- 朝起きたら、会社に出勤できません。どうしたらいいですか?
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苦手な上司や合わない職場環境・人間関係、長時間労働、パワハラ・セクハラなどを背景に、「出勤できない」と感じる方は少なくありません。
これは、ストレス関連障害である『適応障害』、神経症性障害に含まれる『不安障害』・『パニック障害』、あるいは気分障害である『うつ病』など、メンタルヘルスの不調に該当する可能性があります。新卒入社や転職・異動・昇進といった環境変化、各種ハラスメントにより強いストレスを抱え、同様のご相談が増えています。
主な症状としては、気分の落ち込み(抑うつ)、意欲低下、動悸、不眠などの睡眠障害、食欲低下、集中力の低下が挙げられます。とくに就労中の方では「頭の働きが鈍い」「記憶力が落ちた」「以前できていた業務がこなせない」といった変化が目立ち、放置すると悪循環に陥りやすくなります。
このような症状がみられる場合は、早めに当院へご相談ください。現在の状況を総合的に評価し、傷病休職(いわゆる休職)で回復を優先するのか、認知療法や薬物療法で症状を緩和しながら就労を継続するのかなど、患者さまのご希望も踏まえて柔軟に検討します。
当院では、就労継続の可否判断から休職の診断、治療、復職支援まで、働く人を一貫してサポートします。まずは医師が丁寧に診察し、休職・復職の方針を一緒に決めていきますので、安心してご相談ください。
状況に応じて医学的に必要と判断される場合は、休職診断書の発行にも対応いたします。予約時・診察時にお気軽にご相談ください。
休職を検討される方は、不安や疑問が多いのが当然です。以下に、休職に関連する受診から手続きまでの流れをまとめました。少しでも不安の軽減につながれば幸いです。
- 欠勤と休職は違う?
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欠勤
自己都合で休む場合、または有給休暇を使い切った後に突発的な体調不良などで短期間休むことを指します。
休職
医師の診察結果を踏まえ、会社と事前に協議・合意したうえで一定期間継続して休むことを指します。
欠勤と休職には、会社との合意の有無や休む期間といった違いがあります。欠勤が続くと、会社の指示どおりに業務を遂行できない状態が続くため、就業規則上の問題や契約違反を指摘され、最悪の場合は解雇に至るおそれがあります。
そのような事態を避けるためにも、体調や勤務継続が難しいと感じた時点で医師の診察を受け、必要に応じて休職の申請を検討しましょう。
- 医師の診察から、休職開始までの流れ
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1.診断書の発行
診断結果と精神症状の程度、現在の職場環境などを総合的に評価し、必要と判断される場合は休職診断書を発行します。
診断書には病名・症状の概要・休職期間等を記載します。
会社や健康保険組合の指定様式や記載要件がある場合は、事前にご相談ください。
2.会社へ診断書を提出し、傷病休職(休職)の手続き
発行された診断書をもとに、会社へ休職の申請・相談を行います。
提出先は多くの場合は直属の上司ですが、会社によっては総務や人事など指定部署が異なることがあります。
出社が難しい場合は、電話やチャットで連絡したうえで、郵送での提出に対応してもらえることもあります。
3.自宅療養と定期通院
休職の手続き後は出勤を停止し、自宅療養に専念します。
会社によっては定時連絡(受診後の報告など)を求める規定がある場合があります。
なお、休職中は月2回以上(概ね2週間に1回)の受診をお願いしています(詳細は後述)。
- 休職中の収入について(傷病手当金)
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休職で最も気がかりなのは、やはり収入面です。休職期間中の給与の取り扱いは会社ごとに異なり、有給休暇が残っていればまずは有給消化とする会社もあれば、独自の病気休暇制度を設けている会社もあります。
さらに、健康保険から給与の一定額が補填される「傷病手当金」という制度を利用できます。支給額は概ね給与の3分の2が目安です。傷病手当金の申請には、医師の記載が入った「傷病手当金支給申請書」が必要です。
注意点として、初診日以降の期間しか記載できません。受診前の状態は医師が証明できないためです。申請書は会社の人事・総務担当から受け取るか、加入している健康保険(協会けんぽ・各種健保組合)の公式サイトからダウンロードします。
入手方法が不明な場合は会社担当にご確認ください。なお、申請書をお持ちの方は、請求期間を確認のうえ受診時にご持参ください。
また、他の注意点について幾つかあげておきます。
- 傷病手当金支給申請書には当月の診察日を記載する欄があるため、月2回以上(概ね2週間に1回程度)の受診をお願いしております。
受診回数が少ない場合、支給可否は各健康保険(協会けんぽ・健保組合)の判断となります。
(受診回数が少なく不支給になるケースが多々あります)
- 傷病手当金支給申請書には当月の診察日を記載する欄があるため、該当期間に受診が無い月は、申請書の記載自体が出来ません。
- 基本的に『1年以上同じ会社に勤務している』等の条件を満たせば、退職後も傷病手当金を受け取ることができます。
- 『1年以上同じ会社に勤務していない』場合は、退職と同時に傷病手当金は申請が出来なくなります。
- 記載は記載日までの実期間のみで、未来日を記載することはできません。
その他、制度のルールは細かいため、最新情報は全国健康保険協会(協会けんぽ)や加入する健康保険組合の公式情報をご確認ください。
また、退職により傷病手当金が打ち切りとなった場合でも、条件を満たせば雇用保険(失業給付)へ切り替えられる可能性があります。詳細は最寄りのハローワークにお問い合わせください。
- 就業規則や会社ごとの休職ルールの確認
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労働基準法や労働契約法に、休職制度そのものの法定規定はありません。休職の可否・期間・手続き・復職時の取り扱いは、各社の就業規則で定められます。
就業規則には、休職期間の上限や延長条件、復職判定の方法、復職後の配慮事項(勤務時間・業務量・残業制限・テレワーク等)が記載されているのが一般的です。お試し出勤は賃金発生の扱いが会社により異なるため、就業規則を事前に確認してください。休職期間は勤続年数に応じて段階設定されることもあり、上限が1か月程度と短い会社もあれば、2年・3年まで認める会社もあります。
また、明文の規定がなくても、復職直前に会社独自の復職プログラム(産業医面談、通勤訓練、お試し出勤、リワーク等)の受講を求められる場合があります。復職時の配属に関しても、復職時は必ず異動とする会社がある一方で、同一部署・同一チームでのみ復職を認める運用を採る会社も珍しくありません。業務量の段階的な復帰(短時間勤務→時短解除→残業可否の段階変更)や在宅/ハイブリッド勤務の可否、合理的配慮の申出窓口(人事・産業保健スタッフ等)も合わせて確認しておくと安心です。
まずは休職が決まった後で構いませんので、所属先の就業規則と担当部署(人事・総務・産業医)に必ず確認してください。規程と実際の運用を把握しておくことが、手続きの遅れやトラブルを防ぎ、円滑な復職計画につながります。
- 治療について①(療養)
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休職による療養と環境調整
休職期間中は、心身の回復に専念する時間を確保しつつ、復帰後の再発を防ぐために職場環境の調整(部署異動・業務量の見直し・残業制限・テレワーク配慮等)を検討します。
一般的な目安として、『適応障害』『不安障害』『パニック障害』は2〜3か月、『うつ病』は6か月以上かかることが少なくありません。ただし個人差が大きいため一律ではありません。
まずは暫定1か月の休職で診断書を作成し、経過に応じて延長の可否を柔軟に判断します。想定より早く改善した場合は前倒しの復帰も可能です。
原因がハラスメントや人間関係にある場合は、復職時に部署異動等の条件を付すことがあります。原因が長時間労働・業務過多の場合は、業務量の軽減・残業制限を明確にすることが重要です。
劣悪な労働環境や理不尽な要求が慢性化している場合は、配置転換・転職を含む大きな環境変更を検討する必要があるかもしれません。
薬物療法(メディケーション)
抑うつ・不安・過緊張・不眠などの症状を緩和し、日中機能(集中力・作業能率・対人応答)を回復させること、ならびに再発予防を図ることを目的とします。
■対象症状と主な薬の例
抗うつ薬:抑うつ気分・意欲低下・不安の改善(SSRI/SNRI など)。
抗不安薬:強い不安・緊張の短期対処。
睡眠薬:入眠困難・中途覚醒の是正。
必要に応じて漢方薬や補助薬を併用する場合があります。
■進め方(標準的な流れ)
初期調整:症状・体質・就労状況を踏まえ、最少必要量から開始。副作用を確認しつつ漸増。
維持・評価:効果と副作用のバランスを評価し、日中機能の回復を目標に用量を最適化。
再発予防:寛解後もしばらくは継続投与を検討(自己判断での中断は避ける)。
減薬・中止:主治医と計画的に実施(離脱症状や再燃を避けるため段階的に)。
■目標:抑うつ・不安の軽減、睡眠の質改善、日中機能の回復、再発予防を図ることを目標とします。
認知療法(認知行動療法:CBT)
薬物療法に心理的アプローチを併用することで、回復のスピードと再発予防の双方に効果があることが、臨床研究で示されています。認知療法は、物事の受け取り方(認知)の偏りに気づき、より現実的で柔軟な考え方・行動を身につけるための実践的な手法です。
■主な内容(代表的技法)
認知行動療法(CBT):自動思考の気づきと検討、別案の作成、行動の再設計。
ストレス対処法(コーピング):対処スキルの具体化と反復練習。
マインドフルネス:注意のコントロールと反芻(くよくよ思考)の低減。
ソーシャルスキルトレーニング(SST):職場での伝え方・断り方・相談の仕方をロールプレイで練習。
不眠の認知行動療法(CBT-I):刺激制御・睡眠制限・認知介入・睡眠衛生で睡眠障害を是正。
■目標:抑うつ・不安の軽減、仕事の集中力と遂行力の回復、そして再発予防プランの確立を目指します。
心理教育(睡眠教育を含む)
心理教育は、症状の背景にあるメカニズムを理解し、日常で活かせるセルフケアの知識と手順を身につけるプログラムです。とくに睡眠は回復と再発予防の土台となるため、必要に応じて睡眠教育(CBT-Iの基礎)も行います。
■主な内容(代表的テーマ)
症状の理解:うつ病・適応障害・不安障害・パニック障害・自律神経失調症等の疾患に対するの基礎知識について。
ストレスと身体反応:交感神経/副交感神経、ホルモン、体内時計の仕組みについて。
生活リズムの整え方:起床後の採光、リズム運動(週150分目安)、食事・カフェイン・アルコールの扱いについて。
職場でのセルフマネジメント:負荷調整、報連相、合意形成のコツ。
再発予防の設計:引き金・初期サイン・対処行動をまとめたリラプスプラン(再発防止計画)の作成。
■睡眠教育(CBT-Iの基礎)
刺激制御:寝床=睡眠の連合を再学習。
睡眠制限:適切な就床・起床スケジュールの設計。
認知介入:例「眠れないと翌日が必ず台無し」等の思い込みを調整。
睡眠衛生:光・デバイス・カフェイン・入浴・運動・環境の整え方。
■目標:症状悪化のサイクルを理解し、再発しにくい生活習慣と実践手順を身につける。
臨床心理士によるカウンセリング
悩みや辛さが続くと、自分の気持ちがつかめず、どう動けばよいか迷ってしまうことがあります。
カウンセリングは、安心して話せる場で気持ち・考え・課題を整理し、回復に向けた一歩を一緒に見つけていく支援です。しっかり話し、しっかり聴かれることで、問題点が見えやすくなり、解決の糸口が生まれます。
当院併設の
カウンセリングルーム武蔵小杉では、認知療法(CBT)や心理教育をはじめ、複数のカウンセリング技法を組み合わせて提供します。医師(薬物療法・診断書)と連携し、
メンタルヘルスの改善から復職・再発予防まで一貫して支援します。
■認知療法:自動思考の気づき・検討、別案づくり、行動の再設計。
■心理教育:症状やストレス反応の仕組み、生活リズム・睡眠(CBT-Iの基礎)、再発予防の実践手順。
こんな方にお勧めです。他にもどんな些細なご相談でも構いません。お気軽にご相談下さい。
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不安・抑うつが続き、仕事や生活のペースを立て直したい
■職場の人間関係や復職に不安があり、
伝え方・断り方・相談の仕方を練習したい
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睡眠を整えたい(入眠困難・中途覚醒・起床困難 など)
当院に併設したカウンセリングルーム武蔵小杉で
臨床心理士がカウンセリングを行っております。
ご希望の方は以下のリンクからご予約下さい。
※ 医師による外来は、日本の保険診療制度の都合上、2回目以降の診察時間はおおむね5〜10分となります。
※ 臨床心理士によるカウンセリングは、1コマ50分・予約制です。併行してカウンセリングでの治療を希望される方は、カウンセリングルーム武蔵小杉にてご予約ください。
※ 臨床心理士によるカウンセリングでは、診断書の発行や薬の処方(薬物療法)は行えません。
- 休職中の過ごし方について
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まずは仕事から距離を取り、しっかり休むことが大切です。休職中に業務メールやチャットを確認すると不安や焦りが高まり、心身が十分に休まりません。体調を回復させるために、意識的に仕事から離れる時間を確保しましょう。気分が少し上向いてきたら、短時間の散歩や外出で外気に触れることから再開してください。
「つらい」「苦しい」「死にたい」と感じるような精神的な不調の際は、セロトニン・オキシトシン・ドーパミンなどの神経伝達物質(ホルモン様に働く物質)が不足していることがあります。これらは心の安定に関わるため、分泌を促す生活習慣を取り入れることが重要です。
セロトニンを高める方法の一つとして抗うつ薬が用いられます。薬物療法に加えて生活面の工夫でも分泌を後押しできます。また、自分で取り組める認知療法も併用して進めていきましょう。
1.朝早い時間に日光を浴びる
(十分な睡眠を確保し、昼夜逆転を防いで生活リズムを整える)
起床後1時間以内に20〜30分ほど屋外で日光を浴びることが基本です。網膜が強い光を受けると体内時計がリセットされ、日中には気分の安定・意欲・集中に関わる神経伝達物質「セロトニン」が分泌・活性化します。セロトニンは必須アミノ酸トリプトファンから作られ、夜間にはこのセロトニンを材料に松果体で睡眠ホルモン「メラトニン」が生成されます。そのため、朝に光を浴びるほど日中はシャキッと過ごしやすく、夜は自然な眠気が訪れ、睡眠‐覚醒リズムが整います。
室内照明では光量が不足します。雨天や曇天でも屋外は室内よりはるかに明るいため、天候にかかわらず「必ず外に出る」ことを意識しましょう。起床したら屋外で深呼吸をしながら軽いストレッチを行います。療養中で体力が落ちている場合でも、自宅周辺をゆっくり歩くだけで十分に日光を浴びられます。冬場や早朝の冷え込みが厳しいときでも、防寒対策をして近所を散歩するなど、無理のない範囲で毎日続けることが大切です。
ヒトの体内時計は約24時間よりわずかに長い(25時間前後)といわれており、このズレを毎朝の光刺激で24時間周期に合わせる必要があります。ズレを放置すると就寝・起床時刻が後ろにずれ、昼夜逆転や日中の倦怠感を招くおそれがあります。また、週末の「寝だめ」は体内時計を再度後ろ倒しにするため、平日と週末の起床・就寝時刻の差は1時間以内に抑えるのが理想的です。
このように「朝日を浴びる習慣」は心身の健康を支える土台です。昼夜逆転したままではメンタルが安定することはありません。毎日少しずつでも実践し、規則正しい生活リズムを維持しましょう。
2.適度なリズム運動を行う
ウォーキングや軽いジョギングなど、一定のリズムで続ける有酸素運動は脳内のセロトニン分泌を促進します。特に朝、日光を浴びながら20〜30分行えば一石二鳥です。運動開始から約5分でセロトニン分泌が高まり、20〜30分でピークに達します。
厚生労働省は、中等度の有酸素運動(速歩・軽いジョギングなど)を週150分以上行うことを推奨しています。有酸素運動にはメンタルの安定と睡眠の質向上に寄与することが証明されています。150分に満たなくても「行った分だけ」きちんと効果があります。20〜30分を毎日続ける、あるいは休日にまとめて長めに行うなど、ライフスタイルに合わせて調整しましょう。ただし習慣化の観点からは、無理のない分量を毎日コツコツ続ける方法が最も定着しやすいとされています。体力に不安がある場合は、まず毎朝の散歩から始め、徐々に距離や時間を延ばしていくと無理なく継続できます。
有酸素運動はセロトニンだけでなく、成長ホルモンの分泌も促進し、脂肪燃焼・疲労回復・睡眠の質向上・免疫力強化など多面的なメリットをもたらします。とりわけ成長ホルモンは睡眠を深め、翌朝の目覚めをすっきりさせる重要な役割を担います。また、リズム運動にはストレスホルモン(コルチゾール)の過剰分泌を抑える効果も報告されており、心拍変動(HRV)の改善を通じて自律神経バランスを整える働きも期待できます。自分に合った運動を見つけ、習慣化して心身のコンディションを整えましょう。
3. 3食バランスの取れた食事を、よく噛んで食べる
(トリプトファン+タンパク質+ビタミンB群+良質な脂質で“食べるセロトニン活性”)
セロトニンの材料は必須アミノ酸のトリプトファンです。動物性のたんぱく源(肉・魚・卵・乳製品)と、植物性のたんぱく源(大豆製品・ナッツ)や果物(バナナ)に多く含まれます。合成を円滑に進めるにはビタミンB6が不可欠で、あわせてビタミンB1・B2、ビタミンC、亜鉛も補因子として重要です。色とりどりの野菜・果物・海藻・キノコ類を組み合わせ、「主食・主菜・副菜」がそろった3食を意識しましょう。
EPA・DHA(青魚の脂)は脳内の炎症反応を抑える働きがあり、抑うつ症状の軽減に役立つ可能性が示されています。イワシ・サバ・サンマを取り入れる、あるいはえごま油・アマニ油などオメガ3系の植物油を小さじ1杯プラスする方法も良いでしょう。主菜の肉は魚や鶏を中心にし、牛や豚を完全に避ける必要はありませんが、脂質が多くなりやすいため量と調理法に注意します。
よく噛むこと自体がセロトニン分泌を促す刺激になります。1口30回を目安に、玄米・雑穀ご飯・根菜など歯ごたえのある食材を取り入れて、自然に咀嚼回数を増やしましょう。ガムを20分ほど噛むだけでもセロトニンが増えたとする報告もあります。他にも、咀嚼には、消化の促進、肥満予防、記憶力の向上、免疫機能のサポート、口臭予防など、多くの健康効果が知られています。
炭水化物(ご飯・パン・麺)や甘い飲料は、食後血糖の急上昇とその後の反動低下を招きやすく、だるさ・眠気・気分の波につながります。まずは量と頻度を控えめにし、清涼飲料や菓子類は「たまに・少量」を基本にしましょう。また、食べる順番を工夫することで食後血糖の上昇を緩やかにできます。最初に食物繊維(野菜・海藻・キノコ)、次にタンパク質(肉・魚・卵・乳製品・大豆製品)、最後に炭水化物(ご飯・パン・麺)という順番を意識すると、気分の安定や次の食事までの間食抑制にもつながりやすくなります。
「食欲がわかない」日は、バナナ+ヨーグルト+はちみつなど、トリプトファンとビタミンB群を同時に補える軽食から始めても構いません。少量でも“決まった時間に口に入れる”ことが、体内時計と血糖リズムの安定につながります。
間食には、素焼きナッツ・チーズ・ゆで卵など、高タンパクかつ良質な脂質を含む食品がおすすめです。なお、タンパク質は満腹中枢を刺激して満足感を高め、食欲を抑える作用が期待でき、過食が気になる方にも有用です。
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ポイントのまとめ
① 3食を欠かさない
② トリプトファンを多く含むタンパク源+B1・B2・B6+オメガ3を意識
③ しっかり咀嚼(1口30回目安)
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食事を整えるだけでも、セロトニンや成長ホルモン、自律神経のバランスが底上げされ、メンタルの安定と睡眠の質の向上につながります。
4.誰かの役に立つ・他者を喜ばせる
人は、誰かの役に立つ/喜ばせる体験を通じて、幸福感や充足感を得やすくなります。これは、いわゆる“幸せホルモン”と呼ばれるオキシトシンの分泌が高まることで説明されます。友人とのおしゃべり、家族団らん、ペットとのふれ合いといったアナログな関わりも同様にオキシトシンを促し、気分の安定に寄与します。だからこそ、大きな困難があっても、安定した人間関係に支えられて乗り切れた経験は、多くの方に共通する実感ではないでしょうか。
心理学者アルフレッド・アドラーは、心の不調に悩む人へ「他者を喜ばせることに意識を向け、実際に行動する」ことを勧めました。自分の問題だけに注意が向くと視野が狭まりやすい一方で、「誰かの役に立つ」という視点は孤立感を和らげ、共同体感覚(社会の中に自分の居場所がある感覚)を育てます。
実践は小さな一歩からで十分です。
1)手帳(またはスマホメモ)で「喜ばせリスト」を作る
・欄を「家族/友人/近所/お店の方/地域/LINE」などに分けます。
・毎朝1~3個、相手を喜ばせる具体的な行動を書き出します。
例:家族にお礼を一言/家事を10分手伝う/友人へ近況メッセージ/近所であいさつ/散歩中のゴミ拾い/店員さんに丁寧に感謝を伝える/LINEで感謝コメント。
・その日のうちに“できる範囲”を実行し、夜にチェック。できたら○、未実行は翌日に繰り越します。
2)毎日の「小さな徳」を積み重ねる
・席や順番を譲る、エレベーターで先を譲る。
・会話では相手の話に共感する。
・配達員や店員さんにひと言のねぎらいをかける。
・LINEでも、感謝の一言やスタンプを添える。
3)「感謝」を言葉と記録で育てる
・言葉にする:その場で「ありがとう」を伝える(家族・友人・店員さんへ、短くてもOK)。
・感謝メモ:寝る前に「今日の感謝を3つ」書く。
・週1の振り返り:1週間分を読み返し、伝えそびれた相手にメッセージを送る。
こうした見返りを求めない小さな行為は自己効力感を高め、気分や睡眠にも良い影響が生まれやすくなります。親密な関係が少なくても、まずは「あいさつ」「礼」「ねぎらい」といった短い接点から始めましょう。対人不安が強いときは、家族やペットとの関わりを足場に、少しずつ輪を広げていけば大丈夫です。
―――
ポイントのまとめ
① 親密さより「小さく・頻回に」を優先する。
② 手帳やメモで喜ばせリストを作り、毎日1~3個実行する。
③ 毎日の「小さな徳」と感謝(言葉+記録)を習慣化し、共同体感覚を育てる。
5.何かしら行動を起こす
「やらなきゃいけないのに、やる気が出ない」。多くの方が直面する壁です。やる気は待っていても出ません。行動を起点に生まれることが分かっています。脳の側坐核(そくざかく)が刺激されるとドーパミンという神経伝達物質が分泌され、やる気・集中・「できそう」という見込み感が高まります。――刺激の与え方は難しくありません。まず動くこと自体が刺激になります。
■すぐ始めるためのコツ
1)「5分だけ」ルール:抵抗の低い超小さな一歩を決め、最初の5分だけ着手。
例)資料を1枚開く/机を30cmだけ片づける。着手の瞬間に側坐核が反応し、続きが楽になります。
2)最初の1手を決める:
例)PCを開く → ファイル名を検索 → 文章を1行記載する、のように開始動作を具体化しておく。
3)物理スイッチ:手をたたく/ガッツポーズをしながら、「よし、〇〇から始めよう」と短く声に出す。数秒の身体刺激+言語化でも着手のハードルが下がります。
→ いずれの方法も、ドーパミン分泌の立ち上がりを助け、スタートを切りやすくします。
■続けるためのコツ
1)分割して小さな達成を増やす:大きな作業は3~5個の小タスクに分解。小さな完了ごとにドーパミンが出やすく、継続力が高まります。
2)見える化で報酬を前倒し:紙のToDoリスト+チェックボックス/進捗バー/完了ログを活用。タスク完了後は線を引いて消すたびに達成感が生まれ(ドーパミンの分泌を促し)、次の着手を後押しします。
※モニタより紙に書くほうが注意の分散が少なく効果的な人が多いです。
3)時間ブロック(短時間×回数):25分作業+5分休憩を1セットとして繰り返す。長丁場より短く刻むほうが続きやすく、疲れを感じる前に休憩を入れると効率が上がります。
4)環境を先に整える:前夜に道具を出す/通知を切る/作業場所を固定。選択肢と迷いを減らす=着手の促進です。服や持ち物を定番化する、身の回りを断捨離してシンプルに保つのも有効です。
ポイント:行動 → 小さな達成 → ドーパミン → 次の行動という上向きスパイラルを、意図的に設計する。
―――
まとめ
① やる気は待たずに動いて呼び込む(5分だけ・最初の1手・物理スイッチ)
② 小さく分けて、見える化して、数で稼ぐ(チェック/進捗バー/完了ログ)
③ 環境と予定を先に決める(道具を出す・短時間ブロック・通知オフ)
6.嫌なことを手放す
仕事の失敗など嫌な出来事が頭から離れないことは誰にでもあります。気持ちを軽くするために人に話すとカタルシス効果で一時的には楽になりますが、同じ話を繰り返すほど記憶が再活性化・強化され、かえって忘れにくくなります。とはいえ、誰にも言わず抱え込むのも強いストレスです。そこで、「一度だけ話して終える」→「切り替えて他の行動に移る」というステップをおすすめします。
※カタルシス効果:つらい感情や出来事を言語化して吐き出すことで一時的に心が軽くなる現象。反復は記憶の強化につながりやすいため、「1エピソード=1回だけ話して終える」のがコツです。
1)一度だけ話して終える
宣言してから話す:「この件は一回だけ聞いてください。終わったら切り替えます」と前置きします。
時間を区切る:3〜10分で区切り、「ここまで」と締めます。
→ 吐き出して発散しつつ、記憶の上塗りを防ぐことが大切です。
2)反芻(同じ考えの堂々巡り)に気づいたら切り替える
ラベリング:「今、反芻している」と心の中で名付ける。
合図を決める:深呼吸3回/肩回し/席を立って水を飲むなど、「体の動きで区切る」。
置き場所を作る:「心配メモ」に1行だけ書いてノートを閉じ、頭の外へ退避。
3)“良い出来事”を意図的に増やし、記憶を上書きする
楽しい予定を入れる:友人と短いお茶/自然の中を10分散歩/好きな音楽・香り/趣味を15分。
セイバリング日記(“味わう”日記):寝る前に「今日よかったことを3つ」書く(人・出来事・自分の努力もOK)。
写真・メモで残す:嬉しい瞬間を1枚撮る/一言メモ。見返す習慣が「“良い記憶”の回路を太く」します。
注意の資源は有限です。「良い体験に注意を向けている間は、嫌な記憶に割く余力が減る」ため、結果として思い出しにくくなります。
4)五感で「今ここ」に戻る(グラウンディング)
目に入るもの5つ→触れる感覚4つ→聞こえる音3つ→匂い2つ→味1つを順に意識。
氷水で手を冷やす/冷たいペットボトルを握るなど、「強めの無害な感覚刺激で注意を現在へ」。
5)思考の「時間割」を作る
心配タイムを1日10〜15分だけ設定(できれば午後早め)。その時間にまとめて考え、終わったらノートを閉じる。
→ それ以外の時間に浮かんだら「心配は◯時に考える」と先送りして、今やることへ戻ります。
6)夜は“心の充電時間”にする(就寝前の整え方)
就寝前1時間はニュース・SNS・仕事の振り返りを避ける(嫌な記憶が再点火しやすいため)。
代わりにぬるめの入浴・軽いストレッチ・穏やかな音楽・深呼吸など、静かに鎮めるルーティンへ。
ベッドに入った後に思考が回り出したら、「明日の心配タイムに回す」とメモして終了。
ポイントのまとめ
① 一度だけ話す+時間を区切る(発散と強化防止の両立)
② 反芻に気づいて合図→切り替え(ノートに退避)
③ 良い出来事を予定化し、日記で強化(注意の向き先をデザイン)
④ 五感のグラウンディングで「今ここ」に戻る
⑤ 心配タイムを決め、それ以外は先送り
⑥ 就寝前は鎮静ルーティンで再活性化を防ぐ
7.自動思考とスキーマに気づき、やさしく整える(自分でできる認知療法①)
認知療法は、うつや不安などの症状に限らず、困難に向き合い乗り越えるための“心のスキル”を育てる実践法です。私たちは現実をそのまま見ているのではなく、自分ならではの受け取り方(認知)を通して世界を解釈しています。
鍵になるのが自動思考とスキーマです。自動思考は、出来事に触れた瞬間に湧く考え(例:「また評価が下がる」「どうせ嫌われている」)のことです。これを現実に即した柔らかな見方へ整えると、つらさが和らぎます。背景にはスキーマ(考え方の土台・クセ)があり、たとえば「完璧でなければ価値がない」「誰にも嫌われてはいけない」といった硬いルールが解釈を狭めがちです。
実践は、①ストレスに気づき整理 → ②自動思考を書き出して言い換え → ③問題解決・行動の幅・対人スキルを広げる → ④自分のスキーマを理解して柔軟さを育てる、という流れで進めます。
基本ステップ
1)合図に気づく(トリガー&身体サイン)
心拍が上がる/肩が固い/呼吸が浅い → 自動思考が動き始めた合図です。気づいたら深呼吸3回+姿勢リセットを。
2)書き分ける(事実 vs. 自動思考)
ノートを二列に:左「事実(録音できる客観)」、右「自動思考(頭に浮かんだ言葉)」。
例)事実:課長に「後で打ち合わせ」/自動思考:「また評価が下がる」「どうせ嫌われている」
3)クセを見る(認知の偏り)
全か無か/過度の一般化/読心術/べき思考/破局化など、当てはまるものに○。
→ 「これは私のクセ」と気づくだけで、思考と距離が取れます。
4)スキーマを仮説にする(やさしく掘る)
自動思考の共通項からスキーマ仮説を短く書く。
例)「評価が下がる=自分の価値はない」「相手は自分を拒む」
今は仮説でOK。断定せず「もしかして、こう思い込みやすい?」のトーンで。
5)検討する(証拠・例外・別視点)
支持する証拠/反証を1つずつ。例外探しも有効です。
やさしい言い換えの例:
「また評価が下がる」→「フィードバックかもしれない。準備すれば改善できる」
「どうせ嫌われている」→「確証はない。普通に接して確かめてみよう」
6)行動で確かめる(小さな実験)
言い換えに沿って5~10分の行動:議題メモを1項目作る/挨拶+要点確認のひと言 など。
メモ:「思ったほど悪くない」「次回の工夫は…」。
→ 行動 → 小さな達成が、新しい見方の“証拠”になります。
7)新しい土台を育てる(スキーマの再学習)
バランス信念カード:
例)「完璧でなくても価値はある」「人には受け入れてくれる側面もある」
証拠ログ:その信念を裏づける出来事を1日1行。
セルフ・コンパッション:失敗時の自己対話を「親しい人に言う言葉」へ言い換える。
■さらに学ぶには
『こころが晴れるノート』(大野 裕 著)
自動思考の書き出し・言い換え・行動実験がワーク形式で学べます。自分でやる認知療法の練習に最適です。
8.受け入れる・求めない・赦す(自分でできる認知療法②)
困りごとに直面したとき、私たちは「変えられること」と「今は変えられないこと」を混同しがちです。次の三つの姿勢で、現実を柔らかく受け止めながら、自分にできる行動へ資源を配分していきましょう。
1)受け入れること
「受け入れる」はあきらめではありません。事実を事実として認め、抵抗に費やしていたエネルギーを“いま・ここでできる一歩”に振り向けましょう。たとえば、体調の揺らぎという事実を認めたうえで、睡眠と予定の調整、相談先の確保など、“今できること”へ切り替えます。練習として、①起きている事実を一文で書く ②それに対する感情を一語で添える ③今日できる最小の行動を一つ決める――という三行メモを続けましょう。
2)求めないこと
他者や結果への強い期待は、思い通りにならなかったときの失望や怒りを増幅させます。期待の手綱を少し緩め、コントロール可能な自分の行動基準へ焦点を戻します。「相手が必ず理解すべき」ではなく、「要点を簡潔に伝える」「期限を先に共有する」といったプロセス指標(回数・時間・手順)で自己評価を行いましょう。期待をゼロにするのではなく、“求めを小さく・行動を具体的に”がコツです。
3)赦すこと
「赦す」は、相手の行為を肯定したり責任を免除したりすることではありません。過去に縛られて現在の自分が消耗し続ける状態から距離を取り、苦しみとの関係を見直す“機能的な手放し”です。
①出来事と影響を書き出す
②戻せない部分/学びに変えられる部分を仕分ける
③学びに基づく再発予防(合図・対策・助けを求める先)を一行で決める――の順に進めましょう。
自分を赦す場合は、同じ状況の友人に掛ける言葉を自分へ向け直す一文(セルフ・コンパッション)を添えます。
9.課題の分離(自分でできる認知療法③)
「最終的な結果の影響を主に受けるのは誰か(その課題の最終責任は誰にあるのか)」で境界を引く技法です。
■相手の感情・評価・選択 → “相手の課題”(私がコントロールできない)
■自分の言い方・準備・期限管理 → “自分の課題”(私がコントロールできる)
“相手の課題”に介入することなく、“自分の課題”の解決・前進に注力しましょう。混同に気づいたら、
①課題を書き分ける
②自分の課題だけに計画を立てる
③相手の課題は尊重し、干渉しすぎない(情報提供・選択肢提示まで)
――の順で整理します。これにより、過剰な罪責感やコントロール欲求がしずみ、対人ストレスが下がりやすくなります。なお、他者からの評価が気になって何も行動できなくなることがありますが、他者が自分をどう思うかは“相手の課題”であり、あなたがコントロールできる領域ではありません。
〈例:勉強しない子どもを叱る親〉
■悪い例:「なんで勉強しないの! 将来どうするの! 私まで恥ずかしいでしょ!」
→ 子どもの課題(学ぶ/学ばない)に感情で介入し、親の不安まで子に背負わせている。
■良い例:「勉強するかどうかはあなたの課題。私は学べる環境を整える。19:00〜21:00は静かな時間を作るし、質問があれば手伝うよ。今日はその時間に何をやる? 決めるのはあなた。」
→ 親:環境づくり・声かけ・ルール提示(自分の課題)/ 子:取り組み方と結果を引き受ける(子の課題)
10.不安と戦っても勝ち目はない(自分でできる認知療法④)
「〜になったらどうしよう」「職場に復帰できるのか不安だ」など、まだ起きていない未来と戦うことは勝ち目のない消耗戦です。そこでエネルギーを失うのはやめ、扱い方を変えていきましょう。
① 時間を区切る
朝や昼に10〜15分の「心配タイム」を設定し、それ以外に浮かんだ不安は「◯時に考える」とメモして手を離します。
ポイント:同じ不安を一日に何度も検討しない/時間になったら必ず“開始・終了”を守る(タイマー推奨)。
② 事実収集 → 決定 → 実行
心配を一文で定義し、必要な事実だけ集め、選択肢を最大3つに絞って、今日の一手を決めて動きます。
例:「復職が不安」→ 事実:主治医の所見・職場の制度・通勤所要時間 → 選択肢:主治医に質問3点/産業医面談予約/通勤トライ(時間帯ずらし)→ 今日やる1つを実行。
③ 最悪ケースの棚卸し
最悪の想定を書き、その影響を受け入れた場合の被害軽減策(プランB/C)を一行ずつ挙げ、一本だけ今すぐ着手します。
効果:脳は「何もできない不確実」より「準備済みの不確実」の方が不安を下げやすい。
④ “今日の区画”に注意を戻す
昨日の後悔・明日の不安への“常時アクセス”をやめ、今日の用事・人・体調へ意識を置きます。
実行例:通知のバッチをオフ/ニュース閲覧は1日2回・各5分に固定/「今この瞬間に役立つ行動か?」を自問して戻る。
⑤ 手を動かす
身体を使う家事・3〜10分の短い運動・誰かを助ける小さな行為で、注意を現在に固定します。
コツ:開始のハードルを下げる(例:スクワット5回・食器3枚・玄関1分掃除)。動き始めが不安の反芻ループを切ります。
また、休職中に人生に関わるような大きな決断は避けたほうが望ましいので、何かありましたら周りの人や主治医にご相談ください。
- 睡眠とメンタルヘルス
―― よく眠ることは、大事な「治療」です ――
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1)睡眠が心身の健康に与える影響
質の高い睡眠は、気分の安定・ストレスの軽減・集中力や判断力の維持に直結します。眠っているあいだに脳は情報を整理し、身体は疲労を回復させます。十分に眠れている人ほど日中のパフォーマンスが高まり、感情のコントロールもしやすくなります。
一方、慢性的な睡眠不足はイライラや不安、抑うつ傾向を招き、人間関係や仕事・学業の質も低下させます。成人の推奨睡眠時間は7〜9時間であり、6時間では基本的に睡眠不足です。この状態が続くと記憶力・判断力・注意力が著しく落ち、日常業務に大きな支障を来します。
2)不眠とこころの病気
不眠はうつ病などのメンタル不調と深く関係しています。うつ病では「寝つけない」「途中で目が覚める」「早朝に目が覚める」といった睡眠障害がよく見られます。さらに、慢性的な不眠が続くと日中の疲労感や集中力低下を通じて、うつ病などの発症リスクが数倍〜数十倍に高まることが報告されています。
3)睡眠負債と社会的時差ぼけ
■睡眠負債
必要な睡眠時間を下回る状態が蓄積すると「睡眠負債」になります。たとえば、必要睡眠7時間の人が毎日6時間しか眠らないと、1日1時間ずつ負債が増えていきます。週末の“長時間睡眠”は一時的な返済にはなりますが、睡眠を前倒しで「貯金」することはできません。溜まった負債を解消するには数日かかります。
■社会的時差ぼけ―ソーシャルジェットラグ―
平日は早起き、休日は夜更かしと寝坊――このリズムのズレが体内時計を狂わせ、月曜朝の倦怠感や集中困難を招きます。止む無く休日に睡眠を少し増やす場合は、睡眠中央時刻(就寝と起床の中間)が平日と大きくズレないよう、「就寝を早める時間」と「起床を遅らせる時間」を同じだけ長くしましょう。これにより社会的時差ぼけを最小限に抑えられます。
4)自分に合った睡眠時間を知る
8時間でも9時間でも眠れてしまうなら、それだけの睡眠が必要というサインです。人は必要以上には眠れないことが分かっています。理想は、仕事の有無にかかわらず、毎日ほぼ同じ時刻に寝て同じ時刻に起きること。規則正しいリズムが体内時計を整え、質の高い睡眠につながります。
そのため、睡眠をとる事で脳を深く眠らせて、精神的な疲労も回復させる事が重要です。以下に重要なポイントを挙げました。
快適な眠りをつくる習慣
- 毎日同じ時刻に起床する
- 朝起床後1時間以内に20分日光浴
- 適度な運動を毎日の習慣に
- 夕食後はカフェインを避ける
- 夜はリラックスして過ごす
- 入眠の2時間前はスマホ/PCなどのモニター類は避ける
- 眠る4時間前までに食事を終える
- 入浴は入眠の2時間前までに
- 就寝前は喫煙を避ける
- 就寝前の飲酒は厳禁
- 眠くなってから布団に入る
- 眠れないときは寝床からでる。目安は20分。
睡眠環境を整える
- 遮光カーテンで光を遮る
- 夏は26〜28度/冬は18〜20度
- 寝具や寝巻きをかえてみる
- 雑音は無くす。テレビもNG!
- ソファで寝落ちは、厳禁!
- 就寝2時間前から部屋を暗めに
- 就寝時は真っ暗に
- 部屋の湿度を50〜60%に
- アロマを使用してみる
- 治療について②(復職に向けて)
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生活記録表(生活リズム表)の活用方法
生活記録表は、一日の行動や体調を簡潔に書き留めるセルフモニタリングツールです。復職可否の判断材料になるだけでなく、ご自身の生活リズムを客観的に見直すきっかけになります。
- 起床時間、就寝時間の睡眠状況
- 食事の時間
- リワークや通勤訓練、お試し出勤(下記記載)の状況
- 外出した場所、時間
- 起床時の疲れをスコア化
等を記録します。また、ご自身の生活を見直すきっかけになり、復職へのモチベーションを挙げる事に繋がります。必要と判断したらご案内させて頂きます。会社の産業医に求められる場合もあります。
リワークについて
リワーク(Return to Work)は、うつ病や不安障害などで休職中の方が職場復帰に向けて行うリハビリテーションです。一般的なプログラム期間は3〜6か月程度で、生活リズムの整備や軽い運動、ストレス対処法の習得、パソコン作業などの軽作業訓練を段階的に行います。多くの施設ではこれらに加え、週1〜2回のカウンセリングやグループワークが組まれ、対人コミュニケーション力や集中力の回復状況を定期的に評価します。
厚生労働省の報告によれば、うつ病は寛解後でも約60%が再発するとされていますが、リワークを導入することで復職後3年以内の再休職率を50%以上改善できると示されています。十分な準備期間を確保し、主治医と産業医が連携して再発予防策を共有することが、長期的な就労継続の鍵となります。
当院ではリワークプログラム自体は実施しておりません。必要と判断した際は信頼できる外部施設をご紹介し、当院での外来診療と並行してご参加いただく形となります。紹介状の作成や産業医・人事担当者との調整もお手伝いしますので、ご希望やご不明点があればお気軽にご相談ください。
通勤訓練について
通勤訓練は、休職中の方が職場復帰に向けて「通勤そのもの」 をリハビリに取り入れるプログラムです。具体的には、自宅を通常の出勤時刻に出発し、これまで利用していた電車・バス・徒歩ルートを使って職場の近くまで向かいます。これにより
①通勤に耐えられる体力・持久力を再確認できる
②決まった時間に起きて出発する生活リズムが自然に整う
③また会社へ行けるだろうか、という不安を軽減できる
といった効果が期待できます。
通勤訓練は、体力・生活リズム・心理的準備 の三方向から復職を支える実践的なリハビリです。出社ルートを実際にたどりながら少しずつ負荷を高め、記録と振り返りを繰り返すことで、復職当日の不安を大幅に軽減できます。自身の体調に合わせて無理なく継続し、スムーズな職場復帰を目指しましょう。
お試し出勤について
休職中の従業員が正式復職前に 業務を伴わず職場へ通うリハビリです。実際に出勤することで通勤負荷を確認し、復職への不安を和らげます。
1)目的とメリット
リハビリ訓練:決まった時間に起きて通勤し、体力と生活リズムを整えます。
復職判断材料:本人・主治医・会社が復職時期や必要な配慮を評価できます。
2)実施のポイント
法定制度ではないため、期間・頻度・服装などを 会社と書面で取り決めます。週2〜3回・半日滞在 から始め、体調を見ながら時間を延ばすとよいでしょう。活動は読書や資料整理など 軽作業のみ にとどめ、毎回疲労度を記録しましょう。
3)賃金・費用
休職扱いのため給与は発生せず、交通費も原則自己負担です。保険の適用範囲や細かな扱いは会社によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
お試し出勤は復職直前の 最終リハーサル。会社・産業医・主治医と連携し、無理のない計画で実施することで、復帰当日の不安を大幅に軽減できます。
復職について
主治医が「就労に支障なし」と判断した場合、復職に必要な診断書(復職診断書)を発行します。この書類は 患者さんの症状や職場環境に応じて個別に作成され、復職後の働き方や必要な配慮を具体的に示す重要なものです。
診断書に盛り込む主な配慮事項
①配置転換・異動の必要性
②残業制限・残業禁止
③業務量・業務内容の調整
④テレワーク活用の可否
⑤勤務日数の削減(短時間勤務など)
⑥定期通院の継続
※医学的根拠が乏しい内容は記載できませんのでご了承ください。
復職までの流れ
①診断書の提出
人事部または産業医へ提出。会社によっては直属の上司が窓口となる場合もあります。
②復職可否の判定
通常は産業医が面談や書類審査を行い最終判断を下しますが、社内規定によっては上司が最終判断を行うケースもあります。
③復職開始
診断書に記載された内容、および産業医・上司との面談で合意した条件のもと、段階的に勤務を再開します。
④復職後のフォロー
定期的な通院と経過観察 を続け、体調の変化を早期に把握します。
労働環境が著しく不適切で健康を損なう恐れがある場合は、転職や退職など環境の見直し も検討しましょう。
- 復職後について - 心構え –
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復職はゴールではなく再スタートです。症状が落ち着いている「寛解」状態であり、再発・再燃のリスクは依然として高いことを忘れないでください。
周囲とのギャップに注意
①過剰な期待
「もう完治した」と誤解され、急に重い業務や責任を任されるケースがあります。
②過度な配慮
逆に仕事を極端に減らされると、やりがいを失い自己効力感が低下します。
両極端を避けるために、業務量や担当範囲について上司や同僚と事前に情報共有し、段階的に負荷を調整しましょう。
再発防止のポイント
①定期受診を継続
主治医の診察を欠かさず、早期にサインを見逃さない。
②産業医面談を活用
第三者視点で職場環境をチェックし、働き方の改善案を得る。
③セルフモニタリング
気分・睡眠・食欲を記録し、変調を感じたらすぐ相談。
④相談体制の構築
悩みや負担を感じたら、上司・同僚・家族に遠慮なく共有する。
復職後は、業務量の増加とともにストレスも蓄積しやすくなります。「頑張り過ぎない」「抱え込まない」を合言葉に、周囲と連携しながら無理のないペースで仕事に慣れていきましょう。
- 再発予防について
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うつ病は「いったん症状が消えれば完治」という病気ではなく、再び抑うつ状態に戻りやすい特徴があります。特に自己判断で薬を中断した直後に再燃する例が少なくありません。抗うつ薬には「発症した症状を改善する」働きだけでなく、「再発を防ぐ」重要な役割があります。調査では、初発のうつ病でも5割以上が再発するとされ、再発を繰り返すほど慢性化しやすくなります。2回目の再発率は約7割、3回目では約9割に達するという報告もあります。
そのため日本うつ病学会の治療ガイドラインでは、症状が消失した後も以下の期間は服薬を継続するよう推奨しています。
- 初発の方では症状が無くなってから9ヶ月の服薬が必要
- 再発の方では症状が無くなってから3年の服薬が必要
と再発予防のための服用継続期間を示しています。
減薬や服薬中止を希望する場合は、必ず主治医に相談してください。つづけるべき薬と、段階的に減らせる薬では方針が異なります。また副作用が日常生活に支障を及ぼす場合も、薬の変更で改善できる可能性がありますので遠慮なくご相談ください。
再発を防ぐには、十分な睡眠、バランスのよい食事、適度な運動、ストレスをためこまない生活も欠かせません。服薬の継続とあわせて、主治医や家族・職場とこまめに情報共有し、一人で抱え込まない環境を整えましょう。
- よくある質問
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Q. 休職中の受診の頻度は?
休職中は月2回以上(概ね2週間に1回程度)の受診をお願いしております。
これは病状把握とともに、傷病手当金申請書などの証明に必要なためです。
受診回数が少ない場合、傷病手当金の支給の決定に関しては各保険組合の判断になりますので、ご了承ください。
(受診回数が少なく不支給になるケースが多々あります)
傷病手当金申請書には当月の診察日を記載する欄があるため、該当期間に受診が無い場合は、書類の記載自体が出来ません。
Q. 復職間近はどのように過ごせばよいですか?
起床と就寝の時刻を勤務していた頃と同じリズムで維持し、朝は実際に出勤するときと同じ時間帯に身支度を整えるようにしましょう。電車通勤の場合は、ラッシュ時間帯の列車に乗って会社近くまで足を運ぶ「通勤訓練」を行うと、体力や集中力の回復度合いを確認できます。自宅では午前・午後にそれぞれ1〜2時間ほど読書や資格勉強など軽い知的作業を取り入れ、作業耐性を少しずつ伸ばしていくと良いでしょう。さらに、早歩きやストレッチなどの軽い運動を毎日続けることで身体面のコンディションを整え、気分・睡眠・疲労度を日誌やアプリに記録して変調があれば早めに主治医へ相談してください。こうした準備を重ねることで、復職後に急激な負荷がかかった際の再発リスクを抑えやすくなります。
Q. 何とか頑張って休まず仕事を続けたいです!
受診したからといって必ずしも休職になるわけではありませんが、抑うつ状態が深刻化すると判断力が低下し、自分の疲労やストレスを正確に評価できなくなることがあります。その結果、症状が急激に悪化して長期の休職を余儀なくされる例も少なくありません。短期的には仕事を優先したくても、適切なタイミングで休養を取るほうが結果として回復を早め、仕事への影響も最小限に抑えられます。投薬によって就労を継続したり、会社と相談して勤務時間や業務量の調整を願い出ることも選択肢になりますので、無理を重ねる前に主治医や産業医と現在の状況を共有し、休息や業務配慮の必要性を一緒に検討しましょう。
Q. 労災の証明は可能?
当院では労災保険の申請手続きを直接行うことはできませんが、労災保険指定医療機関への紹介状は発行できます。ただし、どの医療機関が労災保険の指定を受けているかの一覧提供や案内は行っておりませんので、受診先の選定はご自身または勤務先でご確認をお願いいたします。