心のクリニック 医療コラム
2025年11月17日
感情に振り回されないための「気持ちのメモ」習慣

怒りが急にこみ上げたり、理由もなく不安で胸がざわついたり、「自分の感情なのに扱いきれない」と感じることは誰にでもあります。
感情は「今、心と体に何が起きているか」を知らせるサインですが、そのサインを読み取る余裕がないと、衝動的な言動や後悔につながってしまいます。

そこで役に立つのが、感情を紙やスマホに「メモする」習慣です。
完璧な日記を書く必要はありません。数十秒の小さなメモを積み重ねるだけでも、感情に振り回されにくくなり、ストレスや睡眠の乱れの予防に役立ちます。

まず意識したいのは、「出来事」と「感情」を分けて書くことです。
たとえば、
「上司に資料のミスを指摘された(出来事)」
「恥ずかしい・悔しい・不安(感情)」
というように並べてみます。「なんとなくモヤモヤ」「とにかくイライラ」でも十分です。

次に、その感情に「名前」と「強さ」をつけます。
「不安・70%」「怒り・40%」というように、ざっくりで良いので数字を振ってみてください。これだけでも、感情の渦の中にいる自分から一歩離れて「観察する側」に立てます。この“ひと呼吸おいた視点”が、衝動的な行動を減らすのに役立ちます。

三つめのステップは、「この気持ちに優しくできる行動」を一つだけ書き出すことです。
「今日は早めに寝る」「5分だけ散歩する」「親しい人に話を聞いてもらう」など、小さくて具体的なものを選びます。「感情を消す行動」ではなく「感情を抱えた自分を支える行動」にするのがポイントです。

この三つの流れ――
①出来事と感情を書き分ける
②感情に名前と強さをつける
③自分を支える小さな行動を決める
を1〜3分ほどで行うだけでも、「気づいたら考えすぎて眠れなくなっていた」という時間を減らせます。寝る前にノートやスマホのメモに数行書くだけでも十分です。

続けていると、「不安になりやすい場面」「イライラが溜まりやすい時間帯」「疲れているときに選びがちな行動」のパターンが見えてきます。これは、いわば自分専用の「心の取扱説明書」です。パターンが分かると、「今日は会議が続いたから、帰宅後は予定を入れすぎないでおこう」「月曜の夜は不安が強くなりやすいから、早めに寝る準備を始めよう」といった予防もしやすくなります。

「忙しくてそんな余裕はない」と感じる方ほど、最初は1日1回・30秒だけでもかまいません。
通勤電車の中、昼休み、お風呂上がり、寝る前など、自分なりの“定位置”を決めておくと習慣化しやすくなります。うまく書けない日があっても、「また明日から」で充分です。大切なのは、完璧さではなく“続けてみようとする姿勢”です。

もし、感情メモを続けていても落ち込みや不安が強いまま、睡眠障害や体調不良が長く続く場合は、メンタルクリニックやカウンセリングなど、専門家の力を借りることも選択肢です。