心のクリニック 医療コラム
2025年11月15日
自分にだけ厳しい人へ──セルフ・コンパッションで心を守るコツ

自分には厳しいのに、人には優しくできる——そんな方は少なくありません。失敗した時に「またダメだった」「みんな迷惑している」と自分を責め続けると、ストレスや不安が高まり、睡眠や休息の質も落ちてしまいます。自分にだけ厳しいルールを課していると、心は常に緊張状態になってしまいます。今日は、心の筋肉を傷つけずに育てる「セルフ・コンパッション」(自分への思いやり)の考え方を、認知行動療法やマインドフルネスの視点からまとめます。

セルフ・コンパッションは「甘やかし」ではなく、つらい時の自分に対して、親しい友人に向けるのと同じ言葉をかけてみる姿勢です。「なんでこんなこともできないの」と責める代わりに、「今は疲れているだけかもしれない」「よくここまで踏ん張った」と状況を評価し直すことで、自動思考の偏りに気づきやすくなります。これは感情の調整力(EQ)を高めるトレーニングでもあります。長期的にはレジリエンス(折れにくさ)を育て、イライラや怒りの爆発、不安による悪循環を防ぐ土台にもなります。

実践のコツは、①気づく ②言葉を選ぶ ③体を落ち着ける、の三段階です。まず、心の中でダメ出しが始まったら「あ、内なる批判モードに入ったな」とラベルを貼るように意識します。次に「同じことが友人に起きたら何と言うだろう」と想像し、その言葉を自分に向けて静かに繰り返します。「失敗して当然だよ」ではなく、「大事な場面で頑張ったね」「誰にでもうまくいかない日があるよ」と、事実と優しさの両方を含む表現がポイントです。最後に、ゆっくりとした呼吸やストレッチ、短いマイクロ休息などを組み合わせて、自律神経を落ち着けていきます。頭と体の両方からアプローチすることで、ストレス反応は和らぎやすくなります。

職場や家庭では、完璧主義や「期待に応えないといけない」という思いが強いほど、心身のエネルギー残高を使い切りがちです。例えば、仕事で小さなミスをしただけなのに「自分は向いていない」と極端に決めつけてしまうのは、認知のクセの一つです。睡眠リズムが乱れ、集中力が落ちると、さらに自己否定が強まるという悪循環も起こります。そんな時こそ、「今日は七割できていれば合格」「今のコンディションなら、ここまでできれば十分」と、行動のハードルを意図的に下げることが、結果的に生産性やパフォーマンスを守る近道になります。時間管理の工夫と合わせると、心と仕事のバランスを保ちやすくなります。

それでもつらい症状が続く場合は、うつ病や適応障害、不安症、発達特性などが背景にあることもあります。一人で抱え込まず、専門家と一緒に、認知行動療法やマインドフルネスを取り入れたカウンセリング、必要に応じた薬物療法、生活リズムの調整などを組み合わせながら、ペースを大切にして回復を目指していきましょう。