心のクリニック 医療コラム
2025年12月4日
■考え込みすぎる頭を休める「自動思考メモ」のすすめ

 仕事や家事、人間関係のことが頭の中でぐるぐる回り続けて、なかなか休まらない。夜になっても同じ心配ごとを考え続けてしまい、睡眠まで影響が出てくる──そんな相談が、メンタルクリニックには多く寄せられます。こうした「考えすぎ」「思考の暴走」を整える方法のひとつとして、認知行動療法に基づく「自動思考メモ」があります。

 認知行動療法では、出来事そのものよりも「それをどう受け取ったか(考えたか)」が、気分や行動を大きく左右すると考えます。たとえば、上司に一つ指摘を受けたとき、「やっぱり自分はダメだ」と受け取れば落ち込みや不安が強くなり、「改善のヒントをもらえた」と受け取れば、気持ちは比較的落ち着き、次の行動も取りやすくなります。この瞬間に頭にひらめく考えを「自動思考」と呼び、ストレスやうつ、不安の治療では、この自動思考に気づき、見直していくことが重要だとされています。

 とはいえ、頭の中だけで自分の考え方のクセをつかむのは簡単ではありません。そこで役に立つのが「自動思考メモ」です。やり方はシンプルで、1)心がざわついた出来事、2)そのとき頭に浮かんだ言葉やイメージ、3)その結果生じた感情や体の反応(悲しさ、怒り、体の緊張、動悸など)を、短く書き出します。余裕があれば4)「別の受け取り方はあるか」「友人が同じことを言ったら何と声をかけるか」なども書き添えます。紙のノートでも、スマホのメモアプリでも構いません。

 ポイントは、「正しい答え」を探すことではなく、「今の自分の考えと気持ちを見える形にする」ことです。書き出して眺めることで、「いつも同じパターンで自分を責めている」「仕事のことになると極端な予測をしやすい」など、自分の認知のクセが少しずつ見えてきます。また、一度メモに預けることで、頭の中の情報量が減り、マインドフルネスのように今この瞬間に注意を戻しやすくなる効果も期待できます。

 続けていくと、「前よりも落ち込みから立ち直りやすい」「イライラしても一呼吸おける」と感じる方も少なくありません。自動思考に気づく力がつくことで、感情に振り回されにくくなり、レジリエンス(折れにくさ)を高めることが期待できます。

 最初から毎日きちんと書こうとすると、かえってプレッシャーになってしまうことがあります。まずは1日1件、「今日はこれでモヤモヤした」という出来事だけでも書いてみる、感情の強さを10段階でざっとメモする、といったライトな始め方がおすすめです。寝る前に3分だけ振り返る習慣にすると、睡眠前の不安な考えに飲み込まれにくくなり、セルフケアとしても役立ちます。