気づけば一日中、頭の中が予定や心配ごとでいっぱいになっていませんか。ベッドに入ってからも、今日の反省や明日の段取りを考え続けてしまうと、脳は休むタイミングを失い、睡眠の質も落ちやすくなります。「横になっているのに休めた気がしない」という方は注意が必要です。
そんな「頭の渋滞」をほどく方法のひとつが、マインドフルネスという考え方です。特別な宗教的修行ではなく、「今ここ」で起きていることにやさしく注意を向けるトレーニングだとイメージしてみてください。認知行動療法とも相性がよく、考え方のクセに気づきやすくする土台づくりとしてもよく使われます。
ポイントは、「リラックスしよう」と頑張るのではなく、「いま何が起きているかな?」と観察者の立場に一歩さがることです。ストレスや不安をゼロにする魔法ではありませんが、心の波に飲み込まれにくくするための筋トレに近いイメージです。最初はうまくできている実感がなくても、「やってみた」という事実が大切です。
まずは、1分だけ呼吸に意識を向けてみましょう。背筋を軽く伸ばし、ゆっくり息を吸って、止めて、長めに吐きます。そのとき、「吸っている」「胸がふくらんでいる」「椅子に体重が乗っている」など、体の感覚を心の中で言葉にしてみます。呼吸の速さや深さは「これが正解」と決めず、自然なリズムをただ観察します。
途中で「今日の会議どうしよう」「あの人の一言が気になる」と考えがそれてきても大丈夫です。「考えごとにそれたな」と気づいたら、ジャッジせずにそっと呼吸に注意を戻します。この「気づいて戻る」を何度も繰り返すこと自体が、脳のトレーニングになります。失敗ではなく、むしろ実践できている証拠です。
慣れてきたら、日常の動きにもマインドフルネスを取り入れてみましょう。たとえば、歯みがき中に「歯ブラシが歯に当たる感覚」「口の中の温度」、通勤中に「足の裏の接地感」「風や気温」を意識してみます。入浴中にお湯の温かさをじっくり味わうのも良い方法です。スマホを見る時間をほんの1分だけ、五感に注意を向ける時間に置き換えるイメージです。
こうした小さな実践を続けると、「不安でいっぱいな自分」と「それに気づいている自分」を分けて眺められる瞬間が少しずつ増えてきます。すると、ストレスの波が押し寄せても、「今はこう感じているんだな」と受け止めたうえで、睡眠や休息、仕事の優先順位などを落ち着いて選びやすくなります。寝る前に1分だけ呼吸に意識を向ける習慣をつくると、入眠前の心配ループをやわらげる助けにもなります。続けることで、レジリエンスという心のしなやかさも少しずつ育っていきます。
それでも不安や落ち込み、眠れなさが長く続くときは、お一人で抱え込まず、医療機関やカウンセリングなどの専門的なサポートを頼ってみてください。お薬だけでなく、認知行動療法やマインドフルネスの考え方を取り入れた支援を組み合わせることで、回復の道筋が見えやすくなる方も多くいらっしゃいます。