心のクリニック 医療コラム
2025年12月2日
「休む予定」を先に入れて、睡眠を守るという考え方

仕事や家事、育児で一日があっという間に過ぎてしまい、気づいたら夜遅くまでスマホを見ていて、睡眠時間が削られている――精神科・心療内科の外来では、不眠症や睡眠負債に悩む方から、そんなご相談をよく伺います。ストレス社会では「もっと頑張る」スキルより、「どう休むか」を設計する力が、メンタルヘルスを守るカギになります。

1.「空き時間」ではなく「休む時間」をブロックする
睡眠や休息は、「時間が余ったらとるもの」ではありません。まずは手帳やスマホカレンダーに、就寝時刻と起床時刻、そして短い休憩時間を先に入れてしまいましょう。成人では7〜9時間の睡眠が推奨されていますが、いきなり理想に近づけようとすると挫折しやすいものです。まずは今より30分だけ早く寝る日を数日続けてみる、といった小さな一歩からでかまいません。

2.日中のマイクロ休息が、夜の睡眠の「質」を底上げする
日中にまったく休まず走り続けてしまうと、自律神経は緊張モードのまま固まり、夜になってもブレーキがききにくくなります。ここで役立つのが、1〜5分程度のマイクロ休息です。深呼吸をしながら目を閉じてみる、首や肩をゆっくり回す、窓の外を眺めて遠くの景色にピントを合わせる――それだけでも、交感神経のアクセルを少し緩めることができます。「すき間時間のSNSチェック」を、1日に何回か「意識的な休息」に置き換えてみることから始めてみてください。短い休息をこまめに入れることで、夜になってから一気に疲れが噴き出すのを防ぎ、ストレス耐性や集中力も戻ってきます。

3.ベッドでは「休む・眠る」以外をなるべくしない
寝室は、脳にとっての「休む場所」というイメージを強めることが大切です。ベッドの上で仕事のメールを確認したり、動画を見続けたりしていると、脳はベッドを「興奮する場所」と覚えてしまい、いざ眠ろうとしたときに切り替えが難しくなります。可能であれば、スマホは寝室の外で充電し、就寝前は照明を落として、静かな音楽やストレッチなど、睡眠モードに入りやすい行動だけを選びましょう。

4.「完璧な睡眠」を目指さない
「今日は絶対に◯時間寝なければ」「ぐっすり眠れないと明日は最悪だ」と自分にプレッシャーをかけるほど、眠りは遠ざかります。睡眠は日々の平均で考えるくらいがちょうど良く、ときどき寝つきが悪い日があっても「そんな日もある」と受け流せる柔らかさが、長い目で見たときのメンタルの安定につながります。うまく眠れなかった翌日は、昼寝を短めにとどめつつ、いつも通りの時間に起きることを意識し、体内時計のリズムを整えていきましょう。

つらい不眠や中途覚醒、日中の強い眠気が続くときは、「気のせい」と我慢しすぎず、専門家に相談することも大切です。