心のクリニック 医療コラム
2025年11月12日
“心の体力”を取り戻すためのミニ休息デザイン

最近、寝ても疲れが抜けない、仕事中に集中が途切れる、ついスマホに逃げてしまう――そんな声をよく伺います。ポイントは「長い休暇」ではなく、日常に埋め込める“ミニ休息”を設計し、脳とからだの回復サイクルを回すこと。実践しやすい三つのルールをご紹介します。

第一のルールは「呼吸でスイッチを切る」。不安やイライラは呼吸を浅く速くします。そこで90秒だけ、吐く息を長め(6秒)に、吸う息は短め(4秒)にして10サイクル。自律神経の緊張が下がると、思考の暴走がゆるみ、判断を誤りにくくなります。会議前、電車の中、レジ待ちでも可能です。

第二のルールは「5分の再起動」。頭が重いのに作業を続けるほど能率は落ちます。5分だけ席を離れて歩く、窓辺で日光を浴びる、冷たい水で手首を冷やす――この三択がおすすめ。歩行は前頭葉の血流を促し、日光は体内時計を整え、冷刺激は過剰な覚醒をリセットします。タイマーを使い、“短く本気で休む”がコツです。

第三のルールは「境界線で脳内ノイズを減らす」。断りづらさや気遣いは、想像以上にエネルギーを消費します。たとえば、急な依頼に即答せず「確認して折り返します」と一度保留する、グループチャットは通知の時間帯を決める、帰宅後の30分はスマホを充電スペースに置いて触れない――これらは“他者との距離”だけでなく“情報との距離”を整え、集中を守ります。

加えて、寝つきを良くするために就床の30分前は“低刺激タイム”。照明をやや落とし、画面から目を休め、温かい飲み物でからだの中心温を上げると、放熱による眠気が訪れやすくなります。寝不足は感情の波を荒らし、翌日の意思決定に連鎖します。だからこそ、夜の30分は翌日のメンタル投資と考えましょう。

最後に、やる気は「やり始めた後」に生まれやすい現象です。5分だけ、とりあえず着手する“開始のハードル下げ”は、完璧主義や先延ばしに効きます。実行の記録を残すならカレンダーに○をつけるだけで十分。連続日数が伸びると自己効力感が上がり、継続が楽になります。

不調は“根性が足りない”からではありません。脳の仕組みに沿った休息と行動設計で、回復は必ず起こります。つらさが続く、睡眠や食欲の乱れが長引く、仕事や学校に行きづらい――そんなときは一人で抱え込まず、専門家にご相談ください。