心のクリニック 医療コラム
2025年10月14日
ミスの伝え方で心は守れる――職場の「心理的安全性」をつくる3つの会話術

「うまく報告できない」「言いにくくて先延ばしにした」。そんな緊張や不安は、うつや適応障害の悪化にもつながりやすく、休職や復職のタイミングを迷わせます。実は、職場での伝え方を少し変えるだけで、ストレス反応が下がり、仕事の再スタートがぐっと楽になります。ここでは、横浜・新横浜で働く方にもすぐ使える3つの会話術を紹介します。いずれも責めるのではなく「事実を共有し、解決に進む」ための方法です。

第一は「Iメッセージ」。相手の落ち度を指摘する代わりに、自分の感情とニーズを短く表します。例えば「提出が遅れて困りました」ではなく、「提出の遅れで私の工程が止まって焦っています。今日中に10分でよいので状況を教えてもらえますか」。人は非難されると防御的になり、話し合いが止まりますが、主語を自分に置くと、相手は内容に耳を傾けやすくなります。小さな摩擦を早めに解くことで、不安の雪だるま化を防げます。

第二は「DESC」。Describe(状況の記述)→Express(影響・気持ち)→Specify(望む行動)→Consequences(良い結果)を一息で伝える型です。例えば、ミスの相談なら「この数値が想定より大きいです(D)。このままでは品質が心配です(E)。私が再計算するので、Aさんは入力の根拠を共有してください(S)。今後の手戻りを防げます(C)」。型を使うと、感情的になりにくく、上司や同僚にも伝わりやすい。復職直後の「疲れやすさ」「判断のばらつき」がある時期ほど、言い方の型は大きな支えになります。

第三は「弱いつながり」を活かす雑談。挨拶やひと言の世間話でも、所属感と気分が上がり、ストレス耐性が高まります。昼休みに1分だけ誰かと会話する、オンラインなら会議の冒頭に「今日のGood」を一言シェアする――これだけで午後の集中が変わります。復職期の孤立感を和らげ、うつ・不安の悪循環を断つ小さな仕掛けです。

これらは「心理的に安全な」職場づくりにも直結します。ミスや不調を早めに言える環境は、結果的に業務の質を上げ、再発予防にも有効です。完璧さより「早く共有して一緒に直す」。その姿勢がチームのドーパミン(達成感)とセロトニン(安定感)を育て、睡眠の乱れや過度な緊張を緩めます。医療や産業の現場でも、発言しやすさとエラー報告の促進が安全向上に寄与することが示されています。

今日からの実践メモ:①朝礼やチャットでIメッセージを一度だけ使う、②難しい話はDESCの順で箇条書きにしてから口に出す、③昼に1人以上と30秒の雑談。小さな行動の積み重ねが、休職前の踏ん張り・休職中の回復・復職後の安定を同じ線で結びます。精神科・心療内科の視点でも、伝え方の改善は薬や睡眠の調整と並ぶ「効く土台」です。つらさが続く時は早めに専門家へ。