心のクリニック 医療コラム
2022年10月26日
『適応障害』について

◆適応障害とは

適応障害とは、様々なストレスを原因とした短期的な精神的・身体的な反応のことであり、ストレス性障害とも言われます。様々なストレスを受けて、一時的に落ち込んだり眠れなくなったり精神的・身体的な症状が出る事はありますが、多くは短期間で収まります。

 

しかし、そのストレスへの反応が原因で、学校や仕事に行けなくなったりと、社会生活に大きな影響を与えてしまいます。このようなストレスへの過剰な反応を適応障害と言います。

 

同じ内容・同じ程度のストレス要因であっても、個々人によってのストレスへの反応の程度は異なります。つまり適応障害とは、生活の変化や出来事を原因として、普通の日常生活が送れなくなる程の精神的・身体的な症状が出現している状態といえます。

 

ストレスの原因は、本人でも分かりはっきりしている事が多いので、その原因から離れる事で症状は速やかに軽減するのが特徴です。しかし、そのストレスが長期間継続する状態では、症状の悪化や慢性化してしまうので注意が必要です。

 

 

◆適応障害の原因

適応障害になる原因の殆どは、ストレスに因ります。しかし、同じ出来事であっても人によって感じるストレスの程度は異なります。ある人には「そこまで大きなストレスにならない」と感じるような内容であっても、他の人にとっては重度のストレスとなり、生活に支障を来す場合があります。

 

ストレスと言っても、つらい事があっただけが原因とは限りません。例えば天気でも低気圧や気温の変化に因るものでストレスが掛かる事はあります。また、騒音や異臭などの生活環境に因るものなども原因となる可能性は高いです。

 

適応障害を発症させる可能性があるストレスは、必ずしも悪い出来事やつらい出来事がきっかけとなるわけではなく、嬉しい出来事であっても発症の原因となるほど大きなストレスが掛かる場合もあります。ストレスを乗り越える事が出来ない状況や、ストレスの内容が自分の気持ちとミスマッチしている状況で発症する事が多いです。

 

適応障害を発症した場合は、原因を特定することが重要であり、そのストレスの内容が本人にとってどのような意味を持つのかという視点で考えていく事が治療を行っていく上で大切です。

 

 

◆適応障害の症状

適応障害の患者さんは、主に不眠症状や動悸等の不安症状、うつ症状を中心とした精神的・身体的な症状が見られます。

 

職場に出勤する事が原因となっている場合は、勤務怠慢になり仕事の効率が悪くなり、仕事のミスが多発するといった特徴があります。しかし、休日になると自分の趣味や興味のあることに楽しむ姿が見られたり、症状が軽くなったりする患者さんは多くみられます。そのため、ストレスが無い時は趣味等に活動的になっている姿を見られた場合は、周囲から「仕事にやる気が無い」と誤解されてしまう事があります。症状について、なかなか理解されず苦しむ事が多いです。

 

また、苦痛から逃れたいと思う気持ちから、例えば「職場を退職する」等、ストレスとなる状況を回避しようとする行動が多いです。その結果、社会的に生活する事が困難となり、症状の慢性化に繋がりかねません。

 

 

◆適応障害の診断

適応障害は100人に2~8人の割合で発症し、男女比は、2:1と女性に多いと言われています。また、精神科で治療を受けている人のうち、適応障害と診断されている人は20%程度とされ、一般的にもよくみられている疾患と言えます。

 

ICD-10(国際疾病分類 第10版)によると、適応障害の診断基準は以下の通りです。

 

診断は、以下の諸項目間の関連の注意深い評価に基づく。

(a)症状と形式、内容および重症度

(b)病歴と人格

(c)ストレス性の出来事、状況、あるいは生活上の危機

 

第三の項目の存在は明確に確認されるべきであり、強力な、推定的であるかもしれないが、それなしに障害は起こらなかったという証拠がなければならない。ストレスが相対的に小さいか、あるいは時間的結合(3ヵ月未満)を立証することができないならば、現症に応じて他のどこかに分離すべきである。

 

つまり、症状の出現に対してストレスの原因となる出来事があったかどうか、いつから症状が出ているのかを確認する事が重要になります。

 

 

◆適応障害の治療

適応障害の治療は、まずストレスの原因を突き止めます。ストレスの原因をコントロールするように環境調整をする事が最も重要な治療法です。患者さん1人でストレスの原因を解決する事は難しい場合は、家族、職場の上司、会社医療スタッフ(産業医・保健師等)、医療機関等でサポート体制を整えていきます。

 

しかし、環境を変えられない場合もあります。夫婦や両親との関係などはストレスの原因から離れる事は難しいでしょう。このような場合は、カウンセリングが奏功するかもしれません。カウンセリングを受ける事で、環境を変えられない場合であっても、その環境に合わせて意識や行動を変容し、環境に適応していく力を高められるようになります。また、不眠・イライラ・不安感・恐怖感等が目立つ場合は薬物治療も並行します。

 

適応障害になる程のストレス原因に対して回避行動を取り続け、症状が改善したとしても、再び同じストレス原因に直面しなければならない場合もあります。適応障害の再発防止のために、ストレス原因への適応を促し、ストレス耐性を向上させる事が重要なのです。

 

適応障害は、原因であるストレスが解決されたり、ストレス耐性が向上したりする事で、症状が軽快し治癒する方が多いです。そのため、適応障害は予後が良好な病気だと言えるでしょう。

 

しかしながら、長期間に渡り強いストレスがかかった状況では、適応障害からうつ病に移行する場合があります。したがって、適応障害と診断された後の経過でうつ病と診断される場合もあります。つまり、適応障害はうつ病の前段階となる可能性もあり、「少し休めば大丈夫」だと安易に判断してはいけません。適応障害から、うつ病への移行を防ぐ事が大切なのです。心の問題は、周囲に理解されない事が多いですが、早めに対応する事で、予防や症状の増悪を防ぐ事が出来ます。

 

適応障害で休職する場合では、うつ病と比較して症状の改善は速やかです。しかし、症状が良くなったからといって、何も準備をしないで復帰してしまうと再発する可能性があります。そこで、再発予防の為のリハビリが大切です。休職中に、「復職後のストレス」について検討し、どのように対応すれば再発防止になるのかといったストレス対処法を身につけることが重要です。

 

また、しっかりとした休息をとりながら、以下に挙げた事柄を継続する事が大切です。

 

・朝早い時間に日光を浴びる事(しっかり睡眠をとり生活サイクルを安定させる

太陽の光を浴びる事で日光が網膜を刺激して、セロトニンの分泌を促しましょう。室内の光は太陽の光の明るさには到底及ばず、あまり分泌されません。また、曇りの日でも家庭用の蛍光灯の数倍の明るさがありますので、積極的に太陽の光を浴びましょう。また、人間の体内時計は25時間と言われ、メラトニンというホルモンが関係しています。メラトニンは脳内の睡眠誘発物質で、分泌が増えると眠気を感じます。朝起きて太陽の光を浴びると、体内時計が正しくリセットされ、昼間のメラトニンの分泌が抑制され、逆に夜にはしっかりとメラトニンが分泌されるようになります。これにより自然な眠りを誘う作用があります。

 

・適度な運動を行う事

運動に関しては、一定のリズムで行なう運動がセロトニンの分泌を高めてくれます。リラックスして、毎朝15分程度のウォーキングを楽しむといった方法が良いです。

 

・3食バランスの取れた食事をしっかり咀嚼して食べる事

セロトニンの材料となるのが、たんぱく質に多く含まれるトリプトファンという必須アミノ酸です。肉・魚・大豆・乳製品にたんぱく質が多く含まれますから、これらの食材をとることでトリプトファンを摂取することができます。また、トリプトファンからセロトニン生成の為にビタミンB群やビタミンC、亜鉛などの成分が必要です。また、イワシやサンマなどの青魚に多く含まれ、脳機能の回復に有効だと言われているEPA、DHAは近年、うつ病の改善にも有効であるとの報告がされています。これらを意識して食生活を変えてみるもの大事な治療になります。

 

・人との交流を持つ事

人間は誰かを喜ばせたり、誰かの役に立つことで自身も幸福や充足感を得られる生き物です。たとえ親密な関係が無い相手であっても積極的に交流を持つようにしましょう。

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