心のクリニック 医療コラム
2025年9月12日
感謝がもたらす脳と心のリセット効果

「ありがとう」と口にするだけで、脳内では幸福感を司るセロトニンや絆を深めるオキシトシンが分泌されることが多くの研究で示されています。これらの物質はストレスホルモンであるコルチゾールの過剰分泌を抑え、自律神経のバランスを整える働きがあります。さらに、感謝の言葉を発した当事者だけでなく、聞いた相手にも同様のホルモン反応が起こるため、職場や家庭全体の空気が穏やかになるという伝播効果も期待できます。

まずは一日の終わりに今日感じた小さな喜びを三つ書き出す「感謝日記」を試してみましょう。紙に書く行為は頭の中のモヤモヤを外在化し客観視する効果もあります。寝る前にポジティブな感情を思い出すことで副交感神経が優位になり、入眠までの時間が短くなることも報告されています。眠りの質が向上すれば、翌朝の活力や集中力も自然と高まります。

次に、対人関係のストレス緩和に役立つ「感謝メッセージ」の習慣です。メールやチャットの最後に一文「迅速な対応に感謝します」と添えるだけで十分。受け取った相手がポジティブになると、鏡のようにこちらも前向きな気分が増幅されるブーメラン効果が生まれます。感謝を伝える行為は自己肯定感を強め、うつや不安の発症リスクを下げる保護因子になるというデータもあります。

さらに週に一度だけでもボランティアや地域活動に参加して「与える側」になると、脳の報酬系が刺激され持続的な幸福感が得られやすいと言われます。「感謝」は単なるマナーではなく脳科学的にも理にかなったセルフケア。机の横にメモ帳を置き、小さな「ありがとう」を書き留めることから始めてみませんか?

なお、感謝を意識して深呼吸を行うと迷走神経が刺激され心拍変動が安定しやすくなることも確認されています。呼気を吸気より長くする腹式呼吸を30秒続けるだけで脳は安全信号を受け取りリラックスモードに切り替わります。習慣化には21日かかると言われますが、まずは3日間続ける小さな目標設定が成功のコツです。