心のクリニック 医療コラム
2025年10月23日
睡眠障害のすべて – 種類・原因・リスク・治療とセルフケア

睡眠障害のすべて – 種類・原因・リスク・治療とセルフケア

日本人の生活の中で「睡眠の質が低い」「朝起きても疲れが取れない」といった悩みを抱える人は少なくありません。日本睡眠学会の報告では、慢性不眠の有病率は約20%とされ、5人に1人以上が何らかの睡眠の問題を抱えています。厚生労働省が公表した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、睡眠は栄養・運動・休養と並ぶ健康習慣の柱と位置づけられており、現代人にとって睡眠の質の改善は重要な健康課題になっています。
本コラムでは精神科クリニックの視点から睡眠障害の全体像を捉え、種類や原因、リスク、治療法、セルフケアまで幅広く解説します。眠りに悩む方やそのご家族が適切な知識を得るための参考にしてください。

夜空の下で眠る人

睡眠障害とは?

睡眠障害の定義と重要性

睡眠障害とは「十分な時間寝ているのに日中に強い眠気がある」「寝つきが悪い」「夜中に何度も目が覚める」など、睡眠の質や量が損なわれ日常生活に支障をきたす状態を指します。睡眠障害は70種類以上存在するとされ、単なる寝不足とは異なり、環境が整っているのに眠れない場合や、自身の意思に反して過剰に眠ってしまう状態も含まれます。成人が健康を維持するためには平均7〜8時間の睡眠が推奨されますが、睡眠不足や睡眠障害が長期化すると集中力や判断力の低下だけでなく、心血管疾患や糖尿病などの生活習慣病リスクの増加、免疫力の低下、うつ病の悪化など、全身の健康に深刻な影響を及ぼします。

睡眠障害の分類(ICSD‑3)

日本睡眠学会が採用する国際分類(ICSD‑3)では睡眠障害を以下の6群に分類しています。各カテゴリーによって症状や原因、治療法が異なるため、自分の状態を知ることが重要です。

カテゴリー 主な疾患・特徴
不眠症 寝つきが悪い(入眠困難)、途中で目覚める(中途覚醒)、早朝に目が覚める(早朝覚醒)、熟眠感がないなど。原因はストレス、身体疾患、精神疾患、薬物やアルコールなど多岐にわたります。
睡眠関連呼吸障害群 睡眠時無呼吸症候群(閉塞性・中枢性)が代表。睡眠中の呼吸停止により低酸素血症を起こし、いびきや日中の眠気を引き起こします。
中枢性過眠症群 ナルコレプシー、特発性過眠症など。夜に十分睡眠をとっても日中に耐え難い眠気や居眠りが起こります。情動脱力発作や入眠時幻覚が見られることもあります。
概日リズム睡眠・覚醒障害群 体内時計の乱れにより睡眠と覚醒のタイミングが社会的なスケジュールと合わなくなる。睡眠相後退症候群などが含まれ、不規則な生活や交代勤務、海外渡航による時差が原因となります。
睡眠時随伴症群 睡眠中の異常行動や感覚が現れるもの。レム睡眠行動障害では夢の内容に合わせた行動をとったり叫び声を上げたりします。睡眠時遊行症(夢遊病)では深い眠りの段階で起き上がって歩き回ります。
睡眠関連運動障害群 むずむず脚症候群や周期性四肢運動障害など。足に不快な感覚が生じて眠れない、睡眠中に足が無意識に動いて目が覚めるなどの症状があります。

不眠症のタイプと症状

不眠症には大きく4つのタイプがあります。

  • 入眠困難 – ベッドに入ってもなかなか寝付けず、寝つきに30分以上かかることが多い。
  • 中途覚醒 – 夜中に何度も目が覚め、その後再び眠るまで時間がかかる。
  • 早朝覚醒 – 予定よりかなり早く目が覚めてしまい、その後眠れない。
  • 熟眠障害 – 睡眠時間は確保しているのにぐっすり眠った感じがせず、日中の眠気や疲労感が残る。

不眠症状が1か月以上続き、日常生活や仕事に支障をきたす場合は「慢性不眠症」と診断されます。不眠症の患者は高齢者や女性に多く、原因として精神的ストレス、生活習慣の乱れ、身体疾患(疼痛・呼吸器疾患など)、薬物やアルコールの影響などが挙げられます。

過眠症(中枢性過眠症群)

過眠症は夜十分な睡眠をとっているにもかかわらず日中に耐え難い眠気が生じる状態で、ナルコレプシーと特発性過眠症が代表です。ナルコレプシーでは、強い眠気に加え、感情が高ぶると体の力が抜ける情動脱力発作や入眠時幻覚・睡眠麻痺(いわゆる金縛り)が生じることがあります。特発性過眠症は長時間睡眠と起床困難を特徴とし、目覚めが悪く眠気をある程度我慢できる点がナルコレプシーと異なります。原因は脳内の覚醒を司る神経系の機能低下と考えられています。

睡眠関連呼吸障害

睡眠関連呼吸障害の代表は閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)で、舌根が喉に落ち込んで気道が閉塞し、睡眠中に何度も呼吸が止まる疾患です。いびきや日中の強い眠気が特徴で、肥満や扁桃腺肥大が発症リスクとされます。治療せず放置すると心血管系疾患や糖尿病など重大な病気を引き起こすおそれがあり、中等症以上(無呼吸指数AHI≥15)の罹患者は日本国内で約943万人と推定されますが、実際に診断された人は少ないのが現状です。

概日リズム睡眠・覚醒障害

概日リズム障害は体内時計(サーカディアンリズム)が環境や社会生活のリズムと合わなくなることで生じます。たとえば睡眠相後退障害では極端な夜型生活になり、深夜にならないと眠気が訪れません。原因として不規則な生活や交代勤務、海外旅行による時差などがあり、遅寝遅起きや長時間の昼寝が症状を悪化させます。適切な光曝露や起床・就寝時刻の調整、メラトニン受容体作動薬などで改善が期待できます。

睡眠関連運動障害

むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)は睡眠関連運動障害の代表で、足に不快な感覚が生じて眠れない病気です。人口の2〜4%にみられ、特に女性に多いとされ、鉄欠乏やドパミン系の機能低下が関与します。足がむずむずする、痛む、虫が這うような感覚があり、身体を動かすと症状が軽くなるのが特徴です。周期性四肢運動障害では睡眠中に足が勝手にピクピク動き、しばしば目が覚めてしまいます。

睡眠時随伴症

睡眠時随伴症は睡眠中に異常な行動や体験が起こる病態です。レム睡眠行動障害ではレム睡眠中の筋弛緩が保たれず、夢の内容に合わせた行動をとったり叫び声を上げたりします。睡眠時遊行症(夢遊病)は深い眠りの段階で起き上がって歩き回るものです。これらはPTSD、パーキンソン病、レビー小体型認知症など基礎疾患と関連することがあります。

睡眠障害の原因・リスク要因

心理的ストレスとライフスタイル

睡眠障害の主要な原因は精神的ストレスやライフスタイルの乱れです。仕事のプレッシャーや人間関係の悩み、家庭内トラブルなどによって交感神経が高まり、寝つきが悪くなります。不規則な就寝・起床時刻、長時間の昼寝、寝酒やカフェイン摂取、就寝前のスマートフォンやゲーム利用も体内時計を乱し不眠を招きます。
一方、孤独感や社会的孤立は睡眠の質を著しく低下させます。孤独感を持つ人は寝つきが遅く夜中に目が覚めやすいことが報告されており、家族や友人とのつながりを大切にすることが睡眠改善の鍵となります。

身体疾患・精神疾患

睡眠障害は身体疾患の症状として表れることもあります。甲状腺機能亢進症や慢性疼痛、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)は不眠の原因となります。うつ病や不安障害、統合失調症など精神疾患では睡眠障害が主症状として現れる場合があります。また、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群など睡眠自体に関連する疾患も原因になります。

薬物・アルコール

カフェインやニコチンには覚醒作用があり、寝つきを妨げます。アルコールには一時的に眠気を誘う作用がありますが、夜半に代謝される際に興奮物質が生成され睡眠が浅くなるため、寝酒は不眠の遷延因子です。睡眠薬の長期使用による薬剤性不眠や、ステロイドや抗うつ薬など他の薬の副作用も睡眠障害の原因になります。

年齢・性別・遺伝要因

高齢者では生理的に睡眠時間が短くなり、浅いノンレム睡眠が増えるため熟眠感が得にくくなります。女性はホルモンバランスの変動やむずむず脚症候群の有病率が高いことから睡眠障害が男性より多いとされています。ナルコレプシーには遺伝的要素が関与している例もあり、家族歴を問診することが重要です。

睡眠障害が及ぼす健康への影響

生活習慣病への影響

不眠症状のある人はそうでない人に比べて糖尿病発症リスクが約2〜3倍、高血圧になる危険性が約2倍高いことが報告されています。睡眠不足や睡眠中断により耐糖能が低下し、肥満や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の発症・悪化に関与します。睡眠時無呼吸症候群では夜間低酸素血症が交感神経緊張やインスリン抵抗性を促し、心疾患や脳血管障害のリスクを高めます。

精神健康と事故リスク

睡眠休養感が低い人ほど抑うつの度合いが強く、慢性的な不眠は不安やイライラを増長し、うつ病の誘因や増悪要因となります。睡眠不足は注意力や反応時間を著しく低下させ、職場の事故や交通事故の原因となります。研究では睡眠時間が短いほど単純作業のミスが増えることが示されており、自分では眠気を感じていなくても作業効率が落ちている可能性があります。

経済的損失と社会的影響

慢性的な睡眠不足は労働生産性の低下を招き、企業や社会全体の経済的損失につながります。近年の世界調査では日本人の平均睡眠時間は6.45時間と調査対象国中で最短であり、睡眠の質に満足していないと答えた日本人は40%にも上りました。週に3日以下しか良質な睡眠がとれていないと答えた人は57%に達し、睡眠習慣の改善が急務であることが示されています。

睡眠障害の診断と検査

睡眠不足か睡眠障害かを判断する

日中の疲労感があっても、単に睡眠時間が足りていないだけの場合があります。成人には少なくとも7〜8時間の睡眠が必要で、睡眠障害では環境や時間が整っていても眠れないのが特徴です。まずは睡眠日誌をつけて就寝時刻・起床時刻・睡眠の質・カフェインやアルコール摂取などを記録し、生活習慣や不眠の原因を探ることが重要です。

医療機関で行われる検査

睡眠障害が疑われる場合、まず問診と診察で身体疾患や薬物の影響の有無を確認し、必要に応じて次のような検査が行われます。

  • 睡眠ポリグラフ検査(PSG) – 脳波、心電図、筋電図、呼吸、眼球運動などを同時に記録し、睡眠の深さや睡眠中の異常を評価します。
  • 睡眠時無呼吸検査(SAS検査) – 睡眠中の呼吸停止や低呼吸を検出し、無呼吸指数(AHI)を算出します。
  • 反復睡眠潜時検査(MSLT) – 日中に複数回仮眠をとってもらい、眠りに落ちるまでの時間やレム睡眠の出現を調べます。ナルコレプシーの診断に用いられます。

睡眠障害が疑われる際は、まず内科やかかりつけ医を受診し、必要に応じて専門医へ紹介してもらうのが良いでしょう。精神的ストレスやうつ病が背景にある場合は精神科・心療内科が、睡眠時無呼吸症候群なら呼吸器内科や耳鼻咽喉科が適しています。ナルコレプシーなど中枢性過眠症は神経内科の専門診療が必要です。

治療法 – まずは生活習慣改善から

睡眠障害の治療は大きく非薬物療法(睡眠衛生指導・認知行動療法など)と薬物療法に分かれます。世界のガイドラインでは、不眠症治療の第一選択は認知行動療法(CBT‑I)であると明言されています。睡眠衛生指導のみではエビデンスが乏しく、単独での使用は推奨されません。

睡眠衛生指導 – 生活習慣の見直し

睡眠衛生とは睡眠の質を高めるための習慣や環境を整えることです。厚生労働省の「睡眠5原則」と医療機関の実践指導を参考に、以下のポイントを心がけましょう。

  • 適度な長さで休養感のある睡眠 – 成人では6時間以上を目安に、自分に合った睡眠時間を確保し、寝不足と寝過ぎの両方を避けます。
  • 寝室環境を整える – 部屋は暗く静かにし、温度は少し涼しめを保ちます。時計やスマホを枕元に置くと時間が気になり眠れなくなるため控えます。マットレスや枕を自分に合ったものに替えるのも有効です。
  • 規則正しい生活リズム – 毎日同じ時間に起床・就寝し、週末の寝だめを避けます。決まった時間に食事をとり体内時計を整えましょう。30分程度の昼寝はOKですが1時間以上の昼寝は避けます。
  • 刺激物を避ける – 寝る前4〜5時間はカフェインやアルコール、ニコチンを控えましょう。寝酒は睡眠の質を悪化させるため適量でも避けるのが無難です。
  • 寝る前のリラックスとルーティン – 就寝前に軽いストレッチや深呼吸、読書など決まったルーティンを作ると入眠がスムーズになります。就寝直前までスマホやパソコンのブルーライトを浴びると覚醒度が高まるので控えましょう。
  • 日中の活動・運動 – 日中の運動は睡眠の質を高めます。朝起きたら太陽の光を浴び、適度な運動やしっかりと朝食を取ることで体内時計がリセットされます。
  • ベッドは寝るときだけ – 布団やベッドでは睡眠と性交渉以外の活動をしないようにし、読書や仕事は別の場所で行います。これにより脳が「ベッド=寝る場所」と学習し、入眠しやすくなります。
  • 孤独感の解消 – 人との交流が睡眠の質を高めるという研究があり、家族や友人とのコミュニケーションを意識的に取りましょう。

認知行動療法(CBT‑I)

不眠症に対する認知行動療法は、睡眠に対する誤った考え方や行動パターンを修正し、睡眠リズムを正常化する治療です。臥床時間制限(睡眠制限)と刺激統制が特に有効であり、治療開始後8週間時点での寛解率は薬物療法より高く、24週時点でも効果が持続することが報告されています。最近はオンラインでCBT‑Iを提供するサービスも広がっており、遠隔地でも受けられるようになっています。

薬物療法

生活習慣の見直しやCBT‑Iでも改善が見られない場合や、急性期の不眠で日中の生活に大きな支障がある場合には薬物療法が検討されます。ただし、睡眠薬は依存や耐性、転倒リスクなどの副作用があり、医師の指示に従って使用することが重要です。近年は従来のベンゾジアゼピン系に比べ依存性が少ない薬剤や新しい作用機序の薬剤が登場しています。

薬剤カテゴリー 作用機序と特徴 主な薬剤例
オレキシン受容体拮抗薬 覚醒を維持する神経伝達物質「オレキシン」の受容体を阻害し、眠りを促します。依存性が少なく、入眠困難や睡眠維持困難の両方に有効とされています。ダリドレキサントは2024年に日本で承認された新薬で、入眠潜時の短縮や睡眠時間の増加、日中の眠気や集中力の改善が報告されています。 スボレキサント、レンボレキサント、ダリドレキサント
メラトニン受容体作動薬 体内時計を調節するホルモン「メラトニン」の受容体に作用し、概日リズムを整えます。高齢者や入眠困難型の不眠に用いられます。依存性が少ないものの効果は穏やかで睡眠維持には弱いとされます。 ラメルテオン(ロゼレム)
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬 ベンゾジアゼピン受容体に選択的に作用して入眠を助けます。従来のベンゾジアゼピン系より記憶障害や依存性が少ないものの、運転や高所作業に影響することがあります。 エスゾピクロン(ルネスタ)、ゾルピデム(マイスリー)など
ベンゾジアゼピン系睡眠薬 GABA受容体に作用し強力な催眠・抗不安作用を示します。即効性が高い一方で耐性や依存、筋弛緩による転倒リスクが問題となり、現在は第一選択ではなく短期使用が推奨されます。 トリアゾラム(ハルシオン)など
抗うつ薬・抗ヒスタミン薬 うつ病や不安障害を伴う不眠に対して鎮静作用を利用します。抗ヒスタミン薬は市販薬としても利用されますが、効果は弱く持続しません。 ミアンセリン、ドキセピン、ジフェンヒドラミンなど

睡眠薬の処方にあたっては薬の効果と副作用、依存性について十分な説明を受け、最小限の用量で開始し可能な限り短期間にとどめることが重要です。薬の効果が薄れてきた場合は漫然と増量せず、医師に相談して根本的な治療(CBT‑Iや生活習慣改善)に立ち返る必要があります。

補完療法・セルフケア

不眠治療には補完療法やセルフケアも取り入れられます。瞑想や深呼吸、軽い運動やストレッチ、ハーブティーやアロマなどは心身をリラックスさせる効果があり、就寝前の習慣として取り入れやすいでしょう。またウェアラブルデバイスによる睡眠計測で自身の睡眠パターンを把握し、生活習慣の改善に役立てる人も増えています。ただし、厚生労働省eJIMでは不眠症治療に最も推奨されるのは認知行動療法であり、単独のリラクゼーション法やメラトニン補充は効果が限定的で長期的な安全性が確立していないと指摘しています。

具体的な睡眠障害の治療例

不眠症治療の流れ

不眠症の場合、以下のような流れで治療が進められます。

  1. 症状把握と治療の必要性判定 – 入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒などの症状や日中の眠気・作業効率低下を確認し、治療が必要かどうかを判断します。
  2. 睡眠衛生指導・生活習慣改善 – 寝室環境の整備や起床・就寝時刻の固定、カフェイン制限など基本的な睡眠衛生を指導します。
  3. 認知行動療法(CBT‑I) – 睡眠日誌を用いて睡眠パターンを把握し、臥床時間制限や刺激統制などを実施します。
  4. 薬物療法 – 上記手段で改善しない場合、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬など依存性の少ない薬から検討します。ベンゾジアゼピン系は急性期に短期間だけ使用し、長期投与は避けます。
  5. 原因疾患の治療 – 睡眠時無呼吸症候群にはCPAP療法やマウスピース治療、肥満があれば減量・生活指導を行います。むずむず脚症候群では鉄欠乏が原因の場合は鉄剤補充を、特発性過眠症では中枢神経刺激薬を用いることがあります。

過眠症治療

ナルコレプシーでは日中の睡眠発作を抑えるためにモダフィニルやメチルフェニデートなど中枢神経刺激薬が用いられます。情動脱力発作には抗うつ薬が効果を示すことがあります。特発性過眠症ではモダフィニルやメチルフェニデートに加え、最近ではオレキシン作動薬が研究されています。また規則正しい睡眠時間の確保と短時間の昼寝(パワーナップ)も有効です。

睡眠関連呼吸障害治療

閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療には、夜間に一定の気圧を送るCPAP療法が最も効果的です。軽症例では減量や横向き寝の推奨、口腔内装置(マウスピース)による治療が選択されます。扁桃肥大や鼻閉が原因の場合は外科的治療が検討されます。

概日リズム障害治療

体内時計を整えるため、朝に日光を浴びる光療法や就寝前のブルーライト遮断を行います。メラトニン受容体作動薬の服用で眠気を誘発し、就寝時刻を前進させることができます。起床・就寝のスケジュールを毎日同じ時間に保つことも重要です。

むずむず脚症候群治療

鉄欠乏があれば鉄剤を補充し、ドパミン作動薬やアルファ2デルタリガンド(プラミペキソール、ガバペンチンなど)が使用されます。カフェインやアルコールの制限、適度な運動も症状軽減に役立ちます。

統計データと日本の現状

日本人の睡眠の傾向

ResMedが実施した世界睡眠調査2024では、日本人の平均睡眠時間は6.45時間で調査国中最短でした。日本人の40%が睡眠の質に満足していないと回答し、世界で最も高い割合でした。中途覚醒が起こる人の割合は42%と世界平均を大きく上回り、週3日以下しか良質な睡眠がとれていないと答えた人は57%に達しました。これらのデータから、日本人の睡眠不足と睡眠の質の低下が深刻であることが示されています。

不眠症と生活習慣病の関連

慢性的な不眠や睡眠不足は糖尿病や高血圧症などの生活習慣病を引き起こすリスクを高め、不眠症状のある人は糖尿病リスクが約2〜3倍、高血圧リスクが約2倍になると報告されています。睡眠を改善することは生活習慣病の予防・治療に大きく寄与するため、睡眠障害を軽視せず早めに対処することが重要です。

まとめ – 眠りの力を取り戻すために

睡眠は心身の健康を支える土台であり、栄養や運動と同じくらい重要です。国のガイドラインでも睡眠不足や睡眠障害への対策が強調されており、睡眠は生活習慣病やメンタルヘルスの予防と密接に関わっています。睡眠障害には多様な種類があり、それぞれ原因や対策が異なります。不眠症や睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群などは治療によって症状改善が期待できるため、「たかが睡眠」と放置せず専門医に相談することが大切です。
まずは生活習慣の見直しから始め、睡眠衛生のポイントや睡眠5原則を実践しましょう。改善が見られない場合は認知行動療法や適切な薬物療法を受けます。最近ではオレキシン受容体拮抗薬など依存性の少ない新しい薬剤も登場しており、選択肢は広がっています。また、睡眠障害は生活習慣病や精神疾患のサインであることも多く、睡眠の不調が続く場合には医師の診察を受けることで重篤な病気の早期発見にもつながります。
良質な睡眠を得ることは、日中の生産性と幸福感を高め、長期的な健康を守る鍵です。精神科クリニックでは睡眠外来を設置して睡眠障害の相談に応じています。眠りの悩みを抱えている方は、ぜひ専門医にご相談ください。