心のクリニック 医療コラム
2025年10月30日
マルチタスク疲れの正体と、月曜から始める“脳の回復習慣”

メール、チャット、会議、家事。私たちの脳は一日のうち何十回も作業を切り替えています。これが積み重なると注意の燃料が細切れになり、不安やイライラ、眠りの浅さとして現れます。うつや適応障害の入り口でも、集中の途切れや睡眠リズムの崩れが早期サインとして出やすいもの。今日は、神経伝達物質の働きを踏まえつつ、忙しい方でも実践できる回復習慣を提案します。

まず、朝起きてから90分は“整える時間”に。太陽光を浴び、首回りと太ももを大きく動かすリズム運動を5分。腸の動きが活発になり、心が落ち着く物質の分泌が整いやすくなります。朝食はタンパク質と発酵食品を一口でも。血糖のジェットコースターを避けることが、不安の波を小さくします。加えて、通勤の歩行で意識的に腕を振ると、前向きさや意欲に関わる回路が目覚め、午前の集中が持続しやすくなります。

仕事中は“波で働く”。25分集中+5分休憩を3セット行い、15分の長め休憩で一度リセット。休憩中は画面を見ない、歩く、深呼吸のどれかを。マルチタスクを減らすコツは、通知の時間帯を決めて“まとめて確認”。会議では、話す前に「要件・背景・お願い」を一行でメモし、伝え方の誤解を減らしましょう。相手の言葉を短く言い換えて返す“聞き方”も、衝突を未然に防ぎます。午後の眠気には、15〜20分の仮眠か、白湯を飲みながら背中を伸ばすストレッチを。刺激飲料に頼るよりも、体内時計のずれを小さくできます。

夕方以降は“緩める時間”。カフェインは就寝6時間前まで。帰宅したら、15分だけ片づけや洗濯など軽い家事をし、体温を少し上げてからぬるめの入浴へ。スマホは浴室の外に置き、入浴後は照明を落として、明日の最重要タスクを1つだけメモ。これで脳の警戒モードが下がり、寝つきが安定します。寝る前の3行日記(今日できたこと・感謝・明日の一歩)も有効です。自己批判のループを断ち切り、心の回復力を鍛えます。

週末には、小さな達成を感じられる“外の予定”を1つ用意しましょう。なお、気分の波には脳内のバランスも関係します。朝の光やリズム運動で心を落ち着かせる系が働き、達成や感謝の記録は意欲の回路をやさしく刺激します。無理にハイテンションを目指すのではなく、小さな行動で“ちょうどよい”状態を積み重ねましょう。近所の公園での散歩、短時間の運動、信頼できる人と会うなど、五感と人とのつながりは回復の土台になります。朝の光、リズム運動、たんぱく質、適度な社会的交流——この4点がそろうほど、気分の安定と睡眠の質は上がります。

もし朝から胸がざわつく、ため息が増える、通勤で足が止まる日が続くなら、早めにご相談ください。休職・復職の判断は“我慢の限界”ではなく“生活機能の保ち具合”で行うのが安全です。環境調整や認知行動的アプローチ、カウンセリング、睡眠の整え方、必要に応じた薬物療法など選択肢は豊富です。一人で抱え込むほど回復は遠回りになります。