「最近なかなか眠れない…」——そんな夜が週に3回以上続く人は要注意です。米メイヨー・クリニックの最新追跡調査では、70歳前後の成人2,700名を5年間観察した結果、慢性的な不眠症を抱える群は、軽度認知障害や認知症を発症するリスクが約40%高まると報告されました。不眠が続くと、脳内の白質病変やアミロイドβの蓄積が進み、思考スピードや記憶力が目に見えないうちに低下することが示唆されています。認知症リスクだけでなく、情動調整の乱れによりイライラや落ち込みが増え、日常のストレス耐性が下がることも判明しています。
では、何から始めればよいのでしょうか。まず「睡眠負債」を作らないことが鉄則です。成人に推奨される睡眠時間は7〜9時間。毎日の就寝・起床時刻を30分以上ずらさないようにすると、体内時計がリズムを刻みやすくなります。平日に睡眠時間が不足したからといって週末に“寝だめ”しても、負債返済には4日かかるうえ、かえって「社会的時差ぼけ」を招き月曜の倦怠感を長引かせるだけです。
寝室環境も要チェック。室温は夏25℃前後・冬20℃前後、湿度40〜60%を保ち、遮光カーテンで外光をブロック。就寝2時間前までに入浴し、深部体温を一度上げてから下降させると自然な眠気が誘発されます。ベッドに入って10分経っても眠れない場合は、一度起きてストレッチや読書などリラックスできる非デジタルな作業を行い、「寝床=眠る場所」という条件付けを守るのがポイントです。
さらに、近年はスマートウォッチやAIアプリで睡眠データを可視化し、オンラインで認知行動療法(CBT-I)プログラムを受けられるサービスも普及しています。客観的な指標と専門家のアドバイスを組み合わせることで、習慣の改善が加速します。当院では睡眠外来と臨床心理士によるCBT-Iカウンセリングを提供し、個々の生活リズムに合わせたプランをご提案可能です。
未来の脳と心の健やかさは、今夜の眠りから始まります。まずは1週間、「決まった時間にベッドに入り、決まった時間に朝日を浴びる」生活を試してみてください。眠りが深まるほど、翌朝の思考も感情も、そして人生の選択肢も、驚くほどクリアに広がっていきます。最後に、枕元に水を用意し、夜間の軽い脱水を防ぐ工夫もおすすめです。