心療内科 日吉心のクリニック

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こころのお薬について

抗精神病薬

そもそも抗精神病薬とは何か

幻覚や妄想などの精神病症状は、脳内の(とりわけ、中脳辺縁系における)ドーパミン神経系の過活動が原因である、との説(ドーパミン仮説)が有力です。この仮説が正しいと仮定すれば、ドーパミン神経系の活動を抑制できれば幻覚や妄想を軽減できる、ということになります。抗精神病薬は、「神経から神経へのドーパミン伝達を遮断する薬」と考えていただければ、おおむね間違いはありません。

 

歴史

薬物療法についての大きな発見は偶然によるものが少なくありませんが、抗精神病薬もその一つです。第二次世界大戦の頃、マラリア特効薬の開発競争が盛んになった過程でいくつかの偶然が重なり、クロルプロマジンの合成に至りました。1952年3月に医療機関で初めて用いられ、その治療効果が医学会で発表されて以降、カナダの病院を中心にクロルプロマジンの使用が急速に広まりました。しかし、クロルプロマジンをはじめとした古典的な抗精神病薬(= 第一世代抗精神病薬)が持つ課題として、錐体外路症状(extrapyramidal side effect: EPS)も浮き彫りとなりました。震えなどのパーキンソン症状や、下半身がソワソワして落ち着かなくなるアカシジア、不随意運動であるジストニア・ジスキネジアは、しばしば苦痛を伴う副作用として出現することがあります。錐体外路症状を有しない抗精神病薬として1959年に開発されたクロザピンは、1972年にヨーロッパで使用可能となりましたが、無顆粒球症という重篤な副作用が現れることがあり、いったん、医療現場から姿を消した経緯があります。(1989年から、白血球数のモニタリングを継続する等を条件に使用が再開されました。)1990年代には、錐体外路症状が軽減された第二世代抗精神病薬が複数開発され、現在の主流となっています。

 

日本で用いられている抗精神病薬

フェノチアジン系

前述のクロルプロマジンは、この系統に属します。この系統の薬剤はフェノチアジン環を持つため、このように呼ばれています。ドーパミン遮断作用、抗α1作用・抗H1作用・抗コリン作用を持ちます。

ドーパミン遮断作用:幻覚や妄想などを軽減
抗α1作用:血管収縮を抑制。血圧低下や立ちくらみ(起立性低血圧)
抗H1作用:眠気、鎮静、体重増加
抗コリン作用:パーキンソン症状の軽減、便秘、口の渇き、排尿障害など

【日本で処方可能なフェノチアジン系抗精神病薬】
クロルプロマジン(ウインタミン、コントミン)
レボメプロマジン(ヒルナミン、レボトミン)
ペルフェナジン(ピーゼットシー、トリラホン)
フルフェナジン(フルメジン、フルデカシン)
プロクロルペラジン(ノバミン)
プロペリシアジン(ニューレプチル)

※( )内は商品名

 

ブチロフェノン系

ドーパミン遮断作用は強力ですが、抗α1作用、抗H1作用、抗コリン作用は軽度です。
抗コリン作用が弱い分、錐体外路系の副作用(パーキンソン症状としての振戦、アカシジアなど)は出やすくなるため、ブチロフェノン系を増量する際、抗コリン薬(アキネトン、タスモリン、アーテンなど)の併用を要することが多くなります。

【日本で処方可能なブチロフェノン系抗精神病薬】
ハロペリドール(セレネース、ハロステン、リントンなど)
ブロムペリドール(インプロメン)
ピペンペロン(プロピタン)
スピペロン(スピロピタン)
チミペロン(トロペロン)

※( )内は商品名

 

ベンザミド系

ドーパミン遮断作用を有するため抗精神病薬に分類されていますが、日本で用いられている4種類のベンザミド系薬物は個性に富んでおり、以下のように使用目的もかなり異なります。

【日本で処方可能なベンザミド系抗精神病薬】
スルピリド(ドグマチール、アビリット、ミラドール)
:胃潰瘍・十二指腸潰瘍の改善、少量にて抗うつ作用、中等量以上で幻覚妄想を抑制
スルトプリド(バルネチール)
:抗幻覚作用はやや弱いが、鎮静作用が強いため、躁病性興奮にも用いられる
チアプリド(グラマリール)
:攻撃性の抑制、せん妄の軽減、ジスキネジアの軽減に用いる
ネモナプリド(エミレース)
:強力なドーパミン遮断により幻覚妄想状態を抑制する

※( )内は商品名

 

多元受容体標的化抗精神病薬
(Multi-Acting-Receptor-Targeted Antipsychotics, MARTA)

読んで字のごとく、「たくさんの受容体に作用する抗精神病薬」です。日本では以下の薬剤がMARTAに位置付けられています。オランザピン、クエチアピン、アセナピンそれぞれの詳細は別の記事で説明したいと思いますが、ここでは、MARTAの原型ともいえるクロザピンについて、少しだけ触れておきたいと思います。

【クロザピン】
抗精神病薬の開発の歴史を語る上で、大きな分岐点となっている重要な薬剤です。現在、統合失調症の治療において主役の位置を占める第二世代抗精神病薬は、‟クロザピンの長所のみを持った理想的な抗精神病薬を追い求める過程で生まれた”と言ってよいかもしれません。
D1受容体(ドーパミン1受容体)、D2受容体、D4受容体、5-HT2受容体、5-HT3受容体、5-HT2C受容体、ムスカリン性アセチルコリン受容体、α1受容体、H1受容体に対して複雑に作用することで効果を発揮することはわかっているものの、なぜ、薬物治療抵抗性の統合失調症でも有効性を発揮できるのかを含め、詳細はいまだ不明です。1960年以降、ヨーロッパで用いられるようになったクロザピンは、第一世代抗精神病薬で問題になっていた錐体外路系の副作用を起こさないことで注目を集めましたが、この薬剤に特徴的である重篤な副作用(無顆粒球症:免疫細胞の一種である顆粒球が消失する血液異常)が13人に認められ、うち8人が死亡したというフィンランドでの報告を機に、医療現場から一度は姿を消しています。その後、第一世代抗精神病薬では改善しない場合(薬物治療抵抗性)でクロザピンが有効であるケースが少なくないことや、無顆粒球症による感染症が発症する前に服用を中止すれば、ある程度はリスクを回避できることが明らかとなり、慎重な管理を行うという条件で再び使用可能となっています。

参照:クロザリル患者モニタリングサービス

【日本で処方可能な多元受容体標的化抗精神病薬】
オランザピン(ジプレキサ)
クエチアピン(セロクエル、ビプレッソ)
アセナピン(シクレスト)
クロザピン(クロザリル)

※( )内は商品名

 

セロトニン・ドーパミン遮断薬(serotonin-dopamine antagonist: SDA)

ドーパミン2受容体(D2受容体)とセロトニン2受容体(5-HT2受容体)を同時に遮断する作用があります。

(1)中脳辺縁系のドーパミンを遮断することで幻覚妄想状態を軽減する
(2)黒質線条体におけるシナプス前のセロトニンを遮断することで、シナプス後部に対するドーパミン放出を促し、錐体外路系の副作用を軽減する

の2点がSDAの作用メカニズムです。(1)は、ドーパミン仮説を思い出していただくと理解しやすいと思います。(2)については、後述するSDAM(レキサルティ)の作用機序とも共通している部分です。難解ですので、ご興味のある方は主治医の先生にご質問いただくことをお勧めします。

【日本で処方可能なセロトニン・ドーパミン遮断薬】
リスペリドン(リスパダール、リスパダールコンスタ)
インヴェガ(パリペリドン、ゼプリオン)
ペロスピロン(ルーラン)
ブロナンセリン(ロナセン)

※( )内は商品名

 

ドーパミン受容体部分作動薬(Dopaminergic Partial Agonist: PDA)

作用メカニズムは、以下の2つです。

(1)ドーパミンが多すぎる状況ではドーパミンを抑制する方向に働く
(2)ドーパミンが少なすぎる状況ではドーパミンを刺激する方向に働く

ドーパミンの上がりすぎ・下がりすぎを防ぐお薬ですので、近年では、ドーパミン・システム・スタビライザー(DSS)とも呼ばれるようになっています。stabilizeは「安定させる」という意味ですので、こちらのほうがイメージしやすいかもしれません。

・ドーパミンが多すぎて困る状態:統合失調症、躁病(の一部)
・ドーパミンが少なくて困る状態:薬剤性パーキンソン症候群、うつ病(の一部)

上記のような状態、すなわち、統合失調症・躁病・うつ病などに効果がありますが、ドーパミンを抑制しすぎないことで、薬剤性パーキンソン症候群などの副作用が軽減も期待されます。

【日本で処方可能なドーパミン受容体部分作動薬】
アリピプラゾール(エビリファイ)

※( )内は商品名

 

Serotonin-Dopamine Activity Modulator:SDAM

文字通り、「セロトニンとドーパミンの活動性を調整するお薬」です。(すっきりした日本語訳がなく、そのままSDAMと読まれています。)

作用メカニズム:

1.ドーパミン2受容体(D2受容体)の部分作動薬
ドーパミンが過剰な状況(統合失調症)ではドーパミンに抑制的に働き、
ドーパミンが少ない状況(うつ病など)ではドーパミンに刺激的に働く。

2.セロトニン1A受容体(5-HT1A受容体)に対する部分作動薬
抑うつや不安に対して効果が期待される。
(実際に、アメリカでは、うつ病の補助療法にも用いられます)

3.セロトニン2受容体(5-HT2受容体)に対する遮断作用
錐体外路症状などの副作用をもたらすドーパミン遮断を軽減する。

【日本で処方可能なSDAM】
ブレクスピプラゾール(レキサルティ)

※( )内は商品名

 

(文責:日吉心のクリニック 新開)

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