心のクリニック 医療コラム
2025年10月10日
言葉で心を整える——仕事の不安を軽くする実践メソッド

「うまく言えない」「伝わらない」が続くと、人は孤立しやすく、うつや不安、適応障害の前ぶれに気づきにくくなります。そこで鍵になるのが“言語化・伝え方・聞き方”。休職や復職の判断、睡眠や生活リズムの改善を、言葉を使って進める視点をご提案します。

まずは“いまの自分”の言語化です。1日3~5分、就寝前に「出来たこと・困ったこと・助けてほしいこと」を一行ずつ書き出します。思考の渋滞がほどけ、ストレスの正体が見えます。出社前に胸がざわつく、集中が切れる、眠れないといったサインが続く場合は、早めに専門家へ。職場では「業務負荷」「人間関係」「健康」のどれが主因かを簡潔に共有し、過剰な我慢を避けます。

次に“伝え方”。要点→根拠→お願いの順で一分トークを準備すると、上司や家族に配慮を伝えやすくなります。例:「午後の会議が3本続くと頭痛が出ます(要点)。医師と相談し、夕方は集中力が落ちやすい傾向があります(根拠)。当面は会議を午前中心に調整できると助かります(お願い)」。小さな調整が積み重なると、うつ・不安の増悪を防ぎ、“続けられる働き方”になります。

“聞き方”も強力です。相手の言葉を要約して確認(リフレクション)し、感情語を一つ添えます。「期限が重なって焦っているんですね」。対立が小さくなり、信頼が回復します。雑談は30秒で十分。天気など負担の少ない話題で接点を作ると、チームの安心感が上がります。

生体側の下支えも忘れずに。朝の光とリズム運動、たんぱく質を含む食事はセロトニンの働きを支え、日中の安定と夜の眠気(メラトニン)につながります。達成の見通しを小さく刻み、「報酬予告」を作ることはドーパミンの健全な活用になり、やる気を保ちます。寝る直前のスマホやカフェインは不眠の温床。入眠前90分の“光とカフェインのブレーキ”を意識しましょう。

セルフチェックの指標も用意しましょう。①2週間以上続く抑うつ・興味の低下、②入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒などの睡眠不調、③仕事の能率低下や遅刻増加。三つのうち二つ以上が当てはまる時は、精神科・心療内科で早めに相談を。必要に応じて休職で体制を立て直し、復職は段階的に進めます。

それでも「会社に行くのが怖い」「涙が止まらない」日が続くなら、休職は逃げではなく“治療と再設計の期間”です。計画的に休み、段階的に復職することで、キャリアはむしろ長持ちします。カウンセリングや精神科・心療内科の診療と併走し、必要に応じて勤務時間や配置の調整を。復職前は、睡眠・服薬・通勤練習・想定問答(伝え方テンプレ)をチェックし、再発を防ぐ土台を整えます。

最後に、感謝と言葉の習慣を。1日ひとつ「ありがとうメモ」を残すと、注意の焦点が“出来ない”から“出来ている”へ移り、疲れにくくなります。言葉には回復力があります。迷ったら、早めに相談を。