心のクリニック 医療コラム
2025年9月11日
睡眠負債18兆円時代——“社会的時差ぼけ”を減らす3つの習慣

OECDの推計によると、2025年の日本が抱える「睡眠負債」による経済損失は18兆円——運動不足による損失の約10倍にあたる数字です。寝不足のまま出勤した社員一人あたりの生産性低下は年32万円超。企業の働き方改革が進む今、個人レベルでも睡眠の質を上げることが最大のパフォーマンス向上策と言えます。ところが平日深夜まで働き、週末に寝坊する生活は体内時計を乱し、月曜の「社会的時差ぼけ」を引き起こします。この悪循環を断ち切るには、以下の3習慣が鍵になります。

①睡眠中央時刻を揃える
就寝と起床の真ん中の時刻を「睡眠中央時刻」と呼びます。平日0時就寝・7時起床なら中央は3時30分。休日に遅く寝ても、この中央時刻が2時間以上ずれないよう、起床時刻で調整すると体内時計の混乱を最小限にできます。

②短時間昼寝で“利息”を払う
午後2時前後に15〜20分のパワーナップを取ると、集中力と反応速度が向上し、夜間睡眠の質も保たれます。30分以上寝ると深い睡眠に入り起床後に倦怠感が残るため、タイマー設定がポイントです。

③光と暗闇のメリハリ
朝起きたらカーテンを開け、2,500ルクス以上の自然光を5分以上浴びるとメラトニン分泌がリセットされ、夜の眠気がスムーズに訪れます。逆に就寝1時間前からは室内照明を300ルクス以下に抑え、スマホはベッドに持ち込まない徹底を。最新の研究では、就寝前のデジタル光に曝露した被験者は深睡眠時間が平均15%短縮することが確認されています。

これらを1週間実践するだけで、日中の眠気やイライラが減り、判断力の指標となるP300潜時も短縮する例が報告されています。睡眠は「加点」より「減点」を減らす発想が重要。生活リズムの微調整が、心身の健全さと社会全体の生産性を底上げします。なお、スマートデバイスの大手メーカーが発表した2025年睡眠白書によれば、働き盛りの46〜55歳では睡眠不足率が76%に達し、平均睡眠時間は6時間20分に留まります。自分の睡眠記録をアプリで可視化し、客観的に傾向を把握するだけでも行動改善につながるとのデータも示されています。今週末は“寝だめ”より“早寝”を、ぜひ。