心のクリニック 医療コラム
2025年11月5日
1分で切り替える「呼吸・力み抜き・感覚スキャン」——忙しい日のメンタル回復術

仕事や家庭の用事が重なると、心も体も同時に張りつめがちです。長い休憩が取れない日でも、1分あれば自律神経を落ち着かせ、思考の暴走を止めることはできます。ここでは、どこでも実践できる3点セット「呼吸」「力み抜き」「感覚スキャン」を紹介します。順番は固定、合計60秒。短時間でも積み重ねれば、集中と気分の質が目に見えて変わります。

① 呼吸(30秒)
背もたれに軽く寄りかかり、みぞおちの奥がふくらむように息を吸います。鼻から4秒吸って、6秒で吐く。これを3〜4サイクル。お腹の上下に注意を向けると、交感神経の過剰な高ぶりが落ち着き、体内の緊張サインが下がります。浅い胸式呼吸になっているときほど効果的です。座位・立位どちらでもOK、マスク越しでも可能です。

② 力み抜き(20秒)
次に「首→肩→手→足」の順に、各部位を5秒だけギュッと力ませ、7〜8秒かけて一気に脱力します。力を入れる範囲は60%程度で十分。特に“食いしばり”は気づきにくいので、歯と歯の間に紙一枚分の隙間を意識して、顎の付け根をゆるめましょう。脱力の瞬間に、温かさや重さが広がる感覚を“味わう”のがコツです。

③ 感覚スキャン(10秒)
最後に「今この場」に注意を戻します。目に入るものを1つ、手で触れている感触を1つ、聞こえる音を1つ——合計3つを静かに言葉にして心の中で数えます。考えごとに引っ張られた注意を、視覚・触覚・聴覚へと再配分することで、反芻や最悪シナリオ思考の勢いを弱められます。

活用のタイミング
・出勤前、会議前、メール山積みの直前に1セット
・昼食後の眠気タイムに1セット
・帰宅前に1セット(オン→オフの切り替えに最適)

うまくいかないときのチェックポイント
・息を「吐き切る」前に吸い始めていないか
・肩をすくめる癖が出ていないか(耳と肩の距離を広げる意識)
・スキャンのとき“評価”していないか(良し悪しではなく、事実を数える)

習慣化のコツ
スマホの予定表に1日3回のリマインドを設定し、合図が鳴ったら必ずその場で1分。職場では席を立たなくても実施可能です。効果は“単発の劇的変化”ではなく“小さな回復の反復”にあります。1週間続けると、夕方の疲労感やイライラの立ち上がり方が穏やかになり、眠る準備にも入りやすくなります。

安全面の注意
めまいや体調不良が出る場合は中止し、無理に深く吸い込み過ぎないこと。胸部疾患などをお持ちの方、妊娠中の方は、医療者に相談のうえ無理のない範囲で行ってください。