心のクリニック 医療コラム
2025年11月19日
自分に厳しすぎる人へ──こころを守るセルフケアの始め方

「もっと頑張れたはず」「あの一言は失敗だった」と、自分を責める言葉が頭の中でリピートされていませんか。真面目で責任感の強い方ほど、他人には優しくできるのに、自分には驚くほど辛口な評価を下しがちです。その状態が続くと、ストレスや不安が高まり、睡眠の質が落ちたり、仕事や家事への意欲が下がったりしやすくなります。

最近の心理学では、このような「自分いじめ」をやわらげる方法として、セルフ・コンパッションという考え方が注目されています。直訳すると「自分への思いやり」。甘やかすことではなく、「失敗しても人間としての価値は変わらない」「つらい時こそ、少し優しく接してみよう」と自分に声をかける姿勢です。これはポジティブ思考とは少し違い、無理に前向きな言葉を重ねるのではなく、「落ち込んでいる自分」をそのまま認めて抱え直すイメージに近いものです。

ポイントは三つあります。第一に、「今の自分の状態に気づくこと」。つらさをごまかさず、「今、かなり疲れているな」「焦っているな」と言葉にしてみます。呼吸や肩のこわばり、頭の重さなど、体のサインに目を向けるだけでも、自動的に働いていたストレス反応が少し落ち着きやすくなります。第二に、「同じ状況の友人に、何と言葉をかけるだろう」と想像してみること。「そんなに一人で抱えなくていいよ」「ここまでよく頑張ったね」と、友人にかけるであろう言葉を、そのまま自分にも向けてみましょう。

第三に、「完璧でなくて当たり前」という視点を思い出すことです。仕事でも家庭でも、失敗や迷いは誰にでもあります。うまくいかなかった自分を罰するより、「今回の経験から、次に一つだけ変えてみるとしたら何か」を考える方が、メンタルヘルスの面でも現実的な変化につながりやすくなります。「全部変えよう」とすると苦しくなりますが、「今日は30分早く寝てみる」「明日は一つだけ頼みごとをしてみる」といった小さな工夫なら、続けやすく、睡眠や体調の回復にも役立ちます。

忙しい日常の中では、こうしたセルフケアを思い出す余裕がなくなりがちです。寝る前や通勤時間に一分だけ深呼吸をして、「今日一番頑張ったこと」「ありがたかったこと」を静かに振り返ってみるのもおすすめです。短い時間でも、意識的に立ち止まることがポイントです。小さな一歩でも、自分の努力を認める習慣がつくと、ストレスの受け止め方や人間関係の感じ方も少しずつ変化していきます。

それでも自己否定が強くてつらい、涙が止まらない日が増えている、眠れない日が続く、仕事に行けないほど気力が落ちている……。そんな時は、お一人で抱え込まず、早めに専門家に相談してみてください。受診やカウンセリングを利用することは、「弱さの証拠」ではなく、自分や家族を守るための現実的な工夫の一つです。