心のクリニック 医療コラム
2025年11月12日
夜のスマホと眠りの距離感——“脳のブレーキ”を取り戻す3つの整え方

寝る直前まで画面を眺めていると、気づかぬうちに交感神経が優位になり、布団に入っても思考が加速してしまいます。通知、タイムライン、動画の自動再生——これらは脳に「まだ活動時間だ」と誤解させ、寝つきの悪さや浅い睡眠、翌日の集中低下につながります。大切なのは根性論ではなく、環境を少し設計し直して“自然にやめられる仕組み”をつくることです。ここでは今日から試せる3つの実践を紹介します。ブルーライトや高コントラストは一因ですが、より大きいのは“内容の刺激”と“次が気になる設計”。縦スクロールやおすすめ表示は、脳の報酬回路を繰り返し点火させ、覚醒を引き延ばします。

1つ目は「90分前スローイン」。就寝の90分前を“低速時間”に設定し、強い刺激を入れないようにします。アプリの自動再生をオフ、ニュースやSNSは“未読のままでOK”と割り切り、必要な連絡だけを残します。照明はやや暖色、画面は夜間モードに。入浴はぬるめで10〜15分。深部体温がゆっくり下がる約90分後に眠気が高まり、寝つきやすくなります。ポイントは「やめる」ではなく「遅くする」。脳のギアを落とす感覚です。

2つ目は「通知の地ならし」。ベッドに入ってからの“あと5分”を生むのは、光ではなく音と振動です。寝室では通知を“必要最小限だけ通す”設計に。家族や緊急連絡先のみ着信許可、それ以外はサイレントへ。SNSやニュースは時間指定でまとめて通知に。スマホを寝室のドア付近やデスクに置き、ベッドから手を伸ばして届かない距離にするのも有効です。目覚ましは物理時計に分離すると、起床直後の“寝ぼけスクロール”を防げます。iOS/Androidの「おやすみモード」「スクリーンタイム」も併用しましょう。

3つ目は「置き換えルーティン」。手持ち無沙汰がスマホの最大の燃料です。代わりに短い儀式を用意しましょう。紙のメモに“今日よかった3つ”を書き出す、軽いストレッチ、腹式呼吸を6呼吸、ノンカフェインの飲み物を一杯。いずれも1〜3分で済み、自律神経を副交感神経優位に傾けます。気分の波が強い日は、思考にラベルを貼る“メタ認知メモ”(例:「不安」「反芻」「計画」)で頭の渋滞を脇に寄せるのもおすすめです。認知行動療法やマインドフルネスの要素を、生活の動線に自然に差し込むイメージです。

完璧を求めると続きません。週のうち4日できれば十分合格。睡眠は“量×タイミング×質”の掛け算で整っていきます。日中に短い外気浴と軽い運動を足すと、夜の眠気スイッチが入りやすくなることも覚えておくと良いでしょう。デジタルデトックスは“絶つ”より“整える”。スマホと睡眠の関係は「悪者退治」ではなく「距離の最適化」。自分の生活に合う“やさしい仕組み”を、今日から一つずつ育ててみてください。

心の不調や不眠が続くときは、お一人で抱え込まず専門家のサポートをご利用ください。