心のクリニック 医療コラム
2025年11月9日
予定は“心身の残高”から——エネルギー予算で折れにくい一日をつくる

朝は元気でも、午後になると決断が鈍り、夕方に小さなミスが増える。これは意志の弱さではなく、「使える心身の燃料=エネルギー残高」が減っていく自然な現象です。予定を詰めるほど成果が出るわけではありません。大切なのは、時間ではなくエネルギーを軸に一日を設計すること。今日は簡単に取り入れやすい“エネルギー予算術”を紹介します。

①一日の固定費を知る
起床直後~午前中は脳の前頭葉が働きやすく、思考や判断のタスクがはかどります。逆に昼食後や夕方は疲労と眠気で残高が減りやすい。まずは3日分だけで良いので、1~10の主観スケールで「体力・集中・気分」を朝昼夕に点数化し、あなたの“固定費”(必ず消費される量)を把握しましょう。

②高負荷タスクは“束ねて、早めに、短く”
会議、難しいメール、重要な電話などは、残高が高い午前の同じ時間帯に束ねます。長引くほど消耗するので、アジェンダ・締切・終了時刻を先に宣言し、45分で区切る。次の予定まで5分だけ目を閉じる、深呼吸を3セットなど、短い回復を挟むと効率が落ちにくくなります。

③“交換可能”な予定を用意する
予定表に余白がないと、想定外に弱くなります。あらかじめ「後日にスライドできる軽作業」を2~3個、同じ枠に入れておきましょう。残高が少ない日は軽作業に交換し、気力がある日は重い課題に充てる。これは“自分を甘やかす”ではなく、再発を防ぐ戦略です。

④人間関係の出費は“前払い”
苦手な相手に会う、混んだ場所に行く——こうした予定は見込み消費が大きめ。前日夜は刺激物や夜更かしを避け、当日は移動時間に静かな音声や呼吸法で心拍を整えるなど、エネルギーを前払いしておくと負担を平準化できます。

⑤帰宅後30分は“翌日の仕込み”
疲れているほどスマホに吸い寄せられがちです。帰宅直後の30分だけは「片付け・入浴・軽ストレッチ・明日の支度」に限定。スクリーンは後回し。ここで睡眠の入口が整い、翌日の初動が軽くなります。補足:昼食は腹八分、15分の外気浴や階段の上り下りで眠気を抑える。カフェインは夕方以降は控えめに。

⑥週の設計は“3色ルール”
予定を「高負荷=赤」「中程度=黄」「回復=青」に色分けして眺めます。赤が連続する日は青を差し込み、黄は午前に寄せる。金曜の夜か日曜の昼に10分だけ“週次レビュー”を行い、赤の原因と青の手段を1つずつ増やすと、波の大きさが徐々に落ち着きます。

うまくいかない日は「予算オーバーだった」と考えてください。自分を責めるより、どこで固定費が膨らんだか、どの予定を交換すべきだったかを見直す。エネルギー軸で予定を組み直すと、仕事の質も気分の波も安定していきます。完璧より“続けられる設計”を優先することが、長い目でみる最大の近道です。