仕事や家庭でストレスが重なると、「頭の中で同じ場面がぐるぐる再生されて眠れない」「考えすぎだと分かっていても止まらない」というご相談をよく伺います。
この“思考のループ”は、心のエネルギーを消耗させ、睡眠や集中力にも影響してきます。
そんなときに役立つのが、頭の中のモヤモヤを紙やスマホに一度「引っ越し」させる、シンプルな認知行動療法ベースの「思考の整理メモ」です。特別な道具は不要で、ペンとメモ、もしくはスマホのメモアプリがあれば十分です。
●ステップ1:場面と気持ちを書き出す
まずは、次の3つだけを書いてみます。
・いつ、どこで、何があったか(できるだけ具体的に)
・そのときの気持ち(例:不安、怒り、悲しさ、恥ずかしさ など)
・気持ちの強さ(0~100%くらいで数字をつける)
例:
「○月○日 20時頃、上司からメールで指摘を受けた。不安80%、落ち込み70%」
これだけでも、頭の中でぼんやりしていた「イヤな感じ」が、少し輪郭を持った対象に変わります。感情を“見える化”すること自体が、心を落ち着かせる第一歩です。
●ステップ2:「頭に浮かんだ言葉」をそのまま書く
次に、その場面で頭に流れていた言葉を、そのまま一行ずつ書き出します。
「やっぱり自分はダメだ」
「もう信頼されていない」
「明日が怖い」
こうした自動的に浮かぶ考えを、専門用語では「自動思考」と呼びます。ポイントは、良い・悪いの評価をせず、「頭に流れていた“セリフ”をそのまま録音して書き起こす」イメージで書くことです。
書き出すことで、「考え」と「自分」が少し離れた位置に置かれます。
“自分=考え”ではなく、「自分が考えを眺めている」状態をつくることが、感情の波に飲み込まれにくくなるコツです。
●ステップ3:3つの質問で、考えと距離をとる
書き出した考えを、次の3つの質問でそっと眺めてみます。
①本当に100%そうだと言い切れるだろうか?
②大切な友人が同じことを言っていたら、自分は何と声をかけるだろう?
③この考えを信じ続けると、自分にとって役に立つだろうか?
「上司は自分をもう信頼していない」という考えなら、
・別の見方は?
→「今回は注意されたが、以前は感謝もされていた」
・友人に同じことを言われたら?
→「一度の指摘だけで“信頼ゼロ”とは限らないよ、と伝えるかもしれない」
・役に立つか?
→「落ち込みが強くなりすぎて、かえって明日の準備ができなくなる」
このように、「事実そのもの」と「頭の中のストーリー」を分けて眺め直すことで、感情の強さが少し和らいでいきます。
●ステップ4:最後に「小さな一歩」を決める
整理メモの締めくくりとして、「今の自分にできる、小さな一歩」を一つだけ書きます。
・明日の朝、5分だけ早く出勤して、資料を見直す
・不安が強いことを、信頼できる同僚に短く相談してみる
・今夜は考え続けるのではなく、寝る前にストレッチを5分だけする
大きな決断ではなく、「今の自分が現実的にできそうな一つ」に絞るのがポイントです。
考えを整理したうえで、小さな行動を選ぶことが、自己肯定感やレジリエンス(折れにくさ)につながっていきます。
●続けるコツ:完璧を目指さず「1日1メモ」
毎日のように丁寧に書こうとすると、かえって負担になってしまいます。
おすすめは、「今日はちょっとしんどかったな」と感じた日の夜に、1日1件だけ振り返るやり方です。
・スマホのメモアプリにテンプレートを作っておく
・寝る前の5分を「振り返りタイム」と決める
・書き終わったら、ゆっくり3回、息を吐くことをセットにする
これだけでも、「一日を終えるスイッチ」が入りやすくなり、布団に入ってからの“反省会ループ”が少し静かになりやすくなります。
●一人で抱え込まないでいい、という選択肢も
思考の整理メモは、日常のストレスやモヤモヤに対して、自分でできるセルフケアのひとつです。ただ、強い落ち込みや不安、過去のつらい体験が関係しているケースでは、一人で取り組むには負荷が大きい場合もあります。
「メモを書いてもつらさが変わらない」「そもそも手をつける元気が出ない」と感じるときは、医療機関やカウンセリングなどの専門的な支援を頼っていただいて大丈夫です。