心の調子を立て直すとき、特効薬のような“ひとつの正解”はありません。うつや不安、適応障害の背景は人それぞれだからです。そこで役立つのが、毎日ぶれずに積み上げられる「土台作り」。なかでも効果が出やすいのは、①睡眠の整備 ②腸から脳への良い刺激 ③軽い運動 ④言葉の使い方の見直し、の四本柱です。休職中の方は復職準備(リワーク)の基盤に、就労中の方は予防と再発防止に活かせます。
まずは睡眠。心療内科や精神科で推奨される方法に、ベッド=睡眠の合図に戻す「刺激制御」があります。眠くなってから床に就く、眠れなければいったん寝床を離れる、朝は同じ時刻に起きる、日中の長い昼寝を避ける――こうした基本動作は、寝つきと中途覚醒の両方を改善します。さらに朝の強い光を浴びると体内時計が前に進み、夜のメラトニン分泌が整い寝つきが助けられます。冬場でも起床後に屋外へ出る、通勤時に意識して日光を浴びる、といった小さな工夫で十分です。
次に腸から脳へのアプローチ。私たちの体内のセロトニンの大半は腸で作られ、迷走神経などを通じて脳の働きに影響します。朝食でたんぱく源や食物繊維をとり、よく噛む「リズム刺激」を与えること、昼に軽く歩くことは、腸の動きと気分の安定を同時に支えます。便通の乱れや腹部の違和感はストレスのサインでもあるため、整える価値は大きいのです。腸と睡眠を整える取り組みは、うつ、不安、ストレスの軽減と好循環を生みます。
三つ目は運動。激しいものでなくて構いません。復職を目指す時期は、朝の散歩や通勤の一駅分ウォークがちょうどよい強度です。決まった時間に体を動かすと体内時計が安定し、日中のドーパミン活性が高まり、集中力と意欲の回復に寄与します。週の計画に「朝10分の外歩き」「昼休み5分の階段」など、実行しやすい形で書き込むのがコツです。
最後は言葉の使い方。ネガティブな自己対話(例:「どうせ自分はできない」)は、不安や緊張を増やし睡眠も乱します。完璧さを手放し、「今日できた最小単位」を言語化して認める習慣に切り替えましょう。仕事がつらい時期こそ、「今の自分にできる一歩」を具体化して口に出す。これはカウンセリングで用いられる認知行動的な手法で、復職後の再発予防にも効きます。
以上の四本柱は、休職・復職の道のり全体を支える“共通装置”です。短期の結果より、毎朝の実行率を大切にしてください。朝の光、腸に優しい食事、軽い運動、現実的な言葉――この順番で一日を始めれば、メンタルの回復は確かな足取りになります。