仕事を引きずったまま夜を迎えると、脳は緊張モードが続き、眠りが浅くなりやすくなります。うつや不安、適応障害の入り口では、とくに“退勤直後の過ごし方”が翌日の気分と集中を左右します。ここでは精神科・心療内科の視点から、「退勤後60分の分離リセット」を提案します。キーワードは、睡眠、ストレス、セロトニン、ドーパミンの土台を整えること。休職や復職の安定にも役立つ、負荷の低い順序です。
まず10分、「移動の儀式」を決めます。最寄駅から自宅まで、深呼吸を意識しながら歩幅を少しだけ広げるリズム運動。反芻思考が減り、交感神経の張りがほどけます。スマホは通知を一時停止。脳に“仕事は終了”という区切りを渡しましょう。
次の20分は「明日の不安の見える化」。明日のToDoを3つだけ箇条書きにし、初手だけを書き添えます(例:9時メール返信→テンプレを開く)。些細でも“始め方”があると、ドーパミンの予期が働き、漠然とした不安が具体に変わります。人に伝える必要があることは、一言で下書き保存しておくと人間関係のストレスも軽くなります。
続く20分は「光とカフェインのブレーキ」。室内照明をやや落とし、就寝3〜4時間前のカフェインを避けます。寝酒は一時的に眠気を呼んでも中途覚醒を増やし、睡眠の質を下げます。代わりに常温の水をコップ1杯。入浴は“熱すぎず短すぎず”を心がけ、就寝90分前までに済ませると自然な眠気につながります。
最後の10分は「感謝メモ×1行日記」。その日ありがたかった出来事を3つ、各1行で。加えて《今日できたことを1つ》だけ書きます。心の焦点が“足りないもの”から“すでにあるもの”へ移り、セロトニンの安定に寄与します。ここまでで60分。あとは穏やかな音楽やストレッチで緊張を洗い流し、寝床では“眠くなってから入る・起床時刻は固定”を習慣化しましょう。
この一連は、うつ・不安の悪循環(過覚醒→浅い睡眠→集中低下→さらに不安)に“切れ目”を入れる作業です。完璧である必要はありません。週のうち3日できれば上出来。休職・復職の場面でも、まず夜の回復力を取り戻すことが、翌日の働きやすさを底上げします。続けるほど、心も体も「ほどよい元気」に戻っていきます。
困ったら、専門家と一緒に設計し直しましょう。