心のクリニック 医療コラム
2025年10月30日
【朝の心を整える90分サイクル習慣——不安・疲れ・眠気の悪循環を断つ】

朝になると胸がざわつき、通勤の支度が進まない——そんなとき、気合や根性ではなく「体内のリズム」を味方につけるのが近道です。人の集中と感情はおよそ90分前後で波打ちます。このリズムに合わせて朝の行動を並べ替えるだけで、うつや不安、適応障害の手前で踏みとどまりやすくなり、休職・復職の切り替えにも滑走路が生まれます。

まず起床から10分は、光と温度でオンに。カーテンを開け、ベランダや玄関先で深呼吸。網戸越しでも充分です。網膜が朝の光を受けると体内時計が前進し、セロトニンが働き始めます。冷たい水での手洗い・うがいは交感神経のスイッチに。ここでスマホのニュースを一気に浴びるのは控えめに。

次の20分は「姿勢の家事」。洗顔・歯磨き、コップ一杯の水、布団を整える、シャツにアイロンを軽く当てる——いずれも前屈みを減らし、胸を開く動きです。姿勢が整うと呼吸が深くなり、頭の霧が晴れます。「やる気が出たら動く」ではなく「動けばやる気がついてくる」。これはドーパミンのしくみに沿った作戦です。

続く30分は「単純タスクの塊」を。朝食の準備、食器洗い、出勤の持ち物チェックを音声メモやチェックリストで回します。脳への負荷を落としつつ達成感を刻むと、自己効力感が回復します。タンパク質と温かい汁物を一品入れると体温が上がり、緊張の震えが和らぎます。カフェインは飲むとしても一杯にして、午前の後半へ残しましょう。

最後の30分は「移動と微運動」。通勤前の3〜5分だけでも、肩を回す・ふくらはぎをリズムよく上げ下げする・早歩きを挟む。全身のリズム運動はセロトニンとオキシトシンの土台づくりに役立ち、対人場面での硬さをほどきます。電車内では背もたれに軽く背を預け、かかとを床に置き、腹式呼吸で4秒吸って6秒吐く。これで最初の「90分」が完成。ここまでを毎日繰り返すと、午前の山場に余力を残せます。

午後以降は「小さな谷」を意図的に。昼食後は5〜10分の散歩、夕方の15分はタスク整理だけに充てる。波を前提に予定を置けば、頑張る時間と休む時間の線引きが明確になります。眠りは入眠前90分の入浴が鍵。ぬるめの湯で体の深部温度を一度上げてから下がるタイミングで寝床へ。これで翌朝の立ち上がりが変わります。

もし朝の不安が2週間以上続く、涙が止まらない、食欲や眠りが乱れている、職場へ足が向かない——そんな兆しがあれば、一人で抱え込まず専門家に相談してください。休職や復職は「逃げ」ではなく、キャリアと健康を守るための戦略です。カウンセリングや薬物療法、生活リズムの調整を組み合わせれば、再出発の速度は上がります。