心のクリニック 医療コラム
2025年9月21日
伝え方の不安をほどく——「頼む・断る・相談する」の型

人に伝えるのが苦手なのは、性格ではなくスキルの未学習に過ぎません。今日から使える3つの型を紹介します。どれも「自分も相手も大切にする」前提で、衝突を減らし、関係を長持ちさせるための道具です。

【頼む】は「感謝→具体→余白」。例:「いつも助かっています。明朝までにこの表をご確認いただけますか。難しければ週明けでも大丈夫です」。先にねぎらいを置き、要件は日時・量・形式を明確に。最後に“逃げ道”を添えると、相手は動きやすくなります。

【断る】は「共感→Iメッセージ→代案→締め」。例:「声をかけていただいて嬉しいです。今週は診療の締切が重なり、新しい案件をお引き受けできません。代わりに来週の水曜なら30分なら時間が取れます。せっかくなので、その時に最初の要点だけ共有しませんか」。過剰な弁解より、事実と希望を短く。

【相談する】は「事実→困り→希望→期間」。例:「最近、午後の外来が延びてカルテ記載が遅れています。患者さんの安全のためにも、17時台だけ受付終了を10分早めるか、金曜のみ記載時間を確保できないでしょうか。まず2週間試して、問題がなければ見直します」。論点は一つに絞り、期限付きの試行で合意を取りやすくします。

小技として、①短いクッション言葉(「一つだけご相談してもいいですか」)②“壊れないレコード”(同じ主張を穏やかに繰り返す)③境界線の言い換え(「できません」→「〜ならできます」)を用意しておくと安心。練習は、紙に下書き→声に出す→20〜30字に短文化の順で。うまくいったフレーズはメモ帳に残し、次の会話で再利用しましょう。

土台として覚えておきたい「基本的な自己権利」も役立ちます。自分の気持ちや意見を表明する権利、分からないと言う権利、ノーと言う権利、考えを変える権利、他人の問題を背負わない権利。これらを“心の許可証”にすると、丁寧さを保ちながらも必要な線引きがしやすくなります。フィードバックを受けるときは、事実→影響→次の行動の順に要点化し、防衛的な反応を避けるのがコツです。