忙しさやストレスが続くと、「ぐっすり眠れない」「休んでも疲れが抜けない」と感じる方が増えます。睡眠や休息を整えるうえで頼りになるのが、「からだを少し動かす習慣」です。激しいトレーニングでなくても、ゆるい運動を続けることで、ストレスに強い脳づくりや不安の軽減、気分の落ち込みの予防につながることが分かっています。
とはいえ、「仕事だけでヘトヘトなのに、運動なんて無理」と感じる方も多いと思います。ポイントは、「汗だくになる」ことではなく、「少し息が弾む動きを、こまめに挟む」ことです。階段を一階分だけ使う、エレベーターを待つ間にかかとの上げ下げをする、通勤の行き帰りに5分だけ歩く速度を上げてみる。こうした小さな積み重ねでも、脳への血流が増え、ストレスホルモンが下がりやすくなります。
ゆるい運動は、睡眠にも良い影響を与えます。日中にからだを動かす時間が増えると、夜にほどよい“疲労感”が生まれ、入眠しやすくなります。また、毎日だいたい同じ時間帯にウォーキングやストレッチを行うと、「この時間帯に活動して、この時間帯に眠る」というリズムが脳に刻まれ、寝つきと睡眠の質が安定しやすくなります。
メンタル不調を抱えている方の中には、「動いたあとは少し気分が軽くなる」と話される方が少なくありません。軽い有酸素運動は、不安や抑うつ気分を和らげる物質を増やし、ストレスでこわばったからだをほぐす効果も期待できます。イライラや不安で頭がいっぱいになったとき、「5分だけ歩いてこよう」と行動を変えることで、気持ちの切り替えがうまくいくことも多いのです。
もちろん、体調がつらいときに無理をする必要はありません。「毎日30分」より、「週に3〜4日、調子が良い日に5〜10分でも動けたらOK」と考えたほうが続きやすくなります。最初は、イスに座ったまま足首を回す、肩をゆっくり回すといった“ながらストレッチ”から始めても構いません。「やらなかった日」を責めるのではなく、「少しでもできた日」を見つけて、自分をねぎらう視点を持つことが大切です。
継続のコツは、「気分」ではなく「仕組み」に頼ることです。たとえば、寝る前のスマホ時間のうち5分をストレッチに置き換える、朝にカーテンを開けたらその場で軽く屈伸する、といった「決まりごと」にしてしまうと、意志の力だけに頼らずに済みます。カレンダーや手帳に「歩けた日」「ストレッチをした日」に印をつけていくと、「ちゃんと続けられている」という達成感が、自信やレジリエンス(折れにくさ)にもつながっていきます。
ストレスや睡眠の悩みは、運動だけで完全に解決できるものではありませんが、「からだを少し動かす」ことは、心のケアの大切な土台のひとつです。うつ病や適応障害、不安症などで通院中の方も、主治医と相談しながら、自分の体力や体調に合わせた範囲で取り入れていくと良いでしょう。