心のクリニック 医療コラム
2025年12月3日
■「やること」より「やらないこと」を決めるメンタルケア

気づいたら一日中「やること」に追われている、そんな感覚はありませんか。仕事・家事・育児に加えて、メールやチャットの返信、SNSのチェック……。現代の私たちは、以前よりもはるかに多くの情報とタスクに囲まれています。その結果、常に頭の中がフル稼働し、疲労感やストレス、不安、イライラが慢性化しやすくなります。こうした「心のオーバーワーク」を防ぐうえで役立つのが、「やらないことリスト」をつくるという発想です。

1.心と時間を守る「やらないことリスト」とは
「やらないことリスト」は、その名の通り、自分が意識的に手放す行動を書き出したものです。たとえば「寝る直前の仕事メールチェックはしない」「同僚の愚痴には全部つきあわない」「残業するときも22時以降は働かない」など、小さく具体的に決めていきます。ポイントは、気合や根性ではなく、「ルール」としてあらかじめ決めておくことです。そうすることで、その場その場で悩むエネルギーを節約でき、決断の負担が減ります。心のエネルギーを、仕事や家族との時間など**「本当に大切なこと」**に振り向けやすくなるのです。

2.「やめる」と決めるとストレスが減る理由
私たちの脳は、一度に扱える情報量に限りがあります。「あれもやらなきゃ」「これもやらなきゃ」とたくさん抱え込んだ状態は、それだけで強いストレスになり、集中力や意欲の低下、うつ病や不安障害のリスクにもつながります。一方、「やらないこと」を先に決めると、自然にタスクが絞り込まれ、頭の中が整理されていきます。「今日やることはこれだけ」と見える化されることで、達成感も得やすくなり、自尊感情や自己効力感も少しずつ回復していきます。完璧主義が強い方こそ、「全部やる」より「ここまではやらない」と線を引く練習が、メンタルヘルスの安定に役立ちます。

3.実際に書き出してみよう
最初は、紙かスマホのメモに「平日にやらないこと」「休日にはやらないこと」と分けて3〜5個ずつ書き出してみましょう。いきなり大きな行動を手放す必要はありません。「通勤中にSNSを開かない」「ベッドの中で仕事のことを考え続けない」「疲れ切っている日は、人の誘いを無理に受けない」など、小さな一歩で十分です。続けていくうちに、「これは自分に合う」「これは少し厳しすぎた」といった感覚が分かってきますので、ときどき見直しながら自分にちょうど良いルールへ調整していきましょう。

もし「やらないことリスト」をつくってみても、疲れが取れない、気分の落ち込みや不眠、不安感が強いといった状態が続く場合は、一人で抱え込まずに専門家に相談してみてください。