心のクリニック 医療コラム
2025年11月19日
「敏感さ」と上手につき合うコツ――疲れやすい心を守るためにできること

人混みや大きな音が苦手でぐったりしてしまう、他人の表情や言葉が気になって一日中引きずってしまう。こうした「刺激に敏感で疲れやすい」という状態は、決して「気が弱い」「メンタルが弱い」という意味ではありません。敏感な気質は生まれつきの特徴であり、「今の自分に合う過ごし方」を見つけていくことが大切です。

敏感さを持つ人は、周りの雰囲気を察する力が高い一方で、強い光や音、多すぎる人間関係の情報にさらされると、心身のエネルギーを消耗しやすい傾向があります。疲れをためたまま無理を重ねると、睡眠の質が落ちたり、朝起きられない、職場に向かうと動悸や腹痛が出るなど、体が「もう限界です」とサインを出してくることもあります。

ここでは、日常生活で取り入れやすい3つの工夫をご紹介します。

一つ目は、「一日の刺激量を見える化する」ことです。起きた時間、通勤や家事、関わった人の数、スマホやPCを見ていた時間、そのときの気分や疲れ具合を簡単にメモしてみてください。数日続けると、「夕方の会議が続くと、その後どっと疲れが来る」など、自分なりのパターンが見えてきます。認知行動療法の考え方を応用し、無理が重なりやすい時間帯には予定を詰め込みすぎない、一人になれる時間をあえて残しておくなど、事前の調整がしやすくなります。

二つ目は、「小さなクールダウンタイムを散りばめる」ことです。長い休暇がとれなくても、1~3分のこま切れの休息なら、仕事中や家事の合間にも挟みやすくなります。例えば、トイレに立ったついでに背すじを伸ばして深呼吸を3回する、コピー機の前で数十秒だけ足元の感覚に意識を向けるなど、小さな習慣で十分です。「今この瞬間」に注意を向けるマインドフルネスの要素を取り入れることで、自律神経が整いやすくなり、ストレスからの回復力も高まりやすくなります。

三つ目は、「安心して相談できる相手をあらかじめ決めておく」ことです。敏感さを持つ人は、人間関係のトラブルを避けようとして、悩みを一人で抱え込みがちです。しかし、頭の中だけで考え続けると、過去の失敗や最悪のシナリオばかりが浮かび、不安がふくらみます。信頼できる家族や友人、同僚など、「このテーマならこの人に話してみよう」と候補を決めておくと、限界まで我慢する前に助けを求めやすくなります。必要に応じて、カウンセリングや医療機関など、専門家の力を借りることも選択肢に入れておきましょう。

「敏感さ」は、疲れやすさと引き換えに、共感性や想像力、慎重さといった強みをもたらしてくれる面もあります。刺激との距離の取り方や、休息と相談の仕方を少しずつ整えていくことで、「生きづらさ」から「自分らしさ」へと感じ方がシフトしていく方も少なくありません。