスの場面で現実から切り離されたようになるなどの症状がみられる状態です。本人にとっては説明しにくい体験であることも多く、不安や混乱を伴うことがあります。
解離状態は、解離症でみられることがあるほか、トラウマ関連症状、不安症、うつ状態、強い心理的負担などの中でみられることもあります。そのため、症状が起こるきっかけや記憶の抜け方、背景にあるストレスや体験を丁寧に確認しながら、全体像をみていくことが大切です。
認知症状態は、もの忘れが目立つ、同じことを何度も尋ねる、予定や約束を忘れやすい、日付や場所が分かりにくくなる、段取りや判断が難しくなるなどの症状がみられる状態です。加齢に伴う年相応のもの忘れとは異なり、日常生活や社会生活に支障が出てくることがあります。
認知症状態は、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症などでみられることがありますが、うつ状態、せん妄、身体疾患、薬の影響など、ほかの要因によって似た症状が出ることもあります。そのため、症状の経過や生活への影響を確認しながら、背景にある病態を慎重に見極めていくことが大切です。
せん妄状態は、急に落ち着きがなくなる、時間や場所が分からなくなる、昼夜逆転する、話のつじつまが合いにくくなる、注意が続かない、見えないものが見えることがあるなどの症状が急にみられる状態です。症状は1日の中でも変動しやすく、特に夜間に悪化しやすいことがあります。
せん妄状態は、発熱や感染症、脱水、手術後、身体疾患、薬の影響などによって起こることがあり、認知症と区別が必要になることもあります。そのため、急な変化として現れていないか、身体的な原因がないかを含めて、早めに全体を確認することが大切です。
精神運動興奮状態は、落ち着きがなくなる、じっとしていられない、動き回る、話し方や行動が激しくなる、興奮して怒りっぽくなる、気持ちや行動の高ぶりを抑えにくくなるなどの症状がみられる状態です。症状が強くなると、周囲との衝突や事故やけがにつながることもあります。
精神運動興奮状態は、躁状態、混合状態、幻覚妄想状態、せん妄状態などでみられることがあるほか、強い不安、薬の影響、身体疾患などが関係していることもあります。そのため、症状の強さや急な変化、背景にある病態を確認しながら、慎重に全体像をみていくことが大切です。
もうろう状態は、意識がはっきりしない、受け答えがぼんやりする、注意や集中が続かない、話のつながりが不明瞭になる、周囲の状況を正確につかみにくくなるなどの症状がみられる状態です。症状がある間の出来事をあとでよく覚えていないこともあります。
もうろう状態は、強い疲労、睡眠不足、発熱や感染症、薬の影響、てんかん発作後、せん妄状態などでみられることがあります。そのため、急に起こった変化かどうか、身体的な要因や服薬状況に問題がないかを含めて、全体像を確認することが大切です。
昏迷状態は、呼びかけや刺激に対する反応が乏しくなる、ほとんど話さなくなる、動きが著しく少なくなる、表情の変化が乏しくなる、外からの働きかけに応じにくくなるなどの症状がみられる状態です。強くみられる場合には、食事や水分がとれなくなる、日常生活が保てなくなることもあります。
昏迷状態は、うつ状態、緊張病状態、統合失調症の経過中にみられることがあるほか、強い心理的負担、身体疾患、意識障害などが関係していることもあります。そのため、反応の低下の程度や急な変化、身体的な原因がないかを含めて、慎重に全体を確認することが大切です。