心のクリニック 医療コラム
2025年10月29日
朝の不安に振り回されないための“立て直しルーティン”

朝は心と体のギアが切り替わる時間帯です。不安や焦りが強く出やすく、「会社に行ける気がしない」「胸がざわつく」と感じる方は少なくありません。ここでは、うつや適応障害の手前で踏みとどまるための、現実的で続けやすい立て直し手順をまとめます。専門用語はできるだけ避け、今日から取り入れられる工夫に絞りました。

まずは体のスイッチを入れることから。起床後すぐにカーテンを開け、ベランダや玄関先で自然光を目に入れます。光は体内時計を整え、睡眠と覚醒のリズムを安定させます。難しければ、室内照明をしっかり点けるだけでも構いません。次にコップ一杯の水を飲み、顔を冷水で洗って感覚を目覚めさせます。ここまでで2〜3分。完璧を目指さず“形だけ”で十分です。

次に呼吸と姿勢を整えます。椅子に腰掛け、両足を床につけ、息を4拍で吸い、6拍で吐く呼吸を5回。吐く時間を長くすることで自律神経のブレーキが働き、動悸や手汗がやわらぎます。肩の力を抜き、背すじを軽く伸ばすだけで、心のざわつきは数%でも減ります。数%の減少が積み重なると、「通勤できるかもしれない」という感覚に変わります。

ここから「言葉の力」を使います。不安は曖昧なままにすると増幅します。メモに三行だけ、「今の気分」「不安の中身」「今日の最小ゴール」を書き出しましょう。例)気分:不安70/中身:上司との面談が怖い/最小ゴール:出社して席に座る。言語化は脳の混線をほどき、考えと感情を区別します。完璧な文章は不要、箇条書きで十分です。

行動は“最小のハードル”から。歯磨き→着替え→玄関まで→駅まで、のようにマス目を細かく刻み、クリアするたびに小さくガッツポーズ。手帳にチェックを入れると、小さな達成感が連鎖します。動き始めると脳内のやる気スイッチが入り、気分の惰性が切り替わります。「気分が上がったら動く」ではなく「動くから気分が追いつく」です。

通勤が特に負担な方は、「時差通勤」や「一駅だけ歩いてみる」などの通勤訓練を検討しましょう。会社と相談できるなら、午前中は在宅、午後は出社などのハイブリッドも現実的です。無理を重ねて体調を崩すより、段階的に負荷を上げるほうが結果的に復調は早く、欠勤や休職のリスクも下げられます。

もし「会社の玄関で足が止まる」「朝の嘔気や動悸で遅刻・欠勤が続く」といった状態が2週間以上続くなら、我慢比べをやめ、精神科・心療内科に相談してください。必要に応じて、睡眠や自律神経に配慮した薬物療法や、思考と行動のクセを整えるカウンセリングを併用します。休職が視野に入る場合でも、目的は“逃げる”ことではなく“未来のキャリアを守るための整備”です。主治医と職場の産業保健、家族をつなぐことで、復職の道筋は具体化します。

生活の土台も忘れずに。朝のたんぱく質と温かい汁物、日中の短い日光曝露、軽い有酸素運動は、睡眠の質と日中の集中力を押し上げます。コーヒーは起床後90分以降、昼過ぎまでに。就寝前のスマホは画面の明るさを落とし、ベッドでは“寝る以外をしない”。これらはどれも地味ですが、積み重ねると不安の波を小さく均します。

最後に合言葉を。「0点か100点か」ではなく「今日は55点でOK」。揺れを前提に“毎朝の立て直しルーティン”を回すほうが、長期的にはうつ・不安の再燃を防ぎ、キャリアと生活を守ります。できたところに焦点を当て、できなかった分は翌日に回しましょう。