心のクリニック 医療コラム
2025年11月1日
不安をほどく「3分言語化メモ」——頭の中の渋滞を片づける小技

「考えすぎて眠れない」「気持ちがまとまらない」。そんなとき、頭の中で回り続ける雑念は、実は“言葉にしきれていない思考”が渋滞している状態です。完璧な整理や長文の記録は不要。必要なのは、短時間で“今の自分を外に出す”小さな習慣です。ここでは当院でもおすすめしている、どこでもできる「3分言語化メモ」を紹介します。

用意するのは紙とペン(スマホのメモでも可)と3分のタイマーだけ。手順はシンプルです。①タイマーを起動し、紙を縦に三分割するイメージで「事実」「解釈」「感情」と見出しを書く。②まず「事実」欄に、日時・場所・相手・起きた出来事を短文で列挙。意見や予測は入れません。③次に「解釈」欄に、その出来事をどう意味づけたかを書き出します。「きっと嫌われた」「失敗がばれる」など、頭の自動反応をそのまま移すだけでOK。④最後に「感情」欄へ、いまの感情と言葉(不安・怒り・恥・悲しみなど)と強さ(0〜10)を記入。ここまでで3分です。

書けたら深呼吸を一度。次に、三つのミニ・チェックを行います。A)“別解”探し:解釈欄の文章を一つ選び、「他に3つの見方は?」と自問して追記。B)“身体”の声:肩・顎・みぞおちの緊張を10秒ずつ意識して、力を抜く。C)“5%行動”:明日やることを1つだけ決めます(例:メールは結論から2行で送る、5分散歩、上司に相談の時間を取る)。ここまでで+2分。合計5分の介入で、思考と身体の緊張の両方にブレーキがかかります。

続けるコツは、場所とトリガーを決めること。通勤の電車に乗ったら、昼休みの冒頭に、就寝30分前に…と“時間のフック”を作ると定着しやすくなります。また、週に一度だけ見返して、「感情の強さ(0〜10)がどう変化したか」「5%行動が実行できた回数」をチェックしましょう。“できた数”を数える記録は、自己効力感を底上げします。

注意点も2つ。ひとつは、メモはあくまで“今の自分のスナップショット”であり、真実の確定ではないこと。書いた解釈に引きずられすぎないでください。もうひとつは、夜遅くに不安が強くなるタイプの方は、就寝直前の深掘りは避け、朝や日中に実施すること。眠前は「事実だけ」を軽く書き出し、感情の掘り下げは翌日に回すと睡眠の質が保たれます。

「3分言語化メモ」は、ストレス下で暴走しがちな“思考の自動操縦”をいったん降りて、現実・解釈・感情を切り分ける手当てです。完璧さより、短く・雑でも・回数を重ねること。続けるほど、感情の波にのまれにくくなり、対処の選択肢が増えていきます。ひとりで抱えるのが難しいときは、専門家と一緒に練習すると上達が早まります。