心のクリニック 医療コラム
2025年11月5日
決められない日の処方箋——選択疲れを軽くする5つのルール

会議の前に小さな決断が積み重なると、肝心な場面で判断が鈍ることがあります。これが「選択疲れ」。疲労や睡眠不足、空腹、ストレスが重なると起きやすく、放置すると先延ばしや衝動買い、対人場面での過剰な迎合につながります。在宅勤務やシフト制の方は、境目が曖昧になりやすいので特に注意が必要です。今日は、忙しい人でも取り入れやすい実践ルールを5つに絞って紹介します。

1)決める回数を減らす
毎日選ぶ必要のない項目(朝食、通勤ルート、服装、メールの定型文)は「固定化」して、選択の枠組み自体を減らします。迷う回数が減るだけで、午後の集中力が残ります。固定化の対象は多くても週3種類に。例えば「白シャツ・紺パンツ・グレー」の3パターンにし、朝の判断を自動化すると、その分の注意資源が会議や対人場面に回せます。

2)締切を「時間」ではなく「合図」で決める
「17時までに」よりも「資料を読み終えたら3分で要点を書き出す」など、行動の合図で区切ると迷いが減ります。人は時計より合図に反応しやすく、先延ばしの入口を狭くできます。メールの返信なら「3通読んだら1通返す」など、合図の粒度を揃えるのがコツです。

3)選択肢は最大3つ、評価軸は2つ
候補が多いほど不安が増えます。上位3案に絞り、評価軸を「実行のしやすさ」「影響の大きさ」の2つに限定し、各5点満点で即採点。合計点が最も高い案に「いまの最適解」の印をつけましょう。満点でなくてよい、が合言葉です。迷いが強いときは、点差が1以内なら「どれでもOK」としてサイコロやくじで決め、決めた後は振り返らないこと。

4)体の燃料を切らさない
午前・午後でこまめに水分と軽い補食を。空腹や脱水は思考の粘りを下げ、ネガティブな選好を強めます。深呼吸で心拍を整え、席を立って1分歩くだけでも前頭葉の働きが戻ります。カフェインは遅い時間を避け、夕方以降は温かい飲み物に切り替えると夜の休息が整い、翌朝の判断力が回復します。

5)夜は「明日の1手」だけ決める
大きな決定は午前中に回し、夜は明日の最初の行動だけを決めてメモ。寝ているあいだに脳が情報を整理し、翌朝の判断が軽くなります。もし不安が強い日は、悩みの要素を紙に3項目だけ書き出して「続きは朝に」と区切りましょう。スマホの通知は寝る30分前に切り、ベッドでは考えごとをしない、もルールに入れます。

これらは意思力を「鍛える」より、使い方を設計し直す発想です。完璧な一撃を狙うより、小さな仕組みで判断の質を底上げするほうが現実的。迷いが減ると、人間関係の摩耗も小さくなり、仕事と生活の余白が戻ってきます。最初は1つからで構いません。1週間続け、合わないルールは容赦なく手放す。それが長続きのコツです。