心のクリニック 医療コラム
2025年11月18日
集中できない自分を責めないで――「取りかかる力」を育てるタスク分割術

「やらなきゃいけない」と分かっているのに、メールを見たりSNSを開いたりして、なかなか仕事や勉強に手がつかない。そんな相談を外来でよく伺います。集中力が続かないのは「気合いが足りない」せいではなく、脳が疲れていたり、ストレスで余裕がなくなっていたりするサインでもあります。

大きなタスクを前にすると、脳は「どこから手をつければいいか分からない」と感じてストップしがちです。このとき役に立つのが、心理学でいう「課題の分割」です。「資料作成」ではなく「フォルダを開く」「タイトルだけ打つ」「必要なメモを3つ書き出す」といった、1〜3分でできる行動まで細かく分けてしまいます。これは仕事だけでなく、家事や育児、就職活動の準備などにも応用できる考え方です。

おすすめは、紙やメモアプリに「最初の一歩」だけを書き出しておくことです。例えば「出張報告書」の場合は、「①前回の報告書を開く ②今回の日付を書く ③箇条書きで出来事を3つ書く」など。完璧な文章を仕上げることは一度忘れ、「とりあえず形にする」ことだけを目標にすると、ハードルがぐっと下がります。

同時に、「集中しやすい環境」を整えることも大切です。机の上を最低限のものだけにして、スマホは別の部屋かカバンの中へ。どうしても手元に置く必要がある場合は、「通知をオフにする」「ホーム画面からSNSアプリを外す」といった工夫も有効です。「見える場所にあるかどうか」だけでも、集中力への影響は大きく変わります。

また、人間の集中力は一日中フルパワーでは続きません。だいたい25〜50分取り組んだら、2〜5分だけ席を立つ、遠くを眺める、ゆっくり深呼吸をするなど、意識して小さな休憩を挟みましょう。短い休息をこまめに入れることで、脳の疲労がたまりにくくなり、結果として仕事の質もスピードも上がりやすくなります。

もし、どうしても取りかかれないタスクがあるときは、「本当に今の自分の体力や時間でこなせる量なのか」を見直してみることも大切です。期限を調整できないか、誰かに一部を頼めないか、そもそもやめてもいい作業ではないかを検討することで、心とからだへの負担を減らせる場合もあります。

それでも「自分だけ要領が悪い」「みんなはもっとできているのに」と自分を責め続けてしまうと、意欲はさらに下がり、ますます動き出しにくくなります。「今日はここまでできた」「前より5分早く取りかかれた」といった小さな変化に目を向け、自分を責める言葉よりも「よく頑張ったね」と声をかけてあげることが、長い目で見て集中力を育てる近道です。

日常の工夫だけでは追いつかないほど疲れが強いときや、集中のしづらさが長く続くとき、うつ病や不安障害、発達特性などが背景にある場合もあります。一人で抱え込まず、専門家に相談することも選択肢に入れてみてください。