平日は仕事や学業で睡眠不足、休日にまとめて“寝だめ”している――そんな生活を続けると体内時計は毎週ジェットラグ状態です。脳は週末の長時間睡眠を「時差」と認識し、月曜の朝に覚醒ホルモンが分泌されにくくなります。その結果、平日のパフォーマンス低下、過食傾向、うつ症状のリスクまで高まると報告されています。最新の国立研究機関の調査では、睡眠が6時間未満の成人は7時間台の人に比べ心血管疾患の発症率が約1.6倍に増加しました。
では慢性的な「睡眠負債」を返済するにはどうすればよいのでしょうか。鍵は①起床時刻の固定②短い昼寝③就床儀式の三本柱です。まず、平日と休日の起床時刻の差を1時間以内に抑え、朝光を浴びて体内時計をリセット。二度寝したくなる場合は、起きてすぐ5分間のストレッチで交感神経を活性化させると目覚めがスムーズです。
昼寝は13時前後に15~20分の「パワーナップ」。30分を超えると深い睡眠に入り、起床後の眠気が強くなるためタイマーを活用しましょう。昼寝後は冷たい水で顔を洗う、カフェインを摂るなどしてすぐ覚醒モードへ移行します。こうした短時間の仮眠は判断力や創造性を高め、夜間睡眠への悪影響もありません。どうしても昼寝の時間が取れない日は、椅子に浅く腰掛け目を閉じる「マイクロレスト」だけでも脳波はアルファ波優位となりリフレッシュ効果が得られます。
就床儀式としては、寝る30分前に部屋の照度を落とし、暖色系の間接照明に切り替えること。アロマディフューザーや4秒吸って6秒吐く呼吸法で副交感神経を優位にするのも効果的。寝室は24~26℃、湿度50~60%、遮光カーテンで外光を遮断すると入眠潜時が短縮します。入浴は就床90分前に済ませ、42℃以上の熱湯は避けてください。寝具は吸湿性の高い素材を選び、枕の高さは仰向け時に額と顎が水平になるのが目安です。
睡眠負債の返済は「早起きから始める」ことが鉄則。夜更かし分を翌朝削るのではなく、夜に自然と眠くなる環境を整えましょう。当院の外来データでは、この三本柱を2週間実践した方の約8割が「日中の眠気が軽減した」と回答し、平均就床後入眠時間は約12分短縮しました。睡眠は“貯金”ではなく“日々の家計管理”が重要です。小さな習慣で睡眠負債を減らし、心と体のエネルギーを満タンに整えましょう。