眠れない夜が続くと、「このまま眠れなかったらどうしよう」「明日の仕事でミスをするに違いない」と不安がふくらみ、余計に目が冴えてしまいます。睡眠の悩みは、うつ病や不安障害などとも結びつきやすく、心身のエネルギーを削っていきます。
そこで役立つのが、考え方と行動の両方から眠りを整える“やさしい睡眠リハビリ”です。認知行動療法では、「思考」「感情」「行動」「からだ」は互いに影響し合うと考えます。眠れないことへの不安がストレス反応を高め、その緊張がさらに眠りを妨げる――この悪循環を、少しずつほどいていきます。
まず大切なのは「ベッドの役割を決める」ことです。ベッドの上で長時間スマホを見たり、仕事のメールを返したりしていると、脳は「ここは考えごとをする場所」と学習してしまいます。理想は、ベッドは「眠るか、眠ろうとしている時だけ」の場所にすること。眠ろうとしても30分ほど眠気が来なければ、一度ベッドを出て、暗めの部屋で静かに過ごし、再び眠くなってから布団に戻る習慣をつけると、「ベッド=睡眠」の結びつきが少しずつ強まっていきます。
次に、「眠りの失敗予想」に名前をつけてみましょう。「また今夜も眠れないに違いない」「明日は仕事にならない」という考えは、リアルに感じられますが、一つのストーリーにすぎません。紙やスマホのメモにそのまま書き出し、「不眠不安ストーリー」などとラベルを貼ってみます。そのうえで、呼吸やからだの感覚に意識を戻す練習をすると、マインドフルネスのように、考えと現実のあいだに少し距離を置くことができます。
また、日中の過ごし方も睡眠に影響します。長時間座りっぱなしで作業を続けると、頭だけが疲れてからだはなかなか眠りモードに切り替わりません。1〜2時間に一度、1分だけ席を立って背伸びをしたり、ゆっくり呼吸を整えたりするだけでも、自律神経のバランスが整い、夜の入眠も少しスムーズになります。激しい運動でなくても、やや息が弾む程度の散歩や階段の上り下りを日中に取り入れると、睡眠の質の向上につながります。
そして意外と見落とされがちなのが、「完璧な8時間睡眠」という思い込みです。「最低でも○時間寝ないとダメだ」と決めつけるほど、寝つきが悪くなったときのプレッシャーは高くなります。日によって眠れる量に波があるのは自然なことと捉え、「このくらい眠れたら合格」「今日は短めだったから、明日は早めに休もう」と“幅”で考えることが大切です。
休職中の方や、復職を控えて不安が強い方は、すべてをいきなり変えようとせず、「今日はベッドの役割を意識する」「今週は日中のこまめな立ち上がりを続けてみる」など、一つずつ試してみてください。睡眠日誌や生活記録表をつけて変化を見える化すると、レジリエンス(回復力)も実感しやすくなります。