心のクリニック 医療コラム
2025年10月1日
“先の見えなさ”に強くなる——不確実性との付き合い方

先の予定が詰まっているのに手が動かない。そんなとき、私たちは「やる気」を待ってしまいがちです。しかし、心の調子は天気のように揺れます。波に合わせて暮らすより、波の上に浮かぶ“いかだ”を用意しておく発想が役立ちます。ここでいういかだとは、毎日ほぼ同じ順番でこなす「小さな固定手順」です。朝起きたらカーテンを開けて深呼吸、白湯を一杯、机に5分だけ座る——内容は簡単で構いません。大切なのは、気分に関わらず実行できることを3〜5個だけ決めておくこと。心のエンジンは、動かすからかかります。

不安や落ち込みが強い日は、作業を「始める前の前工程」にまで分解するのがコツです。メールの返事なら“返信フォルダを開く”“宛先を入れる”“最初の1文だけ書く”の三段階に区切ります。全部やろうとしない代わりに、区切りごとに短い休憩を。完了のチェックは「できた/やった」だけで評価しません。成果ではなく回数を貯めるイメージです。

また、夜の過ごし方が翌朝の負担を軽くします。寝る90分前から照明と情報量を落とし、翌朝の服やカバンを玄関近くに置いておく。起床直後の“迷い”を減らす仕掛けは、不安の温度を一段下げてくれます。人間関係で消耗した日は、相手を変えようとせず、自分の行動文を短く整えましょう。「今日はここまで話す」「この件は明日再確認する」と決めて言い切る。曖昧さを残しすぎないことが、考えすぎの渦から抜ける第一歩です。