心のクリニック 医療コラム
2025年10月3日
「しんどいサイン」に早く気づき、回復の順番を整える

仕事や家庭の変化が続くと、心は静かに疲れを溜めます。朝の支度が重い、集中が続かない、同僚の言葉に過敏に反応する――こうした前ぶれは、心身のブレーキランプです。大切なのは、我慢の延長線で踏ん張ることではなく、回復の“順番”を整えること。まずは土台のケア、その次に考え方と対人の整え、最後に職場との調整へと進むと、無理なく立て直しやすくなります。

最初の土台は睡眠と生活リズム。起床時刻を毎日そろえる、午後のカフェインを控える、ぬるめの入浴で体温の波を作る、といった小さな習慣が効きます。夜の「反芻思考」には、ベッドにメモ帳を置いて気になる事を紙に退避。脳に「今は保留でよい」と合図を出すのがコツです。

次に、感情の扱い方。もやもやを「怒り」「不安」「悲しみ」など一語で名付け、強さを10段階で評価してみましょう。言葉にすると、感情は輪郭ができて弱まります。「今日できた小さな良いこと」を三つ書く“感謝メモ”も、視点を現実的に戻してくれます。

対人面では、伝え方と聞き方を意識。主語を「私」にして事実→感情→希望の順で短く伝えると、対立を避けられます。相手の話は結論を急がず要約して返すだけで、関係の温度が下がります。雑談は天気や昼休みの話題など、負荷の低い入口からで十分です。

症状が続く場合、無理に走り続けるより「いったん減速」が有効です。必要に応じて休職は選択肢になります。休む期間は“治す期間”ではなく“整える期間”。①睡眠の安定、②日中活動(散歩や軽い家事)、③思考のクセの点検、④家族・職場との連携――この四本柱を細く長く続けると、復帰の地力が戻ります。復職時は、段階的な勤務と明確な相談窓口を決め、成功体験を重ねる設計にしましょう。

つらさは「弱さ」ではなく「助けが要るというサイン」。ひとりで抱え込まず、専門家と一緒に計画を作ると、安全に前へ進めます。