心のクリニック 医療コラム
2025年9月19日
予期不安にのまれない——小さな曝露と安全行動の手放し方

「また動悸が出たらどうしよう」「会議で頭が真っ白になるのでは」—起こる前から心配がふくらむ予期不安は、行動範囲をじわじわ狭めます。鍵は“避けるほど不安が強化される”という学習の仕組みを逆手に取り、少しずつ慣らすこと。まず、怖さを10段階で見積もり、台本を作るように「階段表」を作成します。たとえば①3人の前で1分話す→②5人の前で2分→③10人の前で質疑1つ…のように具体化。各段では、深呼吸や姿勢リセットなど“今ここ”に戻るサインを用意し、怖さが5以下に下がるまで待つのが基本です。

同時に見直したいのが安全行動。常に水を持つ、逃げ道の席に座る、説明を全文暗記する——安心のための工夫が、かえって「それがないとダメ」という思い込みを強めることがあります。すべてを一度に手放す必要はありません。段階ごとに一つずつ減らし、できたら記録して自己効力感を育てます。うまくいかない日は休憩に切り替える柔らかさも忘れずに。

実践のテンポは、週2〜3回・10〜20分から。短くても「避けずに向き合えた」という事実が積み重なると、脳は新しい学習をします。記録シートには①場面②開始前の不安(0〜10)③途中の工夫④終了時の不安⑤学び——の5項目。次回のステップを微調整でき、成長の実感が残ります。人前での練習は、信頼できる同僚や家族に同席してもらうのも効果的。「終わりまで席にいる」だけでも十分な曝露になります。

体調の土台も整えましょう。カフェインやアルコールの量、睡眠の乱れ、運動不足は不安の増幅要因。刺激を控える時間帯を決め、朝の散歩や軽い筋トレを習慣化すると、心拍と呼吸のコントロールが楽になります。

思考のクセにも一工夫を。「最悪シナリオ→起こる確率→起きた場合の対処」を30秒で書き出すと、ぼんやりした恐怖は輪郭を持ちます。「役に立つ心配(行動につながる)/役に立たない心配(反芻だけ)」を分け、前者はToDo化、後者は“また考えている自分に気づく”だけに。対人場面が中心の不安は“失敗しても大丈夫”の体験、身体感覚が主役の不安は“ドキドキに慣れる”練習を少量多頻度で。