「話を聴く」は“相手の内側の整理を手伝う行為”です。コツは三つ。第一に要約。事実関係と相手の意図を一文でまとめ、「つまり◯◯という状況で、◯◯が気がかりなんですね」と確認します。第二に感情の名前付け。怒り・悲しみ・不安・悔しさなど、感じていそうな言葉をそっと当ててみると、脳の“警報”が落ち着きやすく、考えが言葉になりやすくなります。第三に沈黙。すぐ助言せず、相手が次の言葉を見つける余白を待つ。信頼の土台が厚くなります。
実践のポイントは、質問を少なめにすること。疑問形を重ねると尋問になり、相手は防御的になりがちです。代わりに「私にできることは?」「今いちばん困る場面は?」の二つに絞る。助言は最後に一つだけ、具体的な次の一歩として提案します。
NGは、①評価(「それは甘い」)②比較(「私はもっと大変だった」)③すり替え(すぐに自分の話)。聴く側の“正しさ”は脇に置き、相手の価値観の中で整理を手伝う。終わりに「話してくれてありがとう」と一言添えると、関係は次につながります。
もう一段深めるなら、「感情→理由→願い」の順に鏡写しで返す練習が役立ちます。例:「その件、不安ですよね(感情)。納期が読めないのに責任だけ重くて(理由)、せめて見通しがほしいんだと思いました(願い)」。この三点が言葉になると、相手は“自分の中身が見えた”感覚を得て、次の打ち手を選びやすくなります。
非言語も大切です。相づちは短く、うなずきはゆっくり、視線は相手の目元と資料の間を往復。相手が沈黙したら、十数秒は待つつもりで呼吸を整える。焦りが出たら、足裏の感覚を思い出すだけでも聴く姿勢が戻ります。
短いスクリプト: A「今朝の会議、疲れました」 B「お疲れさま。つまり議題が散らかって、結論が出ない感じだった?」 A「そう。責任だけこちらに戻ってきて…」 B「それは重いね。何が整うと少し楽?」 A「締切と担当が決まれば」 B「じゃあ私が素案つくる。確認できる?」——この流れだけでも、関係と課題が同時に進みます。