心のクリニック 医療コラム
2025年11月27日
感情の「取り扱い説明書」を育てる――心を守る感情知性のススメ

私たちは一日中、さまざまな感情に揺れています。嬉しい・不安・イライラ・もやもや……。けれども「感情の付き合い方」を体系的に学ぶ機会は多くありません。その結果、「こんなことで落ち込む自分は弱い」「怒ってしまう私はダメだ」と、感情そのものを責めてしまい、余計につらくなることがあります。

近年、心理学の世界では「感情知性」という考え方が注目されています。これは、IQのような頭の良さではなく、「自分や他人の感情に気づき、うまく扱う力」のことです。感情知性が高い人は、感情を押し殺したり爆発させたりするのではなく、「今、自分はこんな気持ちなんだな」と受け止めたうえで、行動を選び直すことができると言われています。

感情知性の土台として、まず大切なのは「気づく力」です。例えば、仕事でミスをしたとき、「情けない」「不安」「焦り」「申し訳なさ」など、複数の感情が同時に湧いていることが多くあります。ノートやスマホのメモに「今の気持ち」を3つ書き出してみると、「自分はただ怒っているのではなく、不安や悲しさも感じているんだ」と立体的に見えてきます。「こんなに揺れるなんて弱いからだ」ではなく、「それだけ頑張ってきたからこそ、心が悲鳴を上げているんだな」と捉え直せると、少し呼吸がしやすくなります。

次に大切なのは、「感情と行動を分けて考える力」です。イライラしたときにきつい言葉をぶつけてしまうと、人間関係のトラブルにつながります。しかし「イライラを感じること」自体は悪いことではありません。感情は、心と体のアラームのようなものだからです。「今、疲れと不安でイライラしているな」「仕事が立て込みすぎているサインかもしれない」とラベリングするだけでも、衝動的な行動を選びにくくなります。

三つ目のポイントは、「感情を共有できる相手をもつこと」です。人に話すことで状況が変わらなくても、「分かってもらえた」という感覚は、大きな心の支えになります。家族や友人に話しづらい内容であれば、カウンセリングなど専門職との対話も選択肢になります。「弱音を吐く=迷惑」ではなく、「助けを求める力も一つのスキル」と考えてみると、少し気が楽になるかもしれません。

感情知性は、生まれつき決まっている能力ではなく、少しずつ育てていける「一生もののスキル」です。完璧を目指す必要はありません。まずは一日に一度、「今日印象に残った気持ち」をメモしてみることから始めてみませんか。できなかった日は自分を責めず、「また明日からやってみよう」とゆるやかに続けていくことが、結果として大きな変化につながります。