質の高い睡眠は、心と体の健康を支える基盤です。とくにメンタルヘルスの面では、気分の安定、ストレス反応の緩和、認知機能(記憶・判断・集中)の向上に大きく寄与します。睡眠中、脳と身体は一日の疲労を回復し、記憶を整理し、翌日に向けてエネルギーを補充します。その結果、日中のパフォーマンスが高まり、感情のコントロールもしやすくなります。とりわけストレスや不安を抱えやすい方にとって、十分な睡眠を確保することは精神的安定の重要な鍵となります。
一方で、慢性的な睡眠不足は、いら立ち・抑うつ感・不安感の増加につながり、社会生活にも悪影響を及ぼします。6時間以下の睡眠が続くと脳のパフォーマンスが著しく低下し、記憶力・判断力・集中力が大幅に落ちることが報告されています。また、対人場面でも影響がみられ、利他的な行動が難しくなったり、周囲から「感じが悪い」と受け取られやすくなることがあります。たとえば、2014年に Journal of Sleep Research に掲載されたデニス・ジャリンらの研究では、睡眠不足の人はネガティブ刺激への反応が約60%強くなると報告されています。つまり、気分の揺れは単なる気の持ちようではなく、睡眠不足によって情動のバランスが実際に崩れていることを示唆します。
さらに、6時間睡眠を2週間続けると、丸2日間の徹夜に匹敵するほど認知機能が低下するというデータもあります。比喩的にいえば、日本酒2合を飲んだときの「酔った状態」に近い認知低下に相当します。すなわち、毎日6時間睡眠が続いている方は、「徹夜明けで働く」あるいは「飲酒しながら働く」のに近いパフォーマンスになりかねません。睡眠不足のままでは、本来の能力を十分に発揮することが難しく、「寝る間を惜しんで働く」ことは生産性の低い作業を健康リスクと引き換えに続けるのと同義になってしまいます。したがって、十分な睡眠を確保し、日々のパフォーマンスを最大限に引き出すことがとても重要です。
また、睡眠は記憶の「整理」と「定着」にも深く関わっています。記憶には、言語化できる陳述記憶と、スポーツや楽器など体で覚える手続き記憶があり、どちらも睡眠によって脳内にしっかり固定されます。したがって、テスト前や本番直前の徹夜詰め込みは記憶定着の観点から非効率です。焦って暗記するのではなく、日頃から少しずつ学び、十分に睡眠をとることで、学習内容が効果的に「整理」され「定着」していきます。